2-02 魔力修行です。ルトナ。

2-02 魔力修行です。ルトナ。



 きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 って、後ろにいたのはルトナでした。


「ディアちゃんずるい~」


 そこにはすごいふくれっ面のルトナが立っていた。彼女はまだ魔力撃に成功していないのです。

 しかしずるいっていわれても…ねえ。


「ほらほら、ディアちゃんができたんだからルーにもできるよ。膨れてる暇があったら練習練習。魔力制御っていうのは練習すればできるものだからね。必ずできるから」

「ぷーっ」


 ふくれっ面で抗議をしてからまた練習を始めるルトナ。

 俺はそれを少し離れたところで見ている。今日はキャンプを張るのが早くて時間に余裕がある。


「しかしさすがに私の娘だな、ルティーなら必ずできると私も確信しているよ。呼吸はまだお留守になる時が多いが、じきにできるようになるさ」


 親ばか…ではなく先達としての意見だろう。たぶん。

 だが魔力が見える俺には別に見えるものもある。


 動きはいい、リズムもいい。だがシャイガさんの言う通り呼吸が乱れがちで魔力の練りが足りないように見える。

 呼吸に合わせて魔力エナが取り込まれている。それは間違いない。だけどそれが身体中に広がって練り上げるという所に行っていない。

 これは多分魔力を『練る』ということがよくわかっていないせいだと思う。


 そしてもう一つ。魔力を放つ時のイメージというか魔力の定義が甘い。


 これは以前の俺の過ちと同じものだ。

 イメージがあやふやで形になっていないのだ。


 ただルトナの場合は経験不足。イメージをすると言っても見たことも聞いたこともない物をイメージするのは難しい。

 俺の方はテレビを中心にイメージはいくらでも在庫があると言えるが、ルトナが生きてきた十二年の時間で十分なイメージを構築するのは困難なのだろうと思う。


 何とかしてやれないだろうか…


 ◆・◆・◆


 その夜


「なにしてるの?」


「うーん、座禅? 魔力を練る練習」


 今日の練習は魔力撃の実践などがあった所為で早めに終わった。

 なので俺が車の外で座禅を組んでいるとルトナが話しかけてきた。ちなみに親二人はイチャイチャしている。

 俺が来る前はそこにルトナが加わって団らんだったらしいのだが、ルトナが俺といることが多くなるにつれて親二人は自然と甘い時を過ごすようになっていた。

 下の兄弟が生れるのも間近かもしれない感じだ。


「座禅って何?」


「うん、こうやって足を組んで魔力の循環を練習するんだよ…ルトナもやる?」


 とはいっても俺の座禅などなんちゃって座禅だ。

 前世で本を読んで仕入れた断片的な知識をつなぎ合わせてやっている。エルメアさんたちに教わった練習方法にちょっとスパイスを加えてアレンジするようなものだ。


 魔力というのはこの世界ではエナとよはれているが、気とかソーマとかプラーナとか、そう言った霊的なエネルギーのことを指していると考えていいようだ。

 だから気功とか、瞑想も効果があるはず。

 ああいうのはなんというか世界が持っている根源的な生命力のようなものだと思うから。


 それに俺は魔力を見ることができる。そして見えるそれらを動かすことができる。だから効率的に自分の中で魔力を循環させられる。

 この訓練での一番の収穫は自分の中に魔力が循環するラインが生れたことだろう。


 だが同時に俺の魔力撃はインチキともいえる。

 魔力を直接制御できるのだから動きや呼吸の制御などなくても破壊的な行使はできる。

 俺の魔力撃は半分魔法のなんちゃって魔力エナ撃。つまりインチキだ。


 それを見て悔しがるルトナを見ると何か申し訳なくなるのだ。だから何とかしてあげたい。

 で、そう言うことなら俺の知識は役に立つかもしれない。

 だったらこれをルトナに教えよう。


「うん、やってみる」


 と本人も言っているしね。


 というわけでルトナを草の上で座禅させる。

 獣人の人は体が柔らかくて簡単に結跏趺坐をやってのける。まあ俺もできたけどね。


 そのうえでルトナにはエルメアさんから教わった呼吸法をやってもらう。


 キラキラが呼吸と共にルトナに吸い込まれていって、薄く全身に広がっていく。そして吐くと同時にまた送り出されていく。

 まるで風船に空気を送り込み、吐き出しているみたいだ。


 で、シャイガさんたちはと考える。

 彼らがやるときは吸気と共に魔力が吸い込まれ、息を止める時に臍のした、丹田のあたりに集まり、呼気と共に圧縮される。吐き出されるのはいったん体を巡った古い魔力だ。これが決定的に違う。


 うーむむむむっ。


「ルー姉ってこれをやる時どんなイメージでやってる?」


「うーん、だから魔力エナが体の中に入ってきて、体の中でこう…もやもやって…ぐって」


 そうでした、ルトナの指導をしたのはエルメアさんでした。すーとすって少しとめてその時にぐっときて、はーーーっだよ。って言ってた。うん、わからんがな。


「それに魔力っていうのもなんかつかみどころがなくてよくわからないんだよね」


 うん、これもわかる。本当に空気のような当たり前でやんわりうっすらしたもの。それが魔力エナの感触だから。

 じゃあ、ちょっと魔力の濃度を上げてみよう。

 俺はルトナの周りの魔力濃度を少し上げてみた。俺の魔力操作で。


「あれ? なんか少しあったかくなって来た」

「うん、じゃあ少しポーズを変えようか」


 俺はルトナの手を取ってお臍の下、組んだ足の上で印を組ませる。両手を重ねるようにしておき、親指を上げて輪を作る。


「ルー姉、吸い込んだあったかいやつがこのわっかのところに集まって、あったかいほやほやが玉になるようなイメージで呼吸して」

「うん」


 少しするとルトナのお腹の奥。お臍の下あたりに魔力の集まり(塊まではいかない)ができたように見える。


「どう?」

「うん、お腹の奥があったかい…うん、ぽかぽか」


 うんうん良好だと思う。


「それが魔力の塊だよ。そのポカポカを強くしていくのが魔力を練るってこと。魔力が濃くていいものになるんだ。それが血の流れと一緒に全身に広がっていくんだよ」

「うーん、よくわかんないよ…どうやったら動くの?」

「動いているのを想像すれば動くんだよ、魔力ってそういうものだから、ほら」


 俺は自分の掌に魔力を集めてルトナの肩だの背中だのを軽くこする。

 これで魔力が全身に広がるような感じにならないかな?


「あっ、なんかあったかいものが…うん、熱いものが動いている」


 手は少しだけ離れているから感触は魔力の感触のはずだ。


「ああっ」


 さすが獣人武術の子。少し続けていると俺の補助なしでも魔力が循環するようになり、それに合わせて全身にも魔力が送られるようになって来た。


「私にはよくわからないなの」


 いつの間にかルトナの隣に座っていたフフルが呟いた。

 いや、あんたそもそも人間と構造が違うからたぶん… 

 

 ◆・◆・◆


 さて実はもうひとつ教えないといけないもがある。打撃の時のイメージだ。

 これは目に見える物じゃないから分かりづらいんだと思う。


「というわけで打撃のイメージの練習をしようか」

「はい」

「はいなの」


 おっ。返事に少し尊敬を感じる。

 フフル君はただ面白がっているだけだと思う。


「では打撃の時のイメージを教えます。えーっとそうだな、これは水の入った入れ物をイメージするといいかもね」


「?」


 あっ、分かんない。そうだよね。

 では魔法起動。まず水を浮かべます。うまく衝撃が伝わるのを表現できればいいけど…


 俺は空中に浮かんだ水をひっぱたいてみます。ボヨンボヨン。


「わーっ、面白い、プルンプルンしてる~」

「最高なの」


 伝わらなかった。失敗ですね。

 じゃあ次。


「ではこの水を見てください」


 今度は残っていた樽の水を使います。まず軽く樽の一方を叩きます。


 ドンという音が響いて波紋が生れ、反対側の淵にぶつかりはじけます。


「えーっとこのようにですね、衝撃というのは、伝わって全体に広がっていきます」


 まあ、これは水だからなんだけど、生き物の身体がほとんど水で出来ているというような話はしても仕方ないと思う。なので割愛。


 そしてさらに何度か樽を打って水を撥ねらかす。


「こんな感じでね、撃ったところから衝撃というか破壊の力が敵の内部に広がっていくんだよ…何となくだけど分かった?」


「うん、ありがとうイメージがつかめそう」


 うん、良かった。


「わたしもわかったなの。こんな感じなの」


 そう言ったのはフフルだった。そう言うとフフルは華麗にステップを踏みその激烈短い手をにょっと伸ばして樽を打つ。

 挙動は軽やかで動きはコミカルで愛らしかった。

 だが効果は激甚だった。


 フルルの手から打ち出された魔力は水を伝わり、衝撃となって反対側に…


 ゴパッン!!


 でっかい音と共に樽が、樽の向こう側が爆散した。

 そう言や妖精族は魔導器なしで魔法が使えるんだったね。つまり魔力の直接操作ができるということだ。つまりやればできるわけだ。


「うううっっっ!」


 ルトナが何かをこらえるように唸っている。これはまずいと一瞬だけ思ったがそれはすぐ後に聞こえてきた何事だ~の声で霧散した。


 車に括り付けられていた水の樽は二つ。

 一つは俺が練習で壊してしまった。

 だけどこれは練習に使ったシャイガさんが悪かった。と言ってそのまま許してくれたのだ。

 では今壊れたこの樽は?


 この夜見事な星空の下に雷が落ち、流れ星ならぬげんこつが降った。


 いだい…



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