エルフに会いに行こう
2-01 どんな旅でも修行の旅になっちゃう不思議。魔力撃ができました。
2-01 どんな旅でも修行の旅になっちゃう不思議。魔力撃ができました。
俺達は現在、北の大草原の南の端(複雑だな)を西進している。
荒野と国の境目なのでどこが国境なのかはっきりしないのだが、まあそのあたりを旅していると考えればいい。つまり辺境だ。
道は煉瓦で作られている。
煉瓦というのは赤からアイボリーのような色が一般的だと思うのだが、ここの街道に敷き詰められたレンガは例外なく青い色をしている。
これが魔除け煉瓦と呼ばれる煉瓦だそうだ。
土に『魔除け茨』と呼ばれる茨を細かく砕いて練り込み、そこにさらに魔導結晶の粉末を練り込んで焼いた煉瓦で、どういうわけかどれも青っぽい色に仕上がる。なのでこの手の街道を誰言うとなく『青い街道』と言うようになった。らしい。
『青い街道の上は安全だ、あそこには魔物は寄ってこない』なんて使い方をする。
この世界はいたるところに魔物がいる。
ちょっとイメージしてほしい。
まず大きな町が有る。ここが人の領域だ。まず魔物など出ない結界で守られた安全なエリア。
反対側に森だの砂漠だの荒野だのがあると思ってほしい。魔物がひしめく魔物の領域だ。
この二つを直線で結んで魔物の領域に近い方が魔物が多く、そして強いわけだ。逆に町に近いほど魔物が弱くて少なくなるという図式が出来上がる。
これがこの世界だ。
町の周辺などは結界石と魔物除けの柵などでかなり安全だが、その結界を離れるとそこは多かれ少なかれ魔物が出る場所になる。
ゲームみたいなイメージでいいと思う。町を出てフィールドを歩くと魔物とエンカウントする可能性が常にある。というわけだ。
だがそれではなかなか移動もできない、なのでこの青い街道が作られた。
この青い街道には魔物除けの効果があって、この上を進む限りにおいて人は安全に旅をすることができる…ということになっている。まあ例外はある。
煉瓦に近寄れない魔物も人の姿を見かけたりすると隙を窺うように離れた位置をずっとついてきたりするらしい。これにつられて街道から離れてしまったりするとそれこそ魔物の思うツボ。襲われたりするわけだ。
他にも力の強い強力な魔物はこの手の結界を普通に無視したりするので、例えばたまたま空を飛んでいた強者に襲われるなんてこともある。まあこれに関しては運が悪かったと思うしかない。
国境の北側ぎりぎりを走るこの青い街道を西に十五日ほど進むと大きな森があって、そこにエルフの集落がある。本物ではなく人間と交流するための出島のようなものらしいがエルフと呼ばれる妖精族が普通に集落を築いて暮らしているのだそうだ。
俺達はそこを目指して旅をしている。
なぜこのような仕儀に相成ったかというとクラリス様が『交渉が失敗する心配ない』と太鼓判を押したからだ。
これが『我が友』の聖号の効果なんだとか。
ただ『行けば分かるわ~』ということで詳しいことは教えてもらえなかった。
大丈夫なのかな~とおもう。
聖号はもらったというけど別に勲章みたいなものを貰ったわけで無し、証明証を貰ったわけでもない。おまけに紹介状があるわけでもない。
ただシャイガさんの仕事にはエルフの所から反物を仕入れることが不可欠でどちらにせよ行くしかないという現実があるのだ。
悩んでも仕方がないことは悩んでも仕方がないよ~。とはエルメア母さんの言である。
どうにかなるなるがあの人の人生信条であるらしい。
実に羨ましい感性をしている。いやマジで。
さて馬車で十五日というのはどのぐらいの距離かと言うと結構ある。ロム君の引く車は何気に優秀で一日に優に五〇キロほどは進んでしまう。
何それ遅い。というかもしれないが一日五〇キロで十五日ということは七五〇キロも進めるのだ。そして札幌から東京まで直線で八〇〇キロほどであることを考えればその移動距離が大変な距離だということが分かって貰えるだろう。
まあ実際は曲がり道や川を避けるための遠回りなどあるので直線距離ではそれほど長くはないと思うんだが、なかなかの大旅行と言っていい。
ちなみにメンバーはシャイガ父さん。エルメア母さん。ルトナに俺、鎧牛のロム君。これは今までと同じ構成。
あと一人新メンバーとして『フフル』氏が参加しています。
どうせ見聞を広めるために旅をするのだからと付いてきたんだよね。
まあ断る理由もないからいいかという感じ。本人も『荷物もちは任せるなの~』とか言っているし。
でもやることは変わんない。
その旅の間俺たちは何をしているかというと…修行をしていたりする。
まあこの家族だから仕方ないだろう。
◆・◆・◆
「はい、そこで足を前に出して腰の高さを変えずに前に移動。天を打ってそのまま一二三と進む。リズムを守って、呼吸と動きを一致させるのよ」
エルメアさんの掛け声に合わせて俺とルトナとおまけでフルルは馬車の脇を進んで戻ってを繰り返していた。
足元は進みつつ躱す歩法を繰り返し、上半身は歩法に合わせて打撃を打つ動き。そして一番重要とされたのが呼吸法。
一定のリズムで呼吸をし、そのリズムに合わせて体を動かす。
武術っぽいダンスというか、ダンスっぽい武術というか、旅が始まってから本格的に始まった『奉天獣王闘術』という流派の正式な訓練だった。
これが地味にきつい。
空手の練習でも馬歩という足をまげて腰を落とした状態を維持する練習があるが、型を繰り返す間、少しだけ腰を落とした状態を維持しているので太腿パンパンである。
練習が終わると飯食ってそのまま
なので俺は寝る前に自分とルトナにイデアルヒールをかけることにした。おかげで翌朝にはなかなか体調がよい。
自分の身体をベストな状態に持って行くというこの魔法は、厳しい訓練の後に使うと鍛えた分がうまく身になるような気がするんだよね。日に日に成長しているような実感がある。たぶんだけど。
「この子たちは天才よ~」
とか言ってエルメアさんが狂喜している。ごめんね、なんか…
ただ昼間は移動して早めにキャンプを決めたらそのまま訓練。そして翌朝も早くから訓練。それから移動という脳筋なスケジュールはいかがなものか。
でもまあ何かを教わり、それが物になっていくというのはなかなか楽しいものだったりするな。生前は望めなかったものだからなおさら。
そしてもう一つ。
「やった。できたー!」
俺の打撃を受けて大兎がばったりと倒れた。全長六十センチ越えの大きな兎型の魔物で、このあたりでは農作物を食い荒らす害獣である。お肉の味はそこそこで晩御飯のおかずにどうぞという魔物だ。
その魔物が俺の拳から放たれた魔力によって今倒れた。
そう、ついに魔力撃に成功したのだ。
つらい日々だった…かもしれない。
ポイントはイメージと反復練習。
自分の中で練り上げた魔力をインパクトの瞬間放出する。この発想は良かったのだ。いけなかったのはその時のイメージ。
単に魔力を放射するだけでは魔力は何の効果ももたらさずに通過してしまう。だからその魔力にどんな効果を持たせたいのか明確にイメージする必要があったのだ。
魔力という
だがイメージで魔力に効果を持たせて相手の体内にぶち込んで破壊という効果を発揮させる。
これって攻撃魔法とやっていることは同じなのではないだろうか。
プロセスが違うだけで。
であれば獣人も魔法がつかえ…いや、それは後にしよう。
この修行はちょっと大変だった。
「こうね、グット溜めて、スパッと打って、ズドンってかんじ」
これがエルメアさんの魔力撃を打つための説明、往年のスーパースターを思いだすよ。わからんがな。でもルトナには分かったみたいで真面目に練習していた。どうやら彼女もあっち側の人のようだ。
補足説明をくれたのはシャイガさんだった。
「いいかい? 臍の下で魔力を練るんだ。そして呼吸と動きを一致させると体の動きに合わせて魔力も動くようになる」
これはよくわかった。自分の体の中を魔力が流れていくのが感じられるのだ。自分の動きと呼吸に合わせて踊るかのように。
「それをひねって拳に集める。渦を巻くように拳に縒り合せるんだ。それをグット後ろに引いて、握りこむ。そう、圧縮するようにね…その時にその魔力にどんな効果を望むのかイメージをする。イメージは打撃がいい。突き出した時に力となって解放され、敵に大きな衝撃を与える。そう言うイメージだ」
言われた通りに拳を握りイメージをする。
砲弾のように突き出される拳。
インパクトの瞬間解放される力。
イメージ。それは透勁がいい。武術の奥義のひとつ。それは振動だ。水を伝わる振動のように敵の身体に広がり全身を激震させる。それは反響し、波のように何度も敵を蹂躙する。共振し三角波のように激しくなるぅーーーーーーはっ!!
という感じ。
最初に成功した時は練習用に置かれた水の入った樽だった。樽のこちら側はなんの傷もなく、なのに反対側はまるで爆破でもされたかのように水と共に爆散した。
魔力撃が成功した瞬間だった。
ただこれが本当に
俺って魔力が見えるし、魔力に干渉して動かすこともできるわけだよね。もともと。
シャイガさんたちは呼吸と動きで魔力を自分の中で制御するわけだけど、その感覚は確かに修行によって俺の中に生まれた気がする…でも間違いなく魔力制御の影響もあるわけだ…うーん。
ちなみにシャイガさんの説明はルトナには不評だった。
『そんな難しいこと分かんないよ~』だそうだ。
シャイガさん。ガンバ!
◆・◆・◆
練習でうまく行ったら次は実戦だ。
実践というのは相手があるということで、相手は動き回るので樽を打つようなわけにはいかない。あっ、ちなみに水のたるが木端微塵になったのでシャイガさんは微妙な顔をしていました。
ついでにエルメアさんにしばかれてました。
閑話休題。
そして実践の相手に選ばれたのが『大兎』氏。
大兎は前述の通りかなり大きい兎系の魔物。日本ではあまり聞かないけどヨーロッパの方だともともと兎って農作物を食い荒らす害獣扱いの動物だ。
それが魔物になっていて、はびこっているんだ。その被害はどれほどか。
常時討伐対象というやつで一匹仕留めてギルドに報告するとお金がもらえるらしい。
一匹(一羽か?)穴あき銀貨五枚。
魔物なのでたくさんいるのでこのあたりではお手頃な動物性蛋白質である。
さてその魔物だが兎というけど逃げるよりも攻撃が得意な生き物だ。人間を見るとジャンプ力を使って頭突き攻撃をしてくる。
しかも頭蓋が骨厚で固いのでその威力はなかなかのもの。
逆に俊敏な動きでちょこまかと逃げるというようなことはしない。必要がないせいだろうね。
なかなか危険な魔物なのだがはっきり言っておバカ。獲物を見るとばびゅんと突っ込んで来て外れると頭突きのやり直しという攻撃パターンだ。躱しやすくしかも攻撃のタメが大きいので今回の練習相手に選ばれたらしい。
ちなみに雑食で人間もハムハムする。魔物っていやーねえ。
そして俺は大兎の攻撃をかわしながら
「やったー、とったどー」
みたいな? まあお約束だしね。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ」
なんか猛獣が唸るような声が聞こえてきた。
なんか怖い。
恐る恐る振り向いた俺の目に移ったのは…
きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
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