1-18 魔法の意義とは…たぶんこんなもん。
1-18 魔法の意義とは…たぶんこんなもん。
やってきましたトゥーメさんち。
「これって裏庭?」
「ジャングルだね」
そうそこはジャングルだった。
雑草のジャングル。
「いやーすまんねえ…さすがに無理じゃろねえ、ほっといたらこんなになってまって…ギルドの方には依頼を出しなおしておくから今日の所はお菓子でも食べていきなさい」
トメばあ…じゃなかったトゥーメ婆さんがバツが悪そうに頭をかいた。
トゥーメさんは銭湯であったあのお婆さんだった。あのオッパイプロペラばあちゃんだ。
俺達が尋ねるととても喜んでくれて、『あれ、エっちゃんとこの子でねえの』と言って、
『よく来たよく来た』と頭を撫でてくれた。
そして依頼の裏庭に行って…
「いやー、済まなかったよ~、依頼を出したのが三か月も前でよ~、その時はもうちょっと少なかったんだけどよ~、ほっといたらこんなんなってまって」
まあ、草って言うのは一か月あるとかなり伸びるからね、元々が邪魔になるくらい伸びといたのを三か月もほっとけばこんなものだろう。
昔は自分で草刈りをしていたらしいのだが最近年の所為か腰が痛くて思うに任せないのだそうだ。それで依頼を出したらしいのだが、見た感じ裏庭の大きさはせいぜいが二〇坪ぐらい。まあ庭としては大きい方だが、これで冒険者のために一日分の日当を払うのはさすがに無理がある。
まあでもここまで伸びてしまえばやはり大人に一日分を払ってもおかしくはないぐらいに庭が埋まっているけど…
「おばあちゃん大丈夫だよ、私たちがやるから」
ルトナが堂々と宣言した。
「でもねえ…」
トゥーメ婆さんは渋っている。そりゃそうだろう、ここまでジャングルと化してしまった庭を子供にどうにかさせようというのは無理がある。良識がある大人なら当然難色を示すだろう。
だがルトナの顔は決意に満ちていてとても引き下がりそうにない。
「えっと、おばあちゃん、できるだけやってみるよ。出来なかったらごめんなさい」
「・・・そうかい? 分かったよそれじゃ少しお願いしようかね。ただ無理はするんじゃないよ、できないことをちゃんとできませんというのも一人前の冒険者なんだから」
おっ、なかなかいいフォローだ。
子供の意地をたてつつ何気に教育を入れてくる。ルトナにもいい教訓になるかもしれない。どうも一度受けた仕事は何が何でもやらなくちゃみたいな感じがあったからね。
「ちょと待っておいで、今草刈道具を持ってくるから」
「あっ、道具も何も持ってなかった!」
今やっと気が付いたらしい。いや俺も忘れてたけどね、というか現場見てからのつもりだったんだよ。いやほんと、
そして改めで草ぼうぼうの裏庭を見て、というか既に藪を見て、その後俺の顔を見て…
「どうしよう…ディアちゃん…」
うわー、ちょっとべそかいているよ。表情がふにゃっと崩れた。可愛い。
まあ突撃されても困るんだけどね。こんなやぶを草刈り装備無しで踏み入って草刈りなんかしたらかぶれや虫刺されでえらいことになってしまう。大人としてはお勧めできるようなものじゃない。
もっともルトナの悩みはどう手を付けたら草刈りができるのか、それが分からないからだと思うけど。
だがそう言うときのために魔法がある。たぶん。
「大丈夫。魔法で何とかするから」
うん多分できる。
その後、トゥーメさんはどうしても行かなくてはならないところがあると言って出かけて行った。一時間ぐらいで必ず戻るから無理だったら家で休んでいるようにきつく申し渡された。
良いばあちゃんだ。
やはりここは良いばあちゃんと、良い姉ちゃんと、そして魔法の実用試験のために少し頑張ろうではないか。
◆・◆・◆
「さて、とりあえず…どうするか?」
俺は首をかしげた。
そしてルトナが愕然とした顔をする。うん、可愛い。
「とりあえず分解の魔法を使ってみようか【ディスインテグレーション】っと…どうだ?」
使ったのは対象の結合力を破壊してものを細かく分解する魔法だ。これは分子レベルでの分解なので分子分解と言える。
ただあまりうまく行かなかった。
目標にした大きな草がブツブツと泡立ったと思ったらそれが全体に及び、どんどん細かくなり、最後は砂よりもはるかに細かく、まるで灰のようになって風に散っていく。
ただし一本だけ。
「うーん、これはだめだ。面倒臭すぎる、じゃあ次は範囲指定だとどうだ? うーんと…座標を指定して、そこから範囲か…」
【スバーハ・ディスインテグレート・このぐらいの範囲で】
適当臭いけどこれが一番良いんです。
「さて、今度はどうだ?」
座標指定は簡単で空中の一点を意識してここと考えればいい。そこを中心に一メートルぐらいの範囲をイメージする。指定した範囲がうっすら色が付いたように目に見えるので便利だ。そして起動。
最初はうまく行ったかに見えた。指定した座標を中心にさっきと同じ現象が起きて、草の海に何もない空間が広がっていく。まるで削り取られるかのように。
そしてその効果は地面にもおよび、石ころまでさらさらと崩れるに至って俺は失敗を認めた。
「あかーん、地面まで崩れてしもうた」
俺はがっくりと膝をつく。ルトナが心配そうにのぞき込んでくる。
よし気合入った。小さな子を泣かすとかダメでしょ。
「よし、これはダメなのはわかった。じゃあ次は別の魔法だ」
「おーっ」
パチパチ。
「次は…加熱で焼いてみるか?」
【スバーハ・ヒート・うーん…一〇〇〇℃ぐらいで・実行】
やってみました。
結果からいうと今回は大成功。
範囲指定された球形のフィールド内の草はあっという間にしなび発火し、灰になってしまった。その時点で魔法をカット。
本当は座標を移動できればもっと簡単だったのだけど、それはできなかった。イメージが悪いのかな? でもとりあえず範囲固定なら問題なくできる。
さらに温度の高低、範囲の広狭によって消費魔力が違うのもわかった。
範囲を広く設定するとちょっと魔力が減っていく感じがする。
だが指定範囲は結構自由に設定できるようで、平たい立方体に範囲を設定すると二、三度で草の焼却が完了してしまった。
「うん、キレイキレイ」
そのあとで今度は異空間収納から水を出して撒いておく、地面が熱くなっているといけないからだが…意外とそんなこともなかった。草が燃え尽きるまでのわずかな時間では地面の石などを十分に加熱するには至らなかったのだろう。
そしてさらに分かったこともある。
この
例えば一メートル四方をこの熱フィールドに指定したとして使う空間の割合は全体の四分の一ほどになる。
つまり同じ空間にあと三つ力場制御の魔法を重ねることができるというわけだ。
この魔法は多分攻撃魔法などとは本質的に違うもので、そう例えば錬成魔法とでもいうべきものなのではないだろうか。
そしていくつもいくつも記録された様々な魔法。これれを組み合わせて活用すれば何か面白いことができるかもしれない。
まあそのうちやってみよう。
「きゃーっ」
「どうしたの?」
そんなあれやこれやを考えているときにルトナの悲鳴が聞こえた。
俺はあわてて声のした方を見回すがそこにルトナの姿はなかった。そこにあったのは…
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