1-14 銭湯に行こう。ぷるんぷるん?
1-14 銭湯に行こう。ぷるんぷるん?
「しかしこれをどうしたものか」
「ほんとにねえ…」
家に帰ってからしばらくシャイガさんとエルメアさんは難しい顔でうなっていた。場所は台所におかれたテーブル。ダイニングというほど立派なものではなくお勝手の中にテーブルと丸椅子が置かれていて居間として活用されている。
ここはシャイガさんたちが借りているいわばアパートだった。
長期契約でこの部屋を借りていて、この町に戻ってきたらここを使う。宿屋という選択肢もあるのだが夫婦者、家族単位になるとこうやって部屋を借りて自炊した方が安上がりなのだそうだ。
このことからもわかるように冒険者というものもそれほど儲かるものではない。
勿論稼ぎは一か月に金貨一枚などというしょぼいものではない。
だが冒険者となると武器、防具にかかるコスト、車のコスト。使役獣の飼育代などコストが大きくなる。特に武器や使役獣はお金のかかる部分だ。
シャイガさんたちが借りているのはこの台所に寝室として使われている部屋を合わせた二間でトイレは共同、お風呂はなし。お風呂は銭湯を使うらしい。
という部屋だがそれでも冒険者の中ではましな生活をしている方だと言えるようだ。そこに降ってわいた五一六枚の金貨。
ああどうしよう。と思うのも無理からぬことだろう。
俺が平気な顔をしているのは貨幣価値がよくわからないからだな。
そんなわけでシャイガさん夫婦はテーブルの上におかれたカードを見て唸っている。
このカードはギルドの預け入れカードだ。
今日の収入はギルドに預けてきたそうだ。
これもギルドのやっているサービスのひとつで稼いだお金を絶対安全に預かってくれるという物だ。預けた人は詳しくデーターを取られていて、お金をおろす資格を持つ者を登録し、その本人でなければギルドは絶対にお金を渡さない。かなり信用度が高いらしい。
俺とルトナは相続人として登録されている。もし二人に何かあって場合だけ俺とルトナがお金をおろすことができる。『うちの子』になったとたんに相続人扱い。二人の心意気に頭が下がる思いだ。
ちなみにお金を預かるのは有料のサービスになる。
つまり銀行というより貸金庫みたいなものかな。地球でも銀行の始まりはこういうシステムだったらしいし…
そして現在二人は目の前におかれたカードを見ながら五〇〇枚にも及ぶ金貨をどうしたらいいのか途方に暮れている。
ルトナも普段ない雰囲気にちょっと心配そうにしているが問題ないだろう。
金貨五〇〇枚を調達する方法がなくて途方に暮れるのなら大問題だが、今回は既にある金貨の使い道で悩んでいるわけだからね。
にしてもこのままだとらちが明かない。
俺としてはできれば…
「銭湯っていってみたい」
俺はぽつりとつぶやいた。
「そうね、銭湯でも行こうか」
おっ、エルメアさん再起動。
「あっ、はいはいはい、私も銭湯行く」
「うむ、そうだなひとっ風呂浴びれば何かいい案が浮かぶかもしれない。それに考えてみれば慌てて使う必要もないのだしね」
「そうね」
「今回の収入で僕たちは生活に追われる必要がなくなった。収入優先で仕事を選ぶ必要がなくなったわけだ。であれば採算が悪い生活もできるというわけさ」
んん? 採算の悪い生活って何?
「あなた、それって何?」
「つまりな、ルーとディア坊の修行と勉強を優先して生活できるということだ」
「あら素敵、そうよね、今が伸び盛りですものね、この時期にしっかりした教育をするのは大事よね。それにディアちゃんの修行も始まったばかりだし、しばらく実戦も経験も兼ねて修行に打ち込みたいわね」
おおーッ、それは素晴らしい、この数日魔力撃のコツとか聞きまくったけどまだできないんだよね。
それに勉強に関してもやるべきだろう。数学などは俺の方が圧倒的に能力、高いと思うけど、字は当然日本語ではないし、数字もアラビア数字とはデザインが違う。
ここら辺はしっかり勉強したいところだからね。
「まっ、なんにせよ風呂に入ってからさ」
「そうね」
シャイガさんがルトナの手を引き、エルメアさんが俺の手を引いて俺たちは部屋を出た。
銭湯である。
おおきなお風呂っていうと生前に修学旅行で行った温泉のお風呂とか、病院のお風呂ぐらいしか経験がないのでこれととても楽しみだ。
うん、わくわくする。
◆・◆・◆
「おおーっ、銭湯だ~」
それは思ったよりもこぢんまりとした施設で、印象としては昔テレビで見た昭和の銭湯と言った風情だった。
男湯と女湯が分かれていて入口に番台があって構造も近い。ただ素材は石だった。
なに石か知らないが白を基調に、黒とグレーの斑点があり、触った感じが少しざらざらしていて滑らずに済みそう。
そしてさらに石造りのドラゴン像とかグリフォン像とか、何かよくわからない蛇像とかが置かれていて古代ローマのテルマエを日本の銭湯風に変形させたらこんなふうになるかもしれないという
うん、ものすごく面白い。
「さて、じゃあ後でな」
シャイガさんが男湯の方に進んでいく、俺も当然その後に…
「ほら、ディアちゃんはこっち」
「え~っ、ちょっと待って僕も男湯に行く~」
抵抗むなしくひょいと抱え上げられた。それでもじたばた。
「坊や、何歳だい?」
「えっと、一〇歳」
「だったらママと一緒に女湯いきな。今のうちだけだぜ」
番台に座っているいかにも役に立たなくなった感じの爺さんが無駄にいい顔でキラーンとか歯を光らせながらそう言った。さすがに呆気にとられる。
そのすきに俺は女湯に連れ込まれてしまったのだった。
そして女湯は天国だった~! なんてことはない。
銭湯というのはこの街の至る所にあって、個人経営でいつ行ってもそれなりに入れるらしいのだが、今は人の少ない時間帯だそうで。結構空いている。
いるのはしわしわのばあちゃんがメイン。
少し若いのも明らかにおばちゃん。
ここは天国ではなく現実だったりする。
その中でちょっと気になったのがおっぱい。
いや、いやらしい意味じゃない。学術的というかなんというかそう言う意味でだ。
なぜならご婦人方のおっぱいがみんな垂れているのだ。
よく見るとおばちゃんと思った人の中にも若干若そうな、たぶん三〇をそうは出ていないような女性もいるのだ。だがそのおっぱいが例外なく垂れている。重力に負けている。
(ふーむ、これはあれだな。ブラジャーがないんだな…昔見たテレビの裸族の女性は確か二〇前にもかかわらずおっぱいがすっごい垂れていた)
事ほど左様に重力はおっぱいの敵なのだ。
実にもったいない。
そしてもうひとつ俺の気を引いたのは鏡。大きな姿見がこの銭湯には備わっていた。材質は多分金属。何金属かは知らない。
だが結構しっかり移っている。なので俺はこの世界に来て初めて自分の姿をこの目で見た。
いや、体を再生させるときとか一応認識はしたけどね、その時は怪我というか肉体の破損のほうに意識が言っていたから容姿に関してはあまり気にしなかったんだよ。
なので改めて見てみた。
完全に子供の身体。筋肉が薄くてすらりとしている。まあこの時期の子供というのはそう言うものだ。だがバランスは取れているように見える。
髪の色は灰色。アッシュブロンドというやつだ。
顔立ちは整っていて可愛らしい。
きっと将来良い男にって、いかん、これは俺だった。
うん、まあ割とハンサムかな。俺的に合格である。
惜しむらくは左手がない事。
むき出しだと魔導器が見えてしまうので現在は包帯のようにさらしを巻いている。
片腕とか、彫像とかにしたら受けるんじゃないかな? 古代ローマ風に…むりか。
「ディアちゃん行きますよ~」
俺はまたしてもひょいっと抱えられて浴室に連れ込まれた。
エルメアさん俺のことぬいぐるみか何かと勘違いしてないか?
◆・◆・◆
残念ながら浴室はローマ風だった。
いや、ローマ風がどんなんか知らんけど、石の浴槽があって、その周りに洗い場があるのだ。だが残念なことに日本の銭湯のように鏡と水道が並んでいたりはしなかった。
お湯を組むための水場が設置されていて、そこでおばちゃん達が垢すりみたいなもので体をこすってお湯で流すという形態だ。
「今日は贅沢に石鹸を使いましょう。まずディアちゃんを洗います」
そう言うとエルメアさんは小さな箱からに石鹸を取り出す。
紙石鹸だ。
これも昔見たことがある。ものすごく薄く切られた石鹸で、一回使い切り、そうか、番台でこんなの買っていたのか…
俺の身体にお湯をかけ、石鹸をルトナと半分こして泡立てて手で直接俺の身体にこすりつける。
ちょっとくすぐったいがこれはいいかもしれない。
ちなみに自分で洗うという主張は退けられました。
そう言えば昔小さな親戚のチビをお風呂で洗ってあげたことがあったな。ちょうどこんなだった。優しい石鹸で柔らかいタオルで脇の下からお尻まで。
「はい、足上げてー」
もうここまで来ると何も怖いもんなかあらへんでー。腹くくりました。
「あっ、お母さんち○ちんだ」
こらルトナ、つつっくな!
「あっ伸びる」
引っ張るにゃー!
興味津々のお年頃なんだよね。
そのあと今度は俺とエルメアさんの二人掛りでルトナを洗いました。背中とか足とかですよ。今更女の子の秘密に興味津々というわけじゃないですし。
「ディアちゃんは無邪気ねー」
とはエルメアさんの感想。まあ無心に無難なところを洗ってたからね。
さらにその後、ルトナと並んでエルメアさんの背中を洗う。ここら辺はお母さんの特権でお父さんは寂しいものらしい。昔親父もそうだったなあなんて思いだす。
にしてもエルメアさんのおっぱいは見事だ。
確かに年齢なりに下に少しだけ下がっているようにも見えるが他の人に比べて形も良く、大きく盛り上がっている。
ここまで見事なおっぱいは生まれて初めて見た。
いや、前世も含めて初めて見た。凰華は控えめだったから。いちおう彼女の名誉のために言うと決してステータスではない。
そこは明言しておく。
そんなことを考えているとお湯につかっていたご婦人方がどやどやと上がってくる。そして俺たちに気付いた。
「あれ~、えっちゃんだよ」
「あれほんとだよ~久しぶりだねえ~」
「あれま、子供が増えとるに。いつ産んだだね?」
「あれほんとだ、めんこい子だよ、男の子だ。立派なものつけとるでねえ~」
スゲー、迫力スゲー。おばあちゃん三人だ。あっという間に取り囲まれた。
にしてもおっぱいもすごい。
まるでたくあんだ。しぼんで伸びてぶら下がっている。
おっぱいってこんなんなんのか? 神秘だ・・・さすがにこれにロマンは感じないが…
「あれれ、男の子だねえ、おっぱいに興味あんのけ?」
一人のおばあちゃんが自分のおっぱいの根元を掴んでぶんぶんと振り回して見せた。
ショック!
プロペラばあちゃんだ!!
「あほな事するんでねえよ、この子はあんたのしなびたおちちみて衝撃受けとるに」
はいその通りです。
「あれこの子手がねえだ」
「あれ、ほんとだ」
一人が俺の左手に気付いて場の雰囲気が変わった。
それまでのちょっとふざけた雰囲気が鳴りを潜め、真面目な顔で俺の頭を撫でまわし、口々に心配ねえ、大丈夫と言い始める。
「手がなくとも立派に生きた御人はたくさんいるだよ」
「んだ。そん人らに出来て坊にできんということはないだ」
「頑張るだよ、きっといいことあるだでね」
その後怪我をしていた俺を拾ってくれて引き取ってくれた旨を話すとエルメアさんをほめたたえ、ひとしきりほめたたえた後風呂から出て行った。
嵐のようなひと時だったが、うん、後味は悪くない。
ないんだが…
「どうしたの、か…母さん」
エルメアさんは自分のおっぱいをしたから支えるようにして持ち上げてため息をつく。
あっ、なんかわかっちゃったよ。
「私は獣人族だから筋肉が発達していて、あんまりおっぱいとか垂れないんだけど…それでも女である以上はどうしようもないから…」
つまりいつかは垂れてしまうということなんだろう。
そう言えばこの町で見かける女の人はどうの高い位置に帯を締めたり、胸の下を紐で縛ったりする服を着ていた。
これは確かブラジャーがない時分の服装の特徴だ。
ブラジャーなんてどこにでもありそうと思うかもしれないが、日本をはじめとした先進国ではあって当たり前のものだったが、あのブラジャー。発明されてまだそんなに立っていなかったはずだ。
俺が入院しているときにブラジャーの発明からちょうど100年という話題がニュースで流れていたから間違いない。ここではまだ発明されていないのだろう。
であれば解決法は簡単だ。
「えっと、母さん…ブラジャー作ろうか?」
「え? ブラジャーって何? それってどんなものかしら~?」
当然の疑問だ。
俺はブラジャーの簡単な概要を説明した。
ここはお風呂でプルンプルンだから実に説明しやすかったよ。
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