1-13 冒険者ギルドにやってきた。

1-13 冒険者ギルドにやってきた。



 この町の構造は大体四つのブロックで出来ている。

 まず俺たちが入って来たのが東区。町の北東側に位置する区画で農業街と呼ばれる地区だ。周辺に農地が広がり、このあたりも農作物の処理や加工でにぎわっている。

 ここを西に通り抜けて向かったのが俗に言う冒険者街、別名職人街とも呼ばれていて、北の草原でとれた魔物素材が毎日山のように運び込まれ、職人たちによって解体され、加工され、様々な商品に姿を変えていく。

 本来冒険者はこちら側の門を使うのだが、シャイガさん達みたいに車一つの小さなパーティーは行商がてら東門を使うこともある。

 逆に大きなパーティーが東門を使うと周りの農地に迷惑がかかるのでこれは大顰蹙。場合によっては御縄になってしまう。

 こういう意味でもゲートは役に立っているわけだな。


 あとは貴人が住み、町の行政施設が集まる中央区。始まりのアデルカのことだ。

 もう一つが南に広がる商業区。

 これは北側で作られた様々な物が、農産物や武器防具もここに集まって国中に送り出されていくために必然的に商人やそれに類する人々の集まる地区になって行ったらしい。


 東区は農村の雰囲気で、石と土壁で出来た、そして煙突をもつ家がゆとりをもって並んでいて妙にのんびりしている。


 西区に入るとしだいに大きな建物が増えてきてちょっと人口密度という言葉が似合ってくる。

 建物も三階建て四階建ての大きなものが目につくようになってくる。

 現在俺達はそこを進んでいる。

 大通りだ。

 石と土壁で作られた背の低いビルという感じだろうか、温かみがあっていい感じだ。窓もしっかりしたものが作られていて全体としてこの世界の建築技術が決して低くないことが見て取れる。


 ローマ風でもない。かといって中世のロンドン風でもない。素朴で高度な建築物。しいて言うならファンタジー風かな?


 大通りは道幅も広く獣の引く車が走り、通りに面した建物の一階は商店のようで荷物が歩道にまで広がって露店風になっている。

 そこをいろいろな人が行きかっているわけだ。エキゾチックで異世界ちっくですごく面白い。


 その後ろ側、裏通りになると道幅が狭くなり、建物が密集する感じになる。

 あれってなんだろう?


「あれはこのあたりで暮らす人たちのためのアパートメントさ」


 だそうだ。


 この町で暮らす一般人の大半がこの西区のアパート街か南区のアパート街に住んでいるらしい。

 窓を開けるとそこは御隣の家の窓~。

 庶民だねえ~。


 そして道行く人々。


 獣人の人も人間の人も一緒こたに周りを気にせずに暮らしている。ここだと農地ではほとんど見かけなかった猫タイプの獣人も結構いて見た目が楽しい。頭に大きな角を持った人もいる。


 ただ残念ながらドワーフやエルフなどの妖精族の姿は見かけなかった。

 あまり町には住んでないのかな?


 そしてファッション、これもそう変じゃない。

 確かにちょっと古めかしい感じはある。

 だがそれなりにきれいだし、デザインもシンプルながら整っているものが多い。洋服のようなシャツにスカートとか、シャツにズボンにベストみたいな格好が多いかな。

 たまに和服のような前合わせの人とか、どう見ても袴だよねと言うズボンをはいている人もいるが大体は洋風が多い。


 あと中には武器を持って人もいる。

 こういう人は防具も身につけていて、いかにも戦闘でお仕事しますよという格好だ。冒険者とか傭兵とかだろう。

 この防具のデザインも悪くない、シンブルなものが多いが洗練された感があって革の鎧でも装飾が凝っていてちょっとカッコイイ。中には金属製のすごくカッコイイ物を着た人もいる。たぶん勝組とかだろう。


「こら、ディアちゃん落ち着きなさい」


 興奮してルトナに怒られてしまった。

 まあ仕方ないよね、御者台で身を乗り出して周りを見回していたら怒られるって。


「さあ、ついた。ここだよ」

「ぎるどだよ~」


 おおっ、ついに冒険者ギルドである。


「おおっ、ここがっ! ってなんか普通~」


 一言でいう市役所っぽい。

 二階建てぐらいの大きな建物で四角くてシンプルな作り、ただ建材は石を使っているので窓の周りのアーチとか温かみがある。古き良き時代の建築方法で現在の市役所とか税務署とか作った感じだ。

 周りに駐車場のようなスペースが広くとってあるので一段とそれっぽい。

 そんなところをガラガラと進んでいく。


「裏の搬入口は開いているかな?」

「よう、シャイガじゃないか、搬入口とは大物でも仕留めたか?」

「ああ、おかげさまでな」

「よし、先に行ってろ、今日は三番が開いているから、すぐに担当を向かわせる」

「ありがたい」


 建物の前にいた人とシャイガさんとの会話だ。


「あいつはギルドの古参でな、付き合いも長いし話も早い」


 お知り合いらしい。

 俺たちはそのまま三番搬入口という所に車ごと向った。そこは六畳間が縦に四っつ並んだぐらいの大きさの倉庫のような場所で…


「よし、誰もいないな、これはラッキーだ。ディア坊。今のうちにグラトンを出してしまうんだ」

「・・・ああ、成程」


 そうすれば出し入れするところを見られずに済むわけだ。

 俺はすぐに六匹のグラトンを異空間収納から取出し、シャイガさんとエルメアさんがそれを並べる。そこに車から薬草とか木の束とかをアイテムバックから出して下ろして並べて行く。


「よしこんなものだろう。あとはやっておくからエルメアはディア坊を連れて事務所の方に行っててくれ」

「ハーイ了解」

「りょうかーい」


 そう言うとエルメアさんはひょいと俺のことを抱え上げて、建物の脇を回り込むように表に戻っていく。

 離れていくときに声が聞こえてきた。


「おいおい、こいつはグラトンじゃねえか」

「そうだ、おまけにまだ死んでからたいして経ってないぞ」

「いったいどうやって…妖精族でも協力してくれたのかよ?」

「わははっ、そこら辺は運がよかったと言っておこう」

「おい、すぐに処理施設を動かせ、時間が過ぎるごとに性能が落ちるぞ」

「「「はいっ」」」


 なんか声の感じからして大騒ぎだな。


「やっぱり先に抜けてきちゃって正解ね、ディアちゃんの登録を済ませたらすこしゆっくりしましょう…たぶん時間、かかるわよ」


 それはいいけど下ろしてくれないかな?


「おりたい」

「あら、だ~め」

 ダメですか…そうですか…

 俺はそのまま運ばれていった。


 ◆・◆・◆


 ぐるりと回って正面入り口。そこから入るとすぐに受付が並んだカウンターがある。部門ごとに分かれているみたいで『依頼処理』の窓口や、『買取処理』窓口があって、その中に『事務処理』の窓口がある。

 エルメアさんはその窓口に進むと俺の登録を申し出た。


「この子を私の所で引き取ろうと思うんだけど、手続きお願いできる?」

「おや、エルメアさん、子供を引き取られるんですか? 勿論かまいませんよ、シャイガさんのパーティーはレベル4ですし…でも、どこの子か確認は取れてるんですか?」

「ううん、それがさっぱり、荒野で川を流されてきたところを助けたんだけど、ご家族のこととか覚えてなくて」

「それはまた…」


 俺は話の内容をドキドキして聞いていた。

 はたしてちゃんと登録できるのだろうか? 少なくとも日本ではこんないい加減な子供の引き取り方などできはしない。

 面倒臭いことになるんじゃないかな…などと思うと動悸がはげしくなる。


「お気の毒に…分かりました、ではこの子はシャイガさんエルメアさんの養子ということで処理しますね」


 あっさり通ったー! ええんかいそれで!


「ようエルメアさん、はぐれっ子かい? 今年は多いな…」

「そうなの?」

「ああ、今月に入って…もう三件目じゃないかな? 前の二人は孤児院に引き取られたよ。先月は二人ばかり、ルネとロンデルの所で引き取ってたな…まあ孤児院に行くよりはどこかの夫婦者に引き取られた方が良いだろ」


 話しかけてきたのはちょっと身なりのいい冒険者だった。たぶんベテランの人だ。

 話の後、その男は俺の頭をガシガシと撫でて『がんばれよ坊主、この二人はいいやつだから頑張れは幸せになれる。引き取ってくれる奴らがいるってのは運がいいんだぜ』とそう言った。


 なるほどこういうことは日常的にあることなのだろう。だからみんな慣れていて細かいことは気にしない。うん、いいんだか悪いんだか判別がつかないな。


 その後一応説明を聞いたが、これによって俺は『自由民』という身分になったことになるらしい。これは『領民』とか『臣民』とかいう身分と同じレベルの身分だ。つまり一般市民ということだな。


 身分制度というのは国によって仕様は違うらしいのだがこの大陸は王国が多く、大体似通っている。

 まず国王。

 これは至尊唯一無二の身分だ。次が王族。王妃、王女、王子のことだ。

 さらに貴族がくる。これは俗に言う公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の五身分。

 その下に士族というのがある。これは国に仕える役人の身分で、戦闘階級の騎士。事務方の公務士の二タイプ。最後の『士』をとって士族身分という。


 ちなみに貴族の身分は貴族家の当主とその妻に与えられるもので、その子供は一つ下の士族になる。準貴族とも言うらしい。


 その下が平民なんだがこれは結構いろいろ別れるらしい。


 例えば王都や国王の直轄地に住んでいる人間は『臣民』という。

 各地を収める領主つまり貴族の下にいるのが『領民』ということになる。

 この町は王国の直轄地で太守が治めているからこの町で暮らしているのは臣民ということだな。


 これとは別に『自由民』というのがある。

 これは冒険者や鍛冶師、商人などの特定の土地に定住しない職業の人間が所属する身分だ。

 これら区別は一言でいうと『税金を納める対象はだれか』ということに尽きる。


 臣民は王に対して税金を納め、領民は領主に対して税金を納める。

 で問題になるのがどこに住むのかはっきりしない冒険者たちだ。


 今日はここの領地にいるが、明日はここの領地にいる。さてどこで税金を納めていいのやらという話になる。税金を納めないというのは論外だ。税金を納めないと身分証がもらえないのでどこに行ってもまともな暮らしができなくなる。

 だからと言って、いく先々で税金を納めるのも論外だ。そんなことしていたら今度はお金が足りなくて暮らしていけない。


 国にしても税金を取らないというのは問題になる。

 冒険者が税金を納めなくていいというのであれば国民はみんな冒険者になって流出してしまう。だが行く先々で税金取るというのも問題になる。そんな生活したがるものがいるはずもなく、それは冒険者や商人や鍛冶師の不活化を招く、魔物の素材がはいらず流通しなくなれば経済的に国も行き詰ってしまう。


 で、みんなが頭を絞った結果できたのが冒険者ギルドが税金を徴収し、所在地を治める者に収めるというやり方。

 一回の仕事で一〇〇〇リゼルの稼ぎがあった場合その三割を上納する。その三割を半分で割って一方がギルド、一方が行政府に収められることと定められた。


 一般の人の税金、年貢が三公七民を基本としていることから、納税割合としては同じである。


 収入の三割から四割が税金というのは量的にはどうなのかと考えると、確か江戸時代の税金の割合が五公五民、あるいは六公四民と言われていたはず。

 だが、農地の測量をして以降、農業が発達したことなどから収穫量が増え、実際は三公七民程度になっていたらしい。

 そしてそのレベルであれば領民は順調にたくわえを増やして結構裕福だったそうだ。


 なので通常が三公七民。緊急時は五公まで税率が上がるというやり方は悪くないのかもしれない。

 まあ一定以上の収穫がないとえらいことになるんだけどね。


 そんなわけでこの国と各ギルドは結構うまくやっているらしい。


 なかなかうまくできている。

 そしてなかなか美味しくできている。

 いや、俺が食べているホットドックだけどね。


 受付の奥にはラウンジのようなものがあり、そこではお酒や食べ物の提供をしている。冒険者向けに少しお安く、量多く。


 そしてメニューの説明を聞く限りこのあたりは『西洋風』の食文化であるようだ。

 ケチャップがある。マスタードある。シチューがあり、チーズがある。

 でも醤油らしきものはない。味噌らしきものもない。


 異世界でろくな食べ物がなかったらどうしようとか考えたこともある。

 調味料などなければ食テロとか食チートとかできるかな? とか考えたがそれはどうやらはかない夢のようだ。だがそれでいい。おいしいものが食べられればその方が良い。それにうろ覚えの知識で醤油だとか味噌だとか、簡単に作れるとは思えない。

 だいいち俺、料理とか苦手だし。


 人間というのは考えてみれば食にこだわる生き物だ。

 食べなきゃ生きて行けないし、どうせ食べるならおいしいものがいい。なので自分の手の届く範囲でできるだけおいしいものを作ろうとする。

 そう考えれば異世界にだって十分な食文化はあって当然なのだろう。


 可能性として地球人の想像を絶する食文化があった可能性もあるのだ。そう考えれば実に運が良かった。


 そこでそんないろんな話を聞きながら飲み食いして結構時間を潰したころシャイガさんが帰ってきた。


「いゃー、まいったまいった。思ったより状態がよくって査定に時間がかかったよ」


 シャイガさんはちょっと難しい顔をしている。

 あまり高く売れなかったのかなと思った。


「いや逆だ、ちょっと想像以上に高く売れてしまった」


 ほぼ完ぺきな処理が出来たそうだ。死んでから時間がほとんど経っていなかったかのように。いや、時間凍結してあったからそうなんだけどね。

 シャイガさんは『今回はたまたま運がよかった』で押し通したらしい。

 一頭のお値段はなんと八六〇、〇〇〇リゼル。


 ・・・大金持ちやん・・・

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