1-12 自由商業都市アデルカに到着したよ。

1-12 自由商業都市アデルカに到着したよ。



「きゃははっ、なにそれ~、面白ーい、かっこいー!」

「あら~、へ~、器用ねえ、でもそれなら格闘戦も問題なくできるわね~」


 以上、クローアームを見たご婦人方の反応でした。


 さて、とりあえずの目的地『アデルカ』はアリオンゼール王国の北東方向に位置する町で北の大草原に対する玄関口として機能する町だ。

 水の豊かな草原地帯ということで、優良な穀倉地帯であるらしい。

 周辺に農地が広がり、そこはこの国で一二を争うほどの農作物の生産地である。


 しかもその北側には広大な北部大草原が広がり、ここはアリオンゼール王国の主要な狩場のひとつで、魔物の素材が多く取れる町としても有名だった。

 武器や防具の素材。お肉、そして魔導結晶。それらのものが毎日大量に運び込まれ、いろいろなものが生産されてゆく。


 さらにこのアデルカからまっすぐに西に行き、それから北上すると『果てなき迷いの森』という広大な森が広がっているのだが、その森はエルフと呼ばれる種族が住んでいる森らしい。

 この森との交易ルートを持っているのもこのアデルカのみだったりする。


 結果的にここは様々な物資が生れるところであり、集まるところであり、そして送り出されるところであり、人に言わせると国一番の大都市。王都よりも栄えた町などと呼ばれているらしい。

 アリオンゼール王国の経済の中心地なのだろう。


 ここら辺の話は旅の途中でみんなが話してくれたことなんだが、俺はこの話を聞いて胸を高鳴らせた。大きな町が見たかったわけではない。

 だって『エルフ』がいるのだ。

 ファンタジーなら定番だろう。いったいどんな種族なのか、植物に詳しく、良く薬草を作り、植物を利用したいろいろな品物を作っているという。これらは伝承にあるエルフのイメージと一致するように思われる。もし機会があればぜひ会いたいものである。


 さてこの町だが北から街道を降りてくるとまず最初に広大な穀倉地帯が見えてくる。何キロも何十キロも続く麦の畑だ。壮観である。


 この麦畑の中に点在するように大きな家が建っている。この家は集合住宅で、その区画で農業をいとなむ人の共同の住居であるらしい。

 何家族かが共同でが暮らしているのだ。


 この家に近づくとまず目に入るのはぐるりと周囲を巡る柵だろう。縦の柱は石のようなもので出来ていてそれを丸太の横木でつないだ単純な形の柵で、しかし…


「こいつはぁ、結界になっとるだよ」


 とその家の代表の人が言う。

 ちなみに丸々太ったおじさんだ。腹と臍がシャツからはみ出ている。

 みんなこんなんか? と衝撃を受けて周囲を見るがそんなこともなかった。

 普通の人だ。ただ獣人の人も結構いる。


 やはり犬っぽい尻尾の人が多い。ルトナたちの耳は尖っているが、ここの人は垂れている人が多いな。次に多いのが牛っぽい尻尾の人。

 ネコ尻尾の人も少しいて、丸い耳を持った体格のいい獣人もいた。この人は尻尾が小さくてズボンの中らしい。何型の獣人なのだろうか?

 でその人たちは尻尾や耳の形に拘わらず仲良く暮らしているようだった。


「びっくりした~? 獣人というのはねしっほや耳の形に関係なく一つの獣人という種族なのよ」


 つまり犬人族とか猫人族とかはないということだ。

 体に動物の特徴を持っていて、その動物の優れた部分を自分の能力として持つ人間が『獣人』という種族らしい。


 で、結界の話だが、元々魔物の少ないこの地方なのだが、魔物が全くいないわけではない。大鼠などの弱い魔物ぐらいはいたりする。

 昼間会えば棒で威嚇して追い散らせる程度の魔物であまり問題ないらしいのだが問題は寝ているとき、油断していると鼠に引かれるというのが本当にあるらしい。


 そこでこの結界が役に立つ。

 石の柱部分が魔物が嫌う何かを発しているらしく、この結界柱が立っている周辺には弱い魔物は近寄らない。つまりこれで囲まれた家の中は安全な場所になるわけだ。


 大人はあまり危険はないので問題は子供、子供を守るために家の敷地にこの結界柱を立てる。その敷地内は子供にとって安全な場所になるわけだ。

 子供はある程度大きくなるまでこの敷地内で育つことになる。

 そんな小さなコミュニティーが点在し、自分の区画と定められたエリアで農業を営む、それがこのあたりのやり方だ。


 で俺たちがそこで何をしているかというと『行商』をやっていたりする。

 売り物は主にお肉。動物性蛋白質だ。ここら辺は穀物類は溢れているが逆に動物性たんぱく質は少ない。家畜などもいて、何かの機会に潰してお肉にしたりはするみたいだがそうそうできることでもない。

 安全地帯でしかも広大な農地なので狩るような動物も少ない。いたとしても隣の区画との兼ね合いもある。

 となると冒険者が持ってくるお肉は結構な目玉商品だったりするらしい。

 当然冒険者はこういう人たちとの商売も当て込んでいるのでシャイガさんたちも反物や、なめし皮なども持ってきている。


 それでいいのか冒険者という気がしなくもないが、冒険者にとってこの手の行商は生業のひとつだ。というか行商人は大概危険なエリアを旅したりするのでイコール冒険者だったりする。

 いろいろな商品を治め、その代金として小麦や漬物などを貰う。野菜なども少し貰う。お金でのやり取りもあるが物々交換で済むところはそれで済ませてしまうのがここら辺のやり方だそうだ。

 文明のあけぼのである。


 なんてのんびりしているんでしょ。


 さてここに来るまで何回か商売をして、それを手伝って、お金の事が大体わかった。


 金貨・・・・・・一〇、〇〇〇リゼル。

 角銀貨・・・・・・一、〇〇〇リゼル。

 穴あき銀貨・・・・・・一〇〇リゼル。

 穴あき銅貨・・・・・・・・一リゼル。

 と、これがこの国のお金だ。


 金貨、角銀貨というのは四角くて少し大きい硬貨だ。純金の10gインゴットみたいなやつに見事な装飾を施したようなもので、表面に文様と人の横顔が刻まれていて、裏は祝福の聖句が刻まれている。顔は神さまだそうだ。

 穴あき銀貨、穴あき銅貨というのは寛永通宝のようなやつで。大きさは五百円玉ぐらい。真ん中に四角い穴が開いていて、この穴にひもを通してまとめることができるようになっている。

 強く引くとお金が結び目を通るので、束ねて腰にぶら下げておいたりすると使い勝手がいい。

 多分シュパッと投げるような人はいないだろう。

 五〇枚綴りとか、一〇〇枚綴りとかにすると数えやすくてよい。


 このほかにも『マイン聖金貨』というのがあるらしい。

 なんとリゼル金貨一〇枚分の価値がある金貨で、この金貨は大陸共通通貨になっている。たとえばよその国に行くときはリゼル金貨をこれに交換していくと無駄がなくなるそうだ。他にも大がかりな取引に使われるのだとか。


 もちろん物が金だの銀だのなので相場によって多少の変動はあるらしい。

 ただ穴あき硬貨は別、これは完全に価値固定制で、国内であれば安心して使える。なのでシャイガさんもひもを通した穴あき銀貨をよく受け取っている。

 今まで見た感じだと一リゼルが一〇円ぐらいの価値があるんじゃないかな?


 そんな場所を進んでいくととうとう交易都市アデルカが見えてくる。

 ここでちょっとびっくりした。


「あれ? おへへだ」

「ん?」

「城壁とかないんだなって」

「ああ、なるほど、城壁もないではないんだが…まああまり意味がないしな。それにどこかに城壁を作るとしてもどこに作っていいのやら」

「ああ…なるほど」


 遠く町の奥に高い城壁と、尖塔がみえる。結構な広さだ。

 ここが元々のアデルカの町だったそうだ。北の魔物の領域近くということで最初は当然に強固な城壁が作られた。


 だがインパクトサウラなどの複合的な理由でこの『始まりのアデルカ』が魔物の襲撃を受けることはなかった。そうなると長い時間の中で町はだんだんと広がっていくわけだ。

 始まりのアデルカは貴人街と官公庁。その周辺に一般市民の住む住宅ができ、離れるにしたがって工業地や住宅街、さらに農地にシフトしていく。

 そして農地はどこまでも続いていく。


 つまり外側に城壁を作るにしてもどこに作っていいのやらということになるらしい。


 しかも魔物の被害はほとんどない。

 だったら城壁なしでいいんじゃね? みたいな流れになってしまったらしい。


 ただ万が一魔物の被害が予想されるときは町の人は始まりのアデルカの城壁の中に避難すると決まっているらしい。

 避難場所だ。それでうまく行くんだからそれでいいのだろう。


 つまりこの町は農地をトコトコと進んでいくといつの間にか建物が増えてきて、いつの間にか町の中に入ってしまうような構造になっている。というわけだ。

 そんな街だが一応ゲートは存在し、門番がいて検問はやっている。


 俺達はその門番の所まで進んで、身分証を見せる。シャイガさんが身分証として軍隊の認識票のようなものを提示する。

 そうすると門番は頷き、そのまま車は町の中に…

 あれ? これって検問の意味あるの?


「あの検問は身分証を持っていない人のためにあるんだよ」

 ? よくわからん。

「つまりね…」


 この町は始まりのアデルカから三方に道が伸びている。西、東、南の三方向に伸びる大路という大きな道だ。

 ただ周りが畑なので入ろうと思えばどこからでも町にはいれる。

 でも実際にそうやって町にはいろうとする人間は少ないそうだ。


 なぜなら身分証無しで町に入ると『無宿人』と呼ばれることになるからだ。

 この無宿人、ものすごく立場が弱い。

 まずこの町では身分証がないとまともに生活ができないらしい。


 例えば宿屋に泊る時は身分証の提示が求められるし、医療機関も同様だ。商店も野菜や魚などの食料などは提示無しでも買えるが、武器屋防具などの高価なものはやはり身分証が必要になる。

 そして始まりのアデルカに入るためにもこの身分証が必要になる。


「ないとどうなるんですか?」


 聞いてみました。


「そうだな、宿屋はまずちゃんとしたところには泊まれない、スラムでもぐりの宿屋に泊るしかないな、買い物ができる店も限定される。良い店は必ず身分証を使うからまずまともな店は使えない」


 なかなか厳しい、それってやばい非合法の店しか使えないってことだ。


「それにもし役人に見つかると捕まってしまうな」


 密入国みたいな扱いなんだろうか…


「捕まった無宿人は寄場という『強制収容所』に送られることになるな」


 何それ、怖い!


「そこで二年ほど仕事をさせられて真面目にやると町のちゃんとした身分証がもらえる」


 何それ、優しい。


 とはいってもやはり強制収容所での強制労働、甘いものではないらしい。そこで検問が役に立つ、門番に身分証がない旨を告げると入市税の支払と引き換えに滞在許可証を発行してもらえる。

 これがあれば町の人と同様に町の施設を使えるようになるのだそうだ。


「でも荷物とかも調べないでいいんですかね? 素通りでしたよ」

「うーん、調べるっていってもな…持ち込んでやばいものを見つかりやすいところに置いておくはずもないし、アイテムバックに入れられたら調べようもないしな」


 あっ、そうか…ここにはそう言ったものがあるんだった。うん、考えてみれば俺の異空間収納の中身なんて調べようがない。

 なるほどそりゃ取り締まりも難しいわ。


 ちなみに身分証は町が発行したもの、王国が発行したものが一番信用があるそうだ。

 ついでギルドが発行したもの。これは冒険者ギルドの他に鍛冶師ギルドや商業ギルドなどがある。

 外国からやってきた場合はその国発行の渡航許可証というものがあるそうだ。

 ビザみたいなものかな。


 シャイガさんが使った身分証は当然冒険者ギルドの発行したものだった。

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