1-06 恐竜は男の子のロマンなのだ。
1-06 恐竜は男の子のロマンなのだ。
まだ距離的に遠く、しかも木立が邪魔でちらちらと見えるだけのはずなのだが俺にはその姿がはっきりとらえられた。
それは恐竜と呼ばれる生き物のうち竜脚類に分類される生き物に似ていた。四本足で長い首と尾を持ち、草食でとても大きいやつらのことだ。
ディプロドクスや、アパトサウルスによく似た形。
だがそれはひとまず置いておいて俺は奇妙な視界に戸惑っていた。
人間の目は可視光線、つまり電磁波を使って外界をデータ化する器官だ。物の裏側や、障害物の向こうは見えない。光が直進する性質を持つ以上これはしようのないことだ。
だがどういうわけか俺にはその隠れている部分が見えている。
そういう知覚方法がないわけではない。例えば蝙蝠であり、例えばイルカである。音を使ったエコーロケーション。音は反響して曲がるので認識範囲が深くなる。
だがそれとも違う気がするのだ。
まるで何か透過性のあるものでそれを見ているような…
エコーとかCTとか?
見え方としてはまず普通の視界がある。普通にものが見えている。目で見ている。
そこで目の前にある木に焦点を合わせると、木は普通に見えるのだがその向こうにあるものもぼんやりと重なって見えてくる。
これは目で見ているんじゃない。額の中心からまっすぐに線が伸びているような感じがあって、その線が伸びる方向が見えているんだと思う。
でここからが重要。
その隠れている存在に焦点を合わせようとするとそれが可能になる。
前にある障害物をすり抜けてその向こうに焦点が合うんだ。
しかも3DCGのように対象が立体的に脳裏に思い浮かぶ。
ちょっとドキドキする。
なんでこんなふうにとは思うが…まあいいや、とにかく見えるのはいいことだ、それにひょっとしたら左手の魔導器に何かそう言う機能が搭載されているのかもしれないし。
その知覚によると歩いてくるのは間違いなく恐竜。
「あれってなんです?」
当然聞いてみる。
「見えるのかい? 目がよいんだね…どんな風に見える?」
「えっとですね」
俺は見える物を観察しながら説明した。
大きさは多分三〇mから四〇m。首が長く、がっしりした胴体を持っていて、しかも尻尾はさらに長い。全長の半分ぐらいが尻尾じゃなかろうか?
このタイブの恐竜の首や尻尾ってあまり動かないようなイメージがあったんだけど、想像以上に良く動いている。やはり地球の恐竜とは違う存在なんだと思う。首は横の方まで曲がるし尻尾は鞭のようにヒュンヒュン振り回すこともできるようだ。
「体の色は?」
結構カラフルだ。哺乳類みたいに全身が毛皮でおおわれている。緑や赤や黄色の体毛が全身にあって綺麗と言っていいんじゃなかろうか? あっ、ただ尻尾の先っちょだけが何か硬い質感を持っているね。
それが大小四〇匹、頭(?)ぐらいで群れを作って歩いてくる。
「うん、それは『
「ええ? どういう意味」
危険はないのに危ないって何?
「あとで説明してあげるよ、それにしてもこの距離でそこまで見えるというのはディア君は何か知覚系の【
「?、贈り物ですか?」
「ああ、そうか、ギフトもわからないか、うーん、そうだな、人類種族が持つ神さまがくれた特殊な力とでもいうのかな、例えばだけど【鷹の目】というギフトがあるんだけど。遠くのものを大きくはっきり見ることのできるギフトだね。【観察眼】というのもあるね。これは小さいものをはっきり見ることのできるスキルだ。こういう五感を強化するものを知覚系ギフトと言うんだ。
鷹の目を持っている人が弓など使うととても強力だよ」
つまりゲームで言う所のスキルみたいなものだろう。
「すきるみたいなものですか…」
「なんだ
ふむ、やっぱり
「あと…そうだな、例えばわたしは【身体制御】というギフト、いやスキルを持っている。これは自分の身体をイメージ通りに動かせるようになるギフトだね。他にも【動体視力】【身体強化】【気配察知】も持っている。
それでね、特定のスキルがそろうと【統合スキル】というものが手に入るんだ。わたしの場合は【武道家】というやつだな。戦闘全般に補正が得られるし、ちょっと特殊な力も使える」
へー、面白い。つまりスキルを集める、必要なスキルがそろう。するとジョブが手に入るということなんだな。なんかゲームっぽい。
「この人の場合は生まれながら【統合スキル】を持っているのだけどね」
? エルメアさんが楽しそうにくすくす笑っている。
「条件を満たせは統合スキルは複数取得できるのだが、他にも生まれながらに統合スキルを持っている人間もいるということだね。こういうのは【天職】とかいうんだけどね、まあどんな道を選ぶかは人それぞれということだ」
くすくす、という声が聞こえる。つまりシャイガさんは天職を持っていたのにそれを無視して別な道を選んだということなのだろう。それのどこに笑う要素があるのか不思議だけど。
ただゲームと違うのはスキルをとって強くなるというのではないらしい。逆にその技能を修行したからスキルとして結実する。開眼するとでもいうのかな、剣術を学んでいるとあるところで【剣術】のスキルが生えてくる。そうするとグンと一回り強くなるのだそうだ。
そして必要なスキルがある程度揃うと【統合スキル】というやつに昇華する。
【剣士】とか【槍士】とか【弓士】とか【魔法士】とか【調理士】とか【歌手】とかいろいろあるらしい。
そしてこの統合スキルを取得するとまたさらに一段階強くなる。つまり剣のスキルを持つ者と持たないモノとの実力差というのは決定的で、たとえ剣術のスキルを持っていても剣士の統合スキルを持つ者にはまず勝てないのだそうだ。
すごいなスキル。
頑張ればご褒美がもらえる。だから『ギフト』神さまの贈り物というわけだ。
ぐもおぉぉぉぉぉぉぉんっ
くおぉぉぉぁぁぁっ
そんな話をしているうちに当の
「あんまり近くに行くんじゃないよ、踏まれたらひとたまりもない、尻尾にも気を付けるんだ、尻尾の威力は凄まじくてかるく振ったのが当たっただけで人間なんか吹っ飛ぶからね」
「・・・ああっ!」
そうだ、思いだした。確かこのサイズの恐竜ってかるく腰を振るだけで尻尾の先端が一瞬で音速をこえるとかなんとか。
しかも鞭のように大きく動くのならその衝撃は凄まじいものになるのではないだろうか。
しかもこの巨体。
キリン最強伝説というやつもある。
なんでも大人になったキリンはその大きさゆえにもう他の動物に捕食される心配はないんだとか。ひょっとしてこいつらも…
「最強生物か!?」
「あははッ、確かにこいつらは強いよ。
毛皮の毛は強靭で剣でもなかなか切れないし、しかも皮自体も強靭で厚い、普通の刃物じゃ剣の方が負けてしまう。だからと言って戦えないわけじゃない、人間だって大したものなのさ、こういったやつを切れる剣だって作れるし、魔法だってある。こうみんなで囲んでな…」
シャイガさんが教えてくれたその戦い方は捕鯨に似ていた。
まず鎖の付いた銛を打ち込んで体力を消耗させる。当然鎖の先には重しがついている。そうやって動きを阻害しながら上等な武器でまず足を攻撃して動きを止める。このときは足は必ず後ろ足になる。シッポの動きの関係で前足は十分に攻撃範囲なんだそうだ。後ろ足だけが死角。それに前足は強力なキックをくりだしてくることもあるらしい。危ないのだ。
うまく後ろ足を破壊できたらほとんど勝利は揺るがない、今度は首の付け根に攻撃を集中し、息の根を止める。
とこういう戦い方になるらしい。
以前怪我をして暴走した衝撃亜竜を討伐するときの記録だそうだ。
その時の戦闘は実に八時間に及び。尻尾の撒き散らす衝撃波で、そして前足のキックや踏みつけで二〇人以上の犠牲が出たという。
「倒せない相手ではないが被害が大きいし、あいつらはそっとしておけば危なくない」
そう言って見上げた先には衝撃亜竜がのんびりとゆったりと木の枝葉を食べている。こちらのことは全く気にしていない。
「こいつらは基本群れで行動するからね。一頭でもそれだけ苦労するんだから群れと戦うなんて冗談じゃないってことさ。
それにこいつらは割と人間の生活圏近くを回遊していて、そのおかげで肉食の危ないのはこいつらを警戒してここら辺にはあまり来ない
戦う理由がないよね」
勝てないことはないが大きな被害が出るし、苦労も大きい。そっとしておけば害にならないししかも微妙に役に立つ。だから放っておくと…
「まさに触らぬ神に祟りなしですね」
「なあにそれ? 神さまは積極的にかかわって行った方が良いものよ」
「あ~~~」
この世界ではそう言う認識になるのか。
これは所変わればというやつだね。
とりあえず笑ってごまかしておこう。
「あらいけない。変なおまけがくっついてきちゃったわ」
いきなりエルメアさんが警告を発した。声も若干厳しくなっているような気がする。
ルトナも同じようにある方向。つまり衝撃亜竜のやってきた方向を見ている。どうやら獣人の人は人間よりもずっと索敵範囲が広いらしい。
少し遅れてシャイガさんが呟く。
「ああ、グラトンか…まあ、あいつらバカだからな」
俺の『目』にもそれは見えていた。今度は肉食恐竜の登場だ。シャイガさんが武器を手に戦闘準備を始める。
しかし異世界で初めての戦闘と言ったら普通はゴブリンか角兎だろう。ちょっとサービスが良すぎやしないか?
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