1-05 魔物は僕らの希望だったりするかもしれない。
1-05 魔物は僕らの希望だったりするかもしれない。
ありがたいことにシャイガさんたちは俺のために出発を一日見送ってくれた。まだ俺のことを動かすのは不安があると判断したようだ。
やはり一番の原因は左腕だろうとおもう。
血も止まり、傷もふさがっているがシャイガさんの見立てでは『回復魔法で傷はふさがっているが、切り落とされてまだ間がない』状態なのだそうだ。
見事な見立てである。
だが痛みなどは全くないし、俺の感覚では腕を切って魔導器をつないだという認識だったので体調に対する不安は感じていなかった。むしろ体調自体は絶好調である。
言っても信じてもらえないけど。
だがおかげさまでお話しタイムになったのだからかえってありがたい。
で話をするというのであれば聞きたいことはたくさんある。だが今気になっているのは当然『魔物』と『冒険者』という言葉。
では魔物とは何なのか。
まず魔物の定義だが体に『魔結晶』という特殊な物質をその体内に保有する『存在』ということになる。
なぜ存在かというと魔物が生き物のばかりではないからだ。
例えば原生動物っぽい魔物。動物が強化されたような魔物は定番。昆虫型などは多彩で種類も多いそうだ。ここら辺は『生き物』である。
だがそこからはみ出す『動く死体』『人を襲う岩』『肉食の樹木』『無機物のくせに動き回る何か』『実体のない煙のような何か』など、とんでもないものもいるらしい。
これらのすべてが魔結晶という物質をどんな形でか体内〔?〕に持っていて、魔法のような特殊な力を使えるという。それが魔物という存在だ。
もちろん魔結晶を持たない普通の動物もいる。
羊や豚のような家畜もそうだ。見た目では分かりづらいので要注意なんだとか…
俺は近くでのんびりと草を食んでいる牛みたいな生き物に目をやる。
この牛もどき、額の所に石のようなものがはまっていて、それが淡く光を放って見えたりするのだけど…
「ああ、そうだよ、その
うーん、よくみる…と鎧牛の魔力は他の
だが鎧牛の魔力はなんというか…そう、規則正しく動いている感じがある。
ひょっとしたらこれがそうなのか?
…と思ったがとりあえず口にはしなかった。別に深い意味があったわけではなく、別のことを口にしてしまったからだ。
「この子、鎧牛っていうんですか?」
「ああ、鎧牛の『ロム』という名前だ」
ロムは固有名詞だろう、動物に名前を付けるという習慣はちょっと安心できる。
現状ではここは俺にとって異世界と言うか異邦で、そこに暮らす人たちが自分の理解できる感性を持っているというのは安心材料だ。
きっと所変わればで違う部分もあるのだろうが、一部修正ならともかく全部修正だと生きて行くのがつらい。たぶん。
「こいつのように人間に飼育されている魔物もいるんだよ、魔物全部が人間を襲ってくるというわけじゃない。中にはこうして役に立ってくれる子もいる。本当に魔物というのはどこにでもいるのさ」
何それ、微妙に怖い。
さてそのロム君だが、肩の高さはシャイガさんを超えるぐらいある。つまり二m弱だ。頭からお尻までは三mほど。ものすごくおっきい。
筋肉質でがっしりした体型で、バッファローの足をずっと強靭にしたような動物と言うと分かりやすいかもしれない。筋肉質でものすごい力持ちにみえる。
頭の角は二本で黒曜石のようにまっ黒。大きく曲がって前に鋭くとがっていて、こいつの突進とか凄そうだ。
牛と決定的に違うのはその名前の由来になったであろう鎧。
頭の上、首から背中。肩、お尻のあたりに装甲板を張り付けたような甲羅が存在するのだ。確か皮骨とかいうんじゃなかったかな。それがまるで鎧のようなので鎧牛と呼ばれているらしい。
「触って大丈夫ですか?」
「もちろん、とってもおとなしい子だよ、ルー」
シャイガさんが請け合って、ルトナが俺の手を引いてくれた。おっきい動物ってそれだけで怖いよね。でも触ってみたらものすごくなつっこい動物だった。目が優しくて、装甲はまるで石のような手触り、そしてそれ以外の所は毛皮におおわれていて、その毛皮ものすごくふわふわで触り心地が良い。
『でへへへへっ』
いや失礼。シャイガさんたち苦笑しているよ。
魔物は本当にどこにでもいる。この大陸中どこにでも、そうそうこれも話をしていて分かったことだがここは『ロディニア大陸』と呼ばれる大陸の上だ。
三つのブロックで出来た大陸で今いるのが真ん中辺、東西に延びる三角形の陸地だ。
その東側に件の山脈があり、その向こうが北から南の方まで伸びる長細い大陸。
残る南から西にあるのが沢山の島が集まった他島エリアとなっている。
この大陸のいたるところに魔物はすんでいる。
まあ地球のいたるところに動物がいるというのと同じレベルだ。
魔物というのは魔力の濃い地域を好む性質があり、力の強いものがそう言ったエリアを独占するらしい。
例えば深い森、山の上。砂漠の中。迷宮の中とかだそうだ。
ん? 迷宮? これもあとで聞かないと…
であるので魔力濃度の低いところはあまり強力な魔物はいないらしい。
人間はそういった所に村を作り、町を作り、集まって国を作って暮らしている。
昔の地球の状況に似ているかもしれない。
村や町は安全なエリア、大きな町などは特に安全。だがそこを出れば自然が沢山で自然の中にはもちろん多くの動植物が存在する。中には猛獣などの危険なものもいるし、魔物という危険なものもいる。そんな感じ。
油断すればぱっくりやられるわけだ。
うん、こう考えると昔の、もっと自然が身近にあったころの生活と大きくは違わないと思う。危険度が若干上がるくらいかな。
「ねえねえ、お父ちゃん。一番強い魔物って何?」
「うーん、一番かい? それは難しいな…海ならば大きな船を握りつぶしてしまう大蛸とかいるし、砂漠ならどんな硬い物も砕いて食べてしまう一〇〇mもあるサンドワームがいる。小さくてもどんな生き物も一瞬で殺す毒蜥蜴とか、生き物を石に変えてしまうガスを使うのもいるし…」
ハイ、訂正します。危険度は大幅に上がっているようです。
では魔物がマイナス存在なのかというとそうとばかりは言えないのが現状だ。
まず魔物から採取できる『魔結晶』だが、これは文明の根幹を支えるエネルギー源であるらしい。たとえば照明器具。水を汲むためのポンプ。そう言った機械のようなものは存在するらしく。そしてこの機械は電気ではなく魔力で動く。魔結晶というのは魔力の塊でもあるのだ。
なので魔結晶は売れる。
さらに地球での生活を思いだせば身の回りにあるものは自然界からとれるものが実に多い。綿や絹、お肉もかつてはそうだった。毛皮もあるだろう。
つまり魔物は素材の宝庫でもあるわけだ。
なので魔物を狩って生計を立てる人たちが現れるのは自然な流れだろう。
さらには町や街道の安全のために魔物を討伐する人もいるだろうし、そう言ったところを旅する人を護衛して魔物と戦う人たちもいるだろう。
こういった人たちが相互扶助のために集まりできた組織が冒険者ギルド、なのでこのギルドに所属しているものが冒険者ということになる。
冒険者という言葉は彼らが最初魔物という危険と戦って一獲千金を目指していたところからついた名前らしい。危険を冒す者だから冒険者というわけだ。
ただいまはその活動は多岐にわたり、町の近くでの植物採取や周辺の農家の手伝い。果ては工事現場でのドカチンまで仕事に含まれ、多くの人が活用する組織になっているそうだ。
なるほど大体わかった。
ではさらにもう一つ。
「迷宮ってなんですか?」
実に気になるワードだ。
「迷宮はお化けがいっぱいいるとこ~」
ありがとうルトナ。解らんがな。
「あははッ、迷宮というのはね…」
迷宮というのは魔力濃度が濃い魔物の巣窟のことを言うらしい。
この魔力という不思議パワー。あろうことか濃度が濃くなるといろいろな怪奇現象を起こすのだそうだ。たとえば気候が変動して固定されたり、空間がねじれて変な風につながったりとか…
スゲー、マジスゲー
そして魔力の濃いところには強い魔物が住みつく。
まあそれだけなら単に危険地帯と言うだけで魔物の討伐をしていればいい話なんだが、この迷宮、どういうわけか古代魔法王国の遺跡で発生することが多い。
どこそこが迷宮化した。ほれ調べろー、やった遺跡が見つかったー。とかあるらしい。
古代魔法王国の遺跡から見つかる遺物の中にはものすごく貴重なものもあり、そう言ったものを発見した冒険者が一生かかっても使いきれない金を手に入れたとか言う話は結構あるという。
しかもここはとても効率よく魔物が狩れる。
なので迷宮に挑戦する人間はたくさんいるそうだ。
それが迷宮。人の欲望と危険が渦巻くところ。
「でも魔物が発生しやすいのは危ないのでは?」
「おっ、よくわかったね。迷宮というのは魔物があふれやすい場所でもあるんだ。だから迷宮の魔物討伐は重要な仕事だよ。僕たちも昔はよくやったよ」
ルトナが生れたのを機に迷宮からは手を引いたらしい。
「私も大きくなったら迷宮に行くの」
「へー…そうなんだー」
できればおれは…やっぱり興味はあるかな。
はっきり言ってこれは一つの
ひょっとして、もし魔物を倒せるぐらいの力を手に入れることができれば、それで暮らしていけるかもしれない。
ひょっとしたら一攫千金とか狙えるかもしれない。
荒唐無稽と言われるかもしれないが現状俺はただの孤児で、天涯孤独の身だ。
何とか生活していくための方向性は模索しないといけないのだ。
これが普通の子供なら孤児院みたいなものに引き取られてということになるんだろうが、俺の年齢でただ流されるというのはいかがなものか…
「あら、あなた、あの音」
「ん?」
「なんかずんずん聞こえる~」
三人が今までと全く違った雰囲気で話し始めた。
そう言えば何か響いてくるような振動が…
俺はその振動元を探って顔を動かす。
ある方向を見たときそれが何かが見えたような気がした。木立の向こう側なので見えるはずもないのだが、それが見えたような気がした。
でも最初は『妄想か』と自分を疑ったのだ。
そこに見えたのは紛うことなき『恐竜』だった。
浪漫だ。浪漫が歩いてくる!
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明日からは一日一回の投稿です。(しばらくは)
いずれペースが落ちます。
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