彼の戦場作法
リスクを減らす為にかなりの余裕をもって道を外れることを進言し、何とかこれを飲ませることは出来た。
「……」
種は撒いた。やれることはやった。だから後は天に任せるのみと言う奴だ。
アラガネを装備する。会社支給の拾壱式軽機関銃に弾を入れる。左腕の生体銃にも弾を食わせ、最後に大楯を背負う。「……」。展開すれば上半身を軽く隠せるコレは僕の後にお母さんが産んだ生体兵器だ。硬い甲殻で覆われたソイツは意志はなくとも生きている。僕に合わせる様にして成長して来た双子の弟の様なものだ。
銃では無く、盾。それを手渡されたことに反感を覚え、一時期僕は彼を放置していた。それでも今、こうして戦場に立つ際には最も頼りにすることになると言うのだから、本当に勝手だ。
「……よろしく」
言って、左手で背後を叩く。同じ遺伝子情報を持つ甲殻同士がぶつかりあった。
アホ様は貴種に連なるモノなので、モノズの契約数が多い。三十六機だと言う。その全てにしっかりとした戦闘用のボディを用意できる財力も立派な武力だ。
だけど見つかってはいけない迂回部隊にも関わらず、三十六機全てを連れて行くと言うのはどうかと思う。目立つことこの上無い。
「……」
減らす様に意見を言うか三秒考える。睨まれたので諦めた。嫌われ者の僕の意見は聞き入れられないだろう。
そうしてアホ様、僕、ミツヒデの小隊は行軍を開始した。
相手はホッパー混じりと言えど、足はウォーカーに合わせることになるので、そこまでの速度は出ないはずだ。ソレ込みで早めに道を外れれば接敵のリスクは減る。
アホ様はアホだが、アホ様のモノズ達はアホでは無いらしい。六機。リーダーと思われる奴等が戦闘に立ち、雪道を進む。線は六本。通ったモノズは六機。そう見える。ミツヒデのモノズもその跡をなぞる様にしているので、インセクトゥム達が痕跡を見つけても、迂回部隊とは思わないでくれるかもしれない。「……」。そんな淡い希望がふと浮かんだ。
ジャスティス、フリーダム、ディスティニー、インフィニット、ホープ、ブレイブと言う名前らしい。
アホ様の持つ有能な六機のモノズの名前だ。
正義、自由、運命、無限、希望、勇気だ。
「……」
何と言うかとても苦労して居そうな名前だと思った。
まぁ良い。
人様の名前に意見するのは良くないことだし、それはモノズ様であっても同じだろう。僕がそう呼ばれる訳ではないし、僕の本名だってそこまで誇れる様なモノでもない。
「上手く行きそうだな!」
と、僕を見下す様に見つつ、得意気にアホ様。それにしれっと「そうですね」と返すと何故か睨まれてしまった。
早めに道を外れたのが良かったのか、今の所敵には会っていない。
……まぁ、道を早く外れたせいで距離が稼げていないので、この調子だと敵の背後に蓋をすることは出来ずに、待ち伏せ部隊が敵を全滅させた辺りで漸く道に合流できるかどうかという所なので……上手く行けば敵には『この後も』会わないだろう。
そうなる様に僕は時間を調整した。
上官殿は気付いて居る。ミツヒデも気付いて居る。アホ様は自分の意見をごり押すのに一生懸命だったので気付いて居ない。『敵の背後を取る』と言う作戦から外れて『自分の意見を通す』が目的になってしまえばこんなもの。そう言うことだ。
つまり今、僕等がやっているのはフル装備での雪中行軍訓練と言う訳だ。
辛いと言えば辛いが、この人数で四十匹のインセクトゥムに接敵するよりはマシだと思う。
「あ、拙い」
その言葉と同時に、大楯を構えてミツヒデの前に出た。盾に弾丸が当たる。AR。その辺りだろう。連続した射撃音とソレを防ぐ僕の盾の鈍い音が雪原に吸い込まれていく。
雪中行軍訓練はコレにてお終い。前方に簡易塹壕を用意して、歓迎のクラッカーが成らされる。待ち伏せ。やろうとしていたことをやられた形だ。
「アル、反転。先のツリークリスタルの影に隠れるので、その安全確保を」
「ミツヒデ、君はアルに続いてくれ。カバーに隠れての援護を」
ひゃん、と「おう」。返って来た二つの返事。それを受けながら――。
首を振る。
戦場を見渡す。世界を見渡す。
正面のカバー。右側面の高台に向かう足跡。そして――僕が指示を出さなかったから混乱するアホ様。
敵、数、十五。内、ウォーカーが十四。更にその内の十三が前方の雪を固めたカバーにて銃撃。問題は側面高台に回り込んでいる二匹。ホッパーとその護衛のウォーカー。
雪は跡が残る。
だから彼等が居ることを僕は察知できた。出来たが、雪は速度を食い潰す。真っ先に潰したい側面の指揮官が潰せない。時間が無い。手数が無い。僕が使える戦力が無さすぎる。
どうする?/思考。
どうしたら良い?/思考
考える、考える、考える。一、二、三、の三秒。
「……」
あぁ、駄目だな。このままだと、逃げられる。
それが分かった。
だから覚悟を決める。
やるか。
嗜虐の思考に口の端が持ち上がる。唇を軽く湿らせ、頭部装甲で表情が見えないのを良いことに、嗤う、嗤う、嗤う。
「モノズを前に出して、後ろのツリークリスタルの陰に! ミツヒデが確保しています!」
「わ、分かったっ!」
蜘蛛の糸を垂らす。それに縋るアホ様。そんな彼のモノズが彼を逃がすべく、前に出る。僕も走り出す。射線を引っ張る様にして誘導しながら走る。全てのモノズが僕
ミツヒデの隠れるツリークリスタル。そちらの側の視線を遮りながら左腕の生体弾を射出。火薬では無く、圧縮空気を用いたソレは戦場音楽としては実に控え目だ。インセクトゥムの、或いはモノズの、それ以上にミツヒデが担ぎ出したガトリングガンの轟音に掻き消される。
「え?」
そんな中、何故かそれよりも遥かに小さいはずのアホ様の呟きが僕の耳に届いた。
出力を絞ったので、ムカデの装甲など抜けるはずもない一発。
近い距離で放った僕の一撃は――それでも走っている最中の人間をこけさせる位は出来た。
「っ! こんな時に何をっ!」
転ぶアホ。それを見て、驚いた演技。大事なことは声を出すこと。注意を引くこと。インセクトゥム達にこけたアホの存在を見せつけること。
急旋回。
異形の右足で雪原を一気に蹴り飛ばし、横に跳ねる。
僕が飛び去ったその後に銃火が集中する。
タタラ重工製、シロガネ。
高機動性を確保する為に装甲を犠牲にしたそのムカデの中身が赤いモノを垂れ流し出した。
一気に赤く染まる雪原を見て、思う。
勝ち目が出来た、と。
「何をしている」
その高揚を表に出さず――
「攻撃の手を止めるな」
仲間の死に動揺しながらも、その無念を怒りで押し流す様に怒声を張りながら――
「僕が指示をだす」
僕は勝つ為に三十六機のモノズの指揮権を一時的に確保した。
あとがき
ミツナリ×
ミツヒデ○
疲れてる上に心が弱ってるとろくなミスしないし、気が付かねぇ!!
みっちゃんはな、メインキャラなんやぞ!!
はい。
そんなやらかし。修正されます。
でもみっちゃんはみっちゃんだから……。
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