アライ

 色々と大雑把な造りをした男だった。

 四角く角ばった顔に分厚い唇。

 大きく、真ん丸な瞳が手の中の端末の上をぎょろぎょろと動く様は何だか不気味だ。

 言葉を飾らずに言ってしまえば醜男しこおと言う奴なのだろう。


「――はい、契約完了です。ようこそA。我々は貴方を歓迎します」


 それでもにっかり笑うと奇妙な愛嬌のある人だった。見た目はトゥースでも通用しそうな勢いだが、れっきとした人間だと言う。

 アライ。角ばった男は僕にそう名乗った。

 彼のその言葉を証明する様に金属球、大型のモノズが向かい側に座る彼の左右に護衛の様に控えていた。

 モノズ。金属球のボディに、ツリークリスタルの瞳を持つ人間の友。

 ソレはこの荒廃した世界で弱い人間が生き残れている理由の一つだ。

 僕の左腕が生体銃になっていることから分かる通り、トゥースは戦闘種族だ。一対一でまともに戦ったら人間はトゥースには絶対に敵わない。その戦力差を覆すのがモノズと言う訳だ。

 彼等は個性でバラつきは有れど、平均的に見ると優秀な歩兵であり、疲れ知らずの輜重兵であり、一流の工兵だ。

 実に羨ましい。


「……」


 何となく傍らに視線を落としてみればコッペパン。

一応、僕の護衛だ。

 気にして貰えたのが嬉しかったのだろう。もへ、と舌を出してコーギースマイルを浮かべたアルと目が合った。「……」。何となく甲殻で覆われた左手を出してやる。嬉しそうにじゃれついて来た。

 ……実に頼もしいことである。







 一週間程を研修期間として過ごした。

 主にやったのは僕がどう言ったスキルを持って居るかの確認だ。

『こういうことが出来ますよ』と申請し、テストを受ける。そうして一定の技能が確認できればそのスキルの保持を主張できるようになる。まぁ、運転免許の様なモノだ。

 その結果、僕が主張できるスキルは――割と多かったので、2以上のみを列挙する。すると、【潜伏:2】【戦闘継続:3】【索敵:2】【重装戦闘:4】【指揮:2】【操縦:2】【隠密行動:2】【パルクール:3】となった。ランクは1から始まり5で最高。1で一人前と言う扱いをされる。……なので、そういう目で見ると僕は比較的優秀だ。数字だけ見れば、だが。

 お父さんも特化型だった。

 そして僕もある意味で特化型だった。

 攻めには向かず、守りに向く。基本的な攻撃技能である【射撃】がようやく1に届くだけと言う有り様だ。

 そんな訳で、非常に分かり易く、非情に突き付けられる現実リアル

 狙撃手憧れへの適性は、僕には無い。

 試験する会社が変われば――と言う僕の僅かな望みは見事に砕かれたと言う訳だ。

 僕は狙撃手に成りたかった。

 僕は狙撃手に向いて居なかった。

 まぁ、だが、そんなことは――


「……とっくに知ってるよ」


 誰も居ないリノリウムの冷たい廊下で、そんな言葉を吐き捨てた。







 タタラ重工系列の傭兵派遣会社、カンパニー×カンパニー。ダブCと略されることもある企業の応接間で――


「偏ってはいますが、素晴らしい成績です、A。重装戦闘に関しては今直ぐにでも教官役が出来そうだ」


 四角い男、アライはにっかり笑ってそんなことを言ってきた。


「……どうも」


 それにどう返したらいいかが分からない僕は半笑いでそんな言葉を返すのが精一杯だった。我がことながら少しどうかと思うコミュ障ぶりだ。

 だがそこは採用担当。

 人当たりの良い大男は僕のそんなキモい対応にも笑顔で応じる。


「さて、それではビジネスの話を始めましょう。A、我々は貴方に様々な戦場を紹介することが出来ます」







 野戦服に身を包み、CCのロゴが入った会社支給の帽子をかぶって――。

 明日の朝出発だと言うので、僕は急ぎ装備を整える為にキダイの街の地下、下水道に足を踏み入れた。

 人類の街で有っても、人間の街であるキダイではこの手の店は表には出せない。

 虚ろな目をした人間の女性が檻に中に居る。

 何人も、何人も、何人も。

 そしてその胎は膨らんでいる。

 何人も、何人も、何人も。


「……」


 トゥースは最早、人類だ。だからここにいる彼女達も大抵は合法的にここに墜ちて来たのはずだ。だから違法ではない。それでも表には出せない。出せば、公にすれば人間はトゥースを人類として見ることが出来なくなる。

 そう。姿形が近く、言語を同じくして、会話もできる。それでもトゥースが人間では無く、人類として分類されるのは決定的に『分かり合えない部分』が存在するからだ。

 トゥースは、ツリークリスタルを原料に、人間、若しくはトゥースの雌性体の胎で武器を造ることが出来る。

 トゥースである僕はその辺りに忌避感はない。本能的に、そう言うモノだと理解出来ている。

 それでも人間の友人を持つ両親がソレを隠す様にしていたことから人間が受け入れてくれないと言うことも理解出来ていた。


「アル」


 檻の一つ。そこから伸びる子供の様な少女の手に撫でられているアルを呼ぶ。アルは僕を見て、少女を見て、それから僕の後を追う様に駆けて来た。

 僕はそれを確認して歩きだした。

 後を追うアルを認識して。

 後を追う少女の視線は無視して。






あとがき

あっさり何に成りたかったかはバラしていくスタイル。


暫くは許してくださいな宣伝。

いよいよ明日Doggy House Houndの一巻の発売日。

よろしくおねがいしゃっす!!

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