最速英雄伝説~パーティを追放された俺は、素早さを極めて無双する。俺を追放したパーティメンバーが戻ってきてほしいと言っているが、もう遅い。決断が遅い。行動も遅い。とにかく遅い! 速さが足りていないッ!~
第四十四話 所詮人は一人で生き、一人で死んでいくものなんだよ!
第四章 発展する領地と頻発する問題
第四十四話 所詮人は一人で生き、一人で死んでいくものなんだよ!
季節は巡る。
春も終わり、もうじき夏という時期に差し掛かっていた。
今日のライナーが何をやっているのかと言えば。アリス率いる移民たちが領地へと到着し、彼自らが出迎えて受け入れをしている。
「お久しぶりです、バレット準男爵」
「やあアリスさん。よく来てくれた」
以前は気安い態度で接していたアリスではあるが。
今や貴族と平民という身分差があるのだから、表面上は丁寧に対応している。
今日はノーウェルが宴の差配をするというので、出迎えを終えたらアリスを連れて冒険者ギルドになる予定の建物を視察する予定となっていたのだ、が。
しかし、何の波乱もなく行動することが許されない運命なのか。
移民たちの後ろに控えていた護衛の冒険者たちの中には、やはりというか何というか。マーシュたちの姿もある。
彼は人込みをかき分けてずかずかと歩みを進め、アリスと握手を交わしたばかりのライナーに、鼻息も荒く詰め寄った。
「やいやいライナー! てめぇいい御身分じゃねぇか。ああん!?」
「久しぶりだなマーシュ、元気そうで何よりだ。で、アリスさん。ギルドの予定地は北側で、森に近い方を――」
「あっさり無視して、話を進めてんじゃねぇ!」
ツッコミの代わりに、手にしていた水筒を地面に叩きつけたマーシュなのだが。
彼が威圧的な行動を取った瞬間、ライナーの背後に控えていた護衛――テイムされた囚人たちが一斉に動いた。
「貴っっっ様ぁ! ライナー様に対して無礼だろうがぁ!!」
「野郎ぶっ殺してやる!」
「表に出ろやゴラァ!!」
強面の男たちが十数名。一斉に殺到してきたのだから、マーシュはビビる。
しかしナメられたら終わりの冒険者である。
彼は引きかけた足を一歩進めて、掴みかかってくる囚人の先頭にいた男の胸倉を、逆に掴み返して叫んだ。
「準男爵がなんぼのもんじゃい! 俺はな、コイツに言いたいことが山ほどあるんだよ!」
自業自得な面はあるが、ライナーから散々振り回された過去があるのだ。
マーシュは一年以上も怒りを燃やしていたし、パーティメンバーも皆、ある程度の不満は持っていたはずだ。
特にテッドは地元を出立する直前まで、酒場でマーシュと共にライナーへの不満話で盛り上がっていたくらいである。
自分と同じように、言いたいことがたくさんあるだろうテッドの方に振り向いて、マーシュは再び叫ぶ。
「おいテッド、お前も何か言ってやれ!」
「私は冒険者仲間というだけで、準男爵様に反抗する気はございません」
「おい!?」
しかし儚い友情だった。
ライナーが居ないところでなら何とでも言えたが、今や目の前の男は貴族である。
準男爵に正面から歯向かえば、不敬罪での処刑だって普通にあり得るのだ。
もう少し穏やかに文句を言っていれば、彼も加勢しただろうが。
出会いがしらに領主を怒鳴りつけて、その護衛に喧嘩を売るという流れになったのだから、テッドは全力で保身に走った。
親友である彼がそうなのだから、他のメンバーは言うまでもない。
「話が進まないな。アリスさん、まずは引率ありがとうございました。業務のことはギルドで話しましょう」
「……連れて来た私が言うのも何だけど、マーシュ君のことは
「今度時間がある時にでも話しますよ」
さらっと流してギルドへ向かおうとしたライナーの背後では、護衛たち対マーシュの
「うおおおお!! テッドもシトリーもジャネットもパーシヴァルも、誰も手伝ってくれねぇのかよ!」
「ああうん。流石にこの流れで味方はできないねぇ」
「牢屋に入るなら一人で入りなさいよ」
「あうあう……」
女性陣も頼りにできないと知ったマーシュは。一対十五の絶望的な争いに、一人で身を投じることになったのだ。
「囲んでやっちまえ!」
「おい、さすまた持ってこい!」
「暴れるなこの野郎!」
「一人が何だってんだ!
警備員から囲まれることになったのは暴走した彼の落ち度ではあるが。それでも、誰も助けに入ってくれないところを見て、彼は悟りを開いたらしい。
人間誰しも、最後のところでは一人。
人に頼って生きていくことの愚かしさを、マーシュは悟った。
だからと言って戦闘力が上がるわけでもなく、覚醒するわけでもない。
マーシュは人の波に飲まれて姿が見えなくなったかと思えば、数十秒後にはロープでぐるぐる巻きにされた状態で捕らえられてしまった。
そうしてそのまま男たちの肩に担がれていき、領地に着いて早々に牢屋へ連行されていく。
牢ではレパードが囚人を洗脳――もとい調教しているところなのだが。マーシュが辿る運命については、まだ誰も知らなかった。
「……本当にライナーだ」
そして移民たちの中から一人の女性がライナーの後ろ姿を眺めていたことも、まだ誰も気づいてはいなかった。
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