第四十話 四十倍速
レパードたちとの再会から、二週間後のことである。
『GYAAAAAA!!』
「もう少し右だ。あと二本分」
『チィッ、細かいことを言うな』
左を見れば青龍が尻尾を振るい、樹木をなぎ倒している。
船着き場の建設予定地にある木々をへし折り、残った樹木は伐採班が伐根していく算段になっていた。
「オラァ! キリキリ働けやぁ!」
「ヘイ、師匠!」
「師匠!」
「ししょぉぉぉおおおお!!」
右を見ればレパードがテイムした囚人たちが、一心不乱に働いている。
ライナーよりもテイムの力は上なので、今や自白剤ナシでも囚人たちを意のままに動かせるようになっていた。
その様を見ているライナーはご満悦だ。
感動したように天を仰ぎながら、両手を大きく広げている。
「最高だ。四十倍速で道森が開けていくし、俺の仕事を師匠が肩代わりしてくれる。その間に俺は別な作業を進めることができて、更に効率化が進む。やはりこの夫婦を雇って正解だった!」
確かに作業は大幅に前進していた。
当初は最低限の開拓に一年かけて、その後三年ほどかけて道を整備をしていく予定だったのだが。
「この分なら今月中にも、リリーアの領地までの近道を繋ぎ終わるな」
それに北東部にあるセリアの領地へも、すぐに道を拓くことができそうだった。
つまり山の鉱床から鉱物を流通に載せることができる。
そして他のメンバーの領地へも、すぐに街道を広げられるだろう。
青龍が出現してからというもの、周りの魔物は息を潜めるか遠くへ逃げ去ったので――方々へ向けた開拓の速度の上がったのだ。
予定していない部分まで前倒しで進められるとあって、普段はポーカーフェイスなライナーも喜色満面の様子だった。
「毎度のことだけどさぁ、ライナーって変人だよな」
「そうか? 求道者は皆こうだと思うが」
求道者という言葉の意味は分からないが、絶対に違う。
そう思いながら、セリアは聞き流す。
「木材の加工も順調で、製材業も形になってきた。次は開いた土地の地ならしだな」
「ライナー、肝心の船造りはどうするのさ?」
「代官に頼んで、王都の商業ギルドに募集を出してきた。来月には最初のグループが来ると思うし、呼んだのは船大工だけじゃない。普通の大工たちも呼び込んだ」
ライナーの野望は色々とある。
目下最大の目標は領地の人口二千人を、三年後までに一万人へ届かせることだ。
人口を増やすには食料と仕事が必要になる。
新たな産業の開発は急務だった。
「師匠の子がドラゴンなら、空輸産業を興してもいいな。西国ではワイバーンで輸送をしている国もあると聞くが、ドラゴンなら効率は段違いだ」
「許されるかなぁ、それ」
「ドラゴン相手に文句を言える奴もいないだろう」
それこそ龍殺しを達成したことのある、本物のドラゴンスレイヤーくらいだ。
ライナーがそう思っていれば、面倒くさそうに尻尾を振るっていた青龍の顔つきが突如として険しくなった。
何があったかと森の先を見ると、ノーウェルが酒瓶を片手にこちらへ向かってきているのが見えたのだが。
「お? ドラゴンか。珍しいな」
『キサマは何者だッ!!』
「儂はノーウェル。しがない相談役だ」
青龍の威嚇も何のその。
ノーウェルは暢気に切り株へ腰かけて、酒をぐいっと飲みほした。
警戒するドラゴンとリラックスする人間という、中々見られない構図ができたのだが。
「ノーウェル師匠。このドラゴンはレパード師匠の奥さんなので、手出しは無用です」
「ドラゴンと
青龍が威嚇の声を出しているので、レパードとノーウェル、それからライナー以外の人間は恐怖で顔を引き攣らせていたのだが。
「青龍も。この人は開拓責任者だから上司になる。挨拶くらいしないか」
『なんだと!? くっ、しかしこれも子のためか……。ぐぬぬ……よろしく頼む』
「おお、最近のドラゴンは礼儀が分かっているな。何、人を襲わんのなら皆仲間だ。こちらこそよろしく頼むぞ」
この場には頭のおかしい人間しかいない。
そう確信したセリアはさっさとこの場を離脱せんと、ライナーに書簡を一通手渡した。
「リリーアのところで、作戦の用意が整ったってさ」
「早いな。もう雇い終わったのか?」
ライナーが書類を読み進めれば、魔物の大規模掃討作戦の手筈が整ったという内容が書かれていたのだが。
「ああ、うん。おこぼれに与かりたい親戚がわんさか来たのと……条件をライナーのところよりも良くしたみたいで」
リリーアの領地での冒険者誘致政策を見て、ライナーは不安になってきた。
ライナーの領地でやっている、依頼料と素材売却を無税にする政策の他。
半年居れば金貨50枚の定着手当。
最低限の日当保障。
住居を無償で提供などなど。
様々な優遇条件がてんこ盛りだ。
蒼い薔薇のメンバーが各領地でやっている優遇策を、全部まとめて突っ込んだような施策になっている。
同じような条件で職人も募集したそうなので、この分なら人は集まるのだろうが。
「……俺のところですら大赤字なのに、財政は持つのか?」
「……もしもの時は助けてくれよな」
各自がドラゴン撃退で得た資金は総額で金貨9000枚ほどなので、一年もすれば資金の底が尽きるだろう。
セリアも近い将来破綻すると思っているのだろうが、もう募集はかかっている。
「初期ブーストがかかれば……発展は早くなるか。後は彼女をどうコントロールするかにかかっているな」
「今が攻める時ってのは分かるけど、攻めすぎじゃない?」
「いや、いいだろう。彼女もリスクを度外視で、最速を目指し始めたんだ。同志のことは応援したい」
絶対同志じゃないんだよなぁ。などと思ったセリアではあるが。
もうライナーとリリーアの間で、上手いこと中和してもらうしかないだろう。
この二人に振り回されるのはいつものことと思いながら、セリアはリリーアの領地へ向かった。
― ― ― ― ― ― ― ― ―
リリーア領再生物語~財政破綻都市再建計画編~
ライナーは、始まる前に何とかできるのか。
それはさておき次回、「女子会」は明日の朝に更新予定です。
殺伐とした領地開拓の中に癒しを。
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