第二十一話 別ドラゴン
『何じゃあ、貴様らは』
「あわわわわわわわ」
リリーアが口を半開きにして大慌てになっている中で、他のメンバーは冷静に状況を把握していた。
自分よりも慌てている人間を見て、逆に冷静になるアレである。
「リリーアがまた面白い顔してるー」
「まさか別人……いえ、別ドラゴンだったなんて」
さて、ドラゴンの出現で周辺の魔物は軒並み逃げ去った後だったので、七人と一匹は無事
すると、そこに居た一匹のドラゴンは、明らかに機嫌が悪そうにしていた。
「お、お食事中、失礼致しましたわ。では、私たちはこれで」
『むぅわぁぁああてぇぇえええい!!』
「ひぎゃあ!?」
恐らくA級の魔物である大型生物の足が、青龍の口からはみ出している。
化け物をほねっこジャーキーにしているドラゴンの姿を見たリリーアは、Uターンして颯爽と逃げ出そうとしたのだが、青龍は洞窟が揺れるほどの、凄まじい声量で呼び止めた。
『龍の住みかに足を踏み入れて、生きて帰れると思うかッ!!』
「え、えへへ、あ、あの、裸踊りでもお見せしましょうか」
へこへこと頭を下げるリリーアを半目で見ながら、セリアとベアトリーゼはやるせなさそうな顔をしていた。
「あっさりとプライドを捨てたぞアイツ」
「貴族の誇りは、どこに行ったんだろうね」
しかしプライドを放り投げた提案も、青龍からはあっさりと一蹴される。
『左様な物は見飽きたわッ! 人間など、我にとっては最早退屈凌ぎにすらならぬッ!』
「見飽きるほどいたんだ。裸踊りをする人」
ライナーのお隣さんがドラゴンを相手に生き延びた方法。
リリーアが行えるであろう、最初で最後の方法が潰されたのだ。
後はもう交渉で何とかするしかないと思い、彼女は何とか青龍を説得しようとしたのだが。
「お、お怒りはごもっともですわ。ですが、ここに留まられては恐らく討伐隊が――」
『人間の軍など何をするものぞ! ひと
赤龍よりも大分好戦的なようで、交渉する余地すらない。
リリーアは一瞬で撃沈して、手と目を泳がせていた。
レパードはもう顔面蒼白だが、蒼い薔薇の面々からすれば、元々ライナーに何とかしてもらうつもりでいたのだ。
矢面に立ったリリーア以外は、ある程度落ち着いていた。
出番が来たかと思い、ライナーは前へと踏み出して青龍を挑発する。
「では、勝負だ。人間
『いい度胸だ。その大言、我がブレスを食らった後でも――』
「勝負の方法は、これだ!」
ドラゴンが何かを言い切る前に、ライナーは先手を打った。
前回赤龍に見せた、手品に使う道具を素早く広げる。
武器や兵器の類が出てくると思った青龍は一瞬呆気に取られたが、すぐに気を取り直す。
『何のつもりだ』
「見て分からないか? 手品の用意だ」
『違うッ! そんなものを準備して、何のつもりかと聞いている!』
物真似芸は意外と難易度が高く、この短期間では習熟し切れなかった。
だから多少リスクを背負うことにはなるとしても。一度見せた演目を改良して、もう一度赤龍に挑もうと思っていたのだ。
出現報告のタイミングからして、別人――別ドラゴン――の可能性は低いと思っていたライナーではあるが、これなら一度手の内を見せたことのある、赤龍に仕掛けるよりも勝算がありそうだと考えている。
「ら、らららライナーさん! ここは素直に命乞いをしましょう! 命あっての物種ですわ!」
さあ、いざ決戦の刻と言わんばかりに前へ出たライナーに対し、恐慌状態のリリーアは、後ろから肩を両手でがっしりと掴んで止めた。
「だが、撃退しなければ君たちの賠償金が……」
「生きてこそ。生きてこそですのよライナーさん! このようなところで死んではなりませんわ!」
青龍を睨みつけたままのライナーを左右に揺さぶり、リリーアは半泣きで叫ぶ。
その様を後ろで見ている一行は、もう全員が呆れ顔だ。
「あのセリフ、できれば別な場面で聞きたかったね」
「そうだな」
「ですね」
「……ん」
戦ったところでどうせ勝てない。
逃げ切れるとしたらライナーだけだろう。
そんなことを思い。他の面子は呆れつつ諦めるという、中々見られない感情を胸に抱いていた。
『なんじゃあこの茶番は! 貴様ら一体何をしに来たァッ!!』
茶番に付き合わされる青龍は当然激怒して、リリーアは慌てて弁解に入った。
できれば、勝負事を避ける方向で。
「近隣への影響が大きすぎるので……お住まいを移していただけないかと、お願いに参りましたわ!」
『何故人間などのために、わざわざ移動せねばならんのか。そも、この山は誰の所有物でもあるまい!』
リリーアが来訪の目的を告げて退去を願うも、青龍は鼻を鳴らして断固拒否の構えだった。
取り付く島もなく、巣を移動する気は毛頭ないらしい。
「埒が明かない。堂々巡りは時間の無駄だ」
そう呟いてから、ライナーは堂々と宣言する。
「であれば、やはり勝負で決めよう。今から
「ほう」
「――受ける度胸が無いとは言うまいな?」
今回は接待ではなく純粋な勝負なのだから、演目を少なくしてもいいだろう。
そう判断したライナーはさらっと演目を削ってから、青龍に再度戦いを挑む。
『よくもまあ吠えたな、人間。……勝負とは契約だ。龍を相手に契約が破れると思うなよ?』
「無論だ。こちらは勝算があってやっている」
先ほどは苛立って叫んだ青龍であるが、今度の挑発には見事に乗った。
馬鹿の一つ覚えのように、剣やら槍やらを振り回してくる冒険者たちにウンザリしていた青龍は。
実は、少し趣向の違うライナーの提案には興味を持っていたのだ。
「では、始めようか」
リリーアが乱入して話が流れかけたが、確実に食いついていた。
そしてトドメとばかりに、ライナーは不敵な笑みを浮かべて挑発してから、青龍の前に道具を並べる。
『……よかろう、ではやってみせろ。賭けのチップは――貴様ら全員の命だ!』
「元よりそのつもりだ。行くぞ!」
次の瞬間から例のハイテンションモードに移行したが、ルーシェは隣に立つララに向けて、一つ確認する。
「ライナーさん、さらっと私たちまで道連れにしましたよね?」
「……ん」
「今回は最初から道連れにするつもりだったみたいだな」
「まあ、なるようになるんじゃない?」
「え、ちょっと。俺とサラマンダーの命も皿に載ってるのかよ!?」
という外野の声を無視して、ライナーはマジックを始める。
◇
そうして十五分ほどが経った。
演目は四個目に差し掛かったところだ。
『GUAAAA! 何故だ! 何故当たらん!』
推理を外す度に青龍の雄叫びが木霊し、洞窟内はブレスが飛び交う修羅場と化している。
悔しがって叫ぶ度に飛んでくるブレスの余波で、既に蒼い薔薇の面々とレパードの身体はボロボロだった。
だがライナーだけは予兆を察知した瞬間に、ブレスの余波が届かない位置にまで退避したり。天上から降ってくる
「そうそうタネを見破られては、飯の食い上げですよ。さあ、残すところあと一つ。お代の用意はよろしいですか?」
『ほざけ小僧! 貴様の術、次こそは見破ってくれるッ!』
そうしてライナーが、次の道具を取り出した。
最後の手品を始めた十数秒後。
『ム? これは……見たことがあるな』
ポツリと呟やかれた青龍の言葉に、リリーアは跳び上がることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます