レース
「怖い話、ありますよ。そうですね、私の大親友の無謀な挑戦から始まりました」
仮にCさんとしておこう。
Cさんの大親友さんはかなりの度胸をもち、なんでもやってみるそうだ。そのせいで大けがを負ってCさんを心配させることも少なくなかったそうだ。
そんな中での親友さんの挑戦は、今までにないくらいの危険度だった。
「俺、レースに出るわ」
Cさんの親友さんの運転技術はプロですら唸るほどではあったが、Cさんは必死に止めたという。
なぜなら、そのレースは、相手の車にぶつかってもいいというルールのある、死者の最も多いレースの一つだったからだ。
それでも親友さんはスリルを求めてそのレースに出ることを決意してしまったのである。
Cさんは親友が心配でたまらず、会場に足を運んだ。
親友さんは車に乗る時までCさんに手を振り続けていたという。
そして、レースはスタートしたのである。
一斉に車が飛び出す姿はCさんも一瞬心を奪われたが、危険なルールを思い出して我に帰った。親友さんの無事を祈りながらレースを眺めていたという。
しかし、Cさんは親友さんの凄さを改めて知ることとなった。
スタートから一切揺るがぬまま親友さんは一位を走り続けていたのである。
Cさんはやっと声を出して応援する余裕が出来たと思い、立ち上がった。
だが、その余裕は、すさまじい破壊音とともに消え去った。
親友さんの車に二位の車が勢い良くぶつかっていったのである。Cさんは恐怖で真っ青になった。今の衝撃で、親友が死んでしまったら。いやなことばかりがよぎった。
そんなCさんをあざ笑うかのように、親友さんの車は走り出した。二位だった車を追いかける。
Cさんは、安堵したという。よかった、生きてた。
しかし、車側の限界があるのか、二キロほど、カーチェイスを繰り広げた後、路肩に止まってしまった。
Cさんは慌ててその車のもとへ行くと異様な人数の人がいた。
Cさんはその人達の隙間をぬいながら、車の中を覗き込んだ。
前に、親友さんの見せてくれた中とは全く違う景色だった。
シートもガラスもハンドルも、ありとあらゆるところまで真っ赤に染まり果てていた。Cさんはその赤い液体の出処を探すと、変わり果てた親友さんの姿があったという。
その後聞いた話によると、親友さんはぶつかったときに内臓破裂、頭蓋骨骨折などを同時に起こし、即死だったという。
「即死だったら、二キロくらいのカーチェイスはだれが運転してたのかな、ってみんな言ってました。でも、私は彼が運転していたと思います。『死んでも勝つ!』って、よく言ってましたから」
Cさんはそっと微笑んだ。
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