夜の吐露
「きらい」
そう喚く口をそのままに抱き寄せ、唇を押し付け、髪の香りを嗅いだ。その間も拒絶する声は止まなかった。同情に近い気持ちで抱きしめた。細い躰は易々と小狡い男の腕の中に収まった。
「きらい」
小さな頭を引き寄せ、一度離して向き合う。黒髪がゆっくりと下がり、ずるずると床へ向けて力を抜いていく。華奢な造りの操り人形が壊れようとしている。か細い声はずっと口の中で旋回していた。
「きらい」
繋いだ手を離すまいと、離れてゆきかける華奢な体を追いかけて共に屈みこむ。夜空の躰はもう跪いて深くうつむいていた。一等愛しい存在が力なくだらりと壁にもたれかかっていた。深い色の大きな目が見えない事に焦燥を覚えていた。今すぐにでも顔を上向かせたい獰猛で凶悪な欲を抑え、月光は震えを押し殺した指でそっと肉の削げた頬を撫でた。
「わたし、わたしがきらい」
食い破らんという程にきつく噛み締められた唇を指で撫でて宥める。どうしても耐えられなくて傷つけるなら自分を使ってほしい。
「そんな酷い事、言わないで下さい」
(そうしたら、貴女に惚れて今まで想いを寄せてきた俺はどうしたらいい)
月光はそっとその小さな頭を引き寄せ、自分の腕の中へ抱き込んだ。怖々と息を吐いたのを確認した途端、どっと疲労が溢れ出したかのように肩が重くなりつい背中を丸めてきつく抱きしめた。
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