第5話:脳筋の見え見え謀略

「ライオス辺境伯閣下、ここは王家との絆を深めるためにも、長男のガイラム様に王都に行っていただくべきです」


 俺の武術指南役からライオス辺境伯家の騎士団長に出世した脳筋が、見え見えの謀略を仕掛けてくるが、これは好機なのかもしれない。

 俺が武術など最低限でいいと言い切ってから一年、脳筋は武闘派の同僚と徒党を組んで俺の事を廃嫡しようと動いている。

 スライム達のお陰で魔力の心配がなくなった俺には、ライオス辺境伯家の家督に固執する必要など全くない。


「そうですね、確かに隣国が攻めてくる可能性が高い今は、王家も貴族の人質を欲しているでしょうから、弟や分家の子弟を送るよりは私の方が心証がいいでしょう。

 本当の忠臣なら長男を人質に送れなんて言わないでしょが、王家から金品を受け取るような獅子身中の虫ならば、王家のために動くでしょう」


 俺は前世のように狂いたくないのだ。

 良心の呵責に悩むような生き方は絶対にしたくない。

 だが同時に、人間関係で神経をすり減らすのも嫌だし、重責を背負わせられるのものも嫌なのだ。

 できるだけ心に負担がかからない生き方をしたい。

 そんな俺には、ライオス辺境伯家の当主は重すぎるかもしれない。

 今回のように武闘派家臣ともめている俺を、父は跡継ぎには相応しくないと思ってくれるかもしれない。


「なんですと、私の事を王家の手先と申されるか!

 そのような悪口雑言、ガイラム様でも許しませんぞ」


「ふん、だったら闇討ちでもするか、武勇自慢の騎士ローガン。

 明らかに人質と分かる王家の入学要請に、武芸よりも統治や軍略が大事といった私を送り込もうとする、それが奸臣佞臣でなくて何だと言うのだ。

 自分が気に喰わない主家の長男を排除しようとする者を忠臣と呼べと、家臣の方が主人に強制するのか?」


 騎士団長を務めるウォレス騎士家のローガンが、真っ赤な顔をして俺を睨みつけているが、同調していた武闘派騎士隊長達が恥を知り下を向いている。

 流石に、主家の長男を私怨で王家の人質に差し出そうとする者と同じ派閥にいることが後ろめたいのだろうが、反対の意見を言わないのなら同類の屑だ。

 さて、父はどういう判断を下すのだろうか?


「まず最初にはっきりと言っておくが、主家の長男を王家の人質に差し出そうとするようなモノを、召し抱えておく気は全くない。

 追放してやるから王家に仕えるがいい、ローガンを領地から放り出せ!」


「閣下、誤解でございます、ガイラム様の言掛りでございます、私は王家に通謀などしておりません、閣下、閣下、閣下ぁアアアア」


「さて、本心を聞かせてくれるか、ガイラム」

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