第7話:大行列

「いえ、いえ、全然大丈夫ですよ、領地は狭いですが豊かですから。

 歩兵軍が装備を持って追いかけてきますから、家が完成するまではテントを設営して交代で寝ればすむみますし、食料も大魔境で狩ればいいですから」


 聖女ルイーズの心配をエチェバル辺境伯は全く気にしていなかった。

 聖女ルイーズに恋焦がれていたエチェバル辺境伯、彼が聖女ルイーズを追いかけるのに一日遅れてしまった理由、それは戦友とその家族の事だった。

 エチェバル辺境伯がボークラーク王国を捨てたら、意趣返しにボークラーク王国が歩兵軍にエチェバル辺境伯討伐を命ずるのは明らかだった。

 思い悩むエチェバル辺境伯に副官が言ったのだ。


「歩兵軍団そろって聖女ルイーズを追いかけましょう。

 歩兵軍団を聖女ルイーズの親衛軍とするのです」


 それを聞いてもエチェバル辺境伯はなかなか決断できなかったが、副官が歩兵軍の千人隊長達に事情を話して決起を呼びかけたら、全員が賛同したのだ。

 あれよあれよという間に準備が整い、歩兵軍団とその家族は、装備と家財道具を馬車に積んで聖女ルイーズを追いかけているという。

 歩兵軍団幹部は、エチェバル辺境伯がボークラーク王国を見捨てたくなった時に、自分達がエチェバル辺境伯の弱点にならないように、何時でも逃げ出せるように準備をしていたのだった。


「みんなが色々と気遣ってくれているので、なんの心配もいらなかったのです」


 エチェバル辺境伯の話を聞いた聖女ルイーズは、歩兵軍団が貴族士族が主力となっている騎士団に追撃されることを恐れた。

 正面から正々堂々戦うのなら、歴戦の歩兵軍団の方が、甘やかされてろくに訓練もしていない、装備だけが立派な騎士団に負ける事はない。

 だが、騎兵の機動力を使って、戦うすべのない歩兵団員の家族を襲ってきたら、何の罪もない女子供が虐殺されることになる。


「影龍、もし騎士団が追撃してくるようなら、叩きのめしなさい。

 正々堂々と歩兵軍団に攻撃を仕掛けるようならば、邪魔しないで。

 でも卑怯にも家族を襲うようなら、遠慮せずに斃して」


「ですが聖女ルイーズ様、歩兵団員が死んでしまったら、残された家族が哀しむ。

 絶命しない程度にするから、生命力を奪って戦闘を回避させた方がいい。

 なあに、そんなに寿命を縮めたりはしないよ、どう考えてもあいつらの性格なら無抵抗な女子供の方を襲うから、そいつらからタップリと生命力は頂ける。

 歩兵軍団を攻撃しようとした奴らからは、気絶する程度の量だけにしておくさ」


「分かりました、戦闘が起こらないようにしてください」

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