第3話:子供
「影龍、隠棲したいのだけど、どこかいい場所はないかしら?」
聖女ルイーズは王城を歩いて出て行ったが、特に当てがあったわけではない。
この国を出る事は決めているが、追手と争うのは嫌だった。
追手の全員が悪人ならばいいのだが、中には無理矢理徴兵された雑兵がいるかもしれないので、見つけられない場所で暮らしたかった。
(大陸の果てに行くのもいいし、別の大陸に行くのも面白い。
我はルイーズが望むのならば、どこにだって連れて行ってやるぞ)
これからの事を楽しそうに話すルイーズと影龍の前に、痩せ細った子供が幽鬼のようにフラフラと飛び出してきた。
一目で餓死寸前だと分かる状態で、ルイーズにはとても見捨てられなかった。
一方の影龍はあきらめの境地になっていた。
ルイーズがこのような子と出会って、見捨てていける訳がないと分かっていた。
大陸の果てで隠棲することも、別の大陸で冒険するのも不可能になってしまった。
「影龍、この子が食べられるモノはある?」
(牛乳だと胃腸が受け付けないかもしれないから、山羊乳を温めてやる。
聖女様が消化補助の魔法をかけてやったら、何を食べても大丈夫だ。
だた最初は消化に使う力もほとんどないから、補助魔法も効果が少ない)
「分かったわ、山羊乳をちょうだい」
とても服とは言えないような、ボロボロの布で身体の一部だけを隠した子供は、本当に悲惨な状態だった。
夜の寒さに耐えるためなのか、身体中が垢と脂の層に覆われていて、抱きしめるとそのヌチャリとした感触が手に感じられる、いや、こびりつくと言った方がいい。
更に言えば、近づけばどうしても頭にツッンと来るような鋭い臭気がある。
普通の神経では絶対に抱きしめられるような状態ではないのだが、聖女ルイーズは何の躊躇いもなく優しく抱きしてる。
「さあ、山羊の乳ですよ、慌てずにゆっくりな飲みなさい」
そうは言われても、普通に激しく飢えているだけの人間ならば、むせかえるのも顧みず貪るように飲むだろう。
だが、餓死直前にまで生命力の落ちた子供には、山羊乳の入ったコップを持つ事も、力強く飲むことも不可能なのだ。
この状態を見れば、フラフラしていたとはいえ立って歩いていたことが奇跡だ。
(消化吸収)
何ともカッコのつかない補助魔術の呪文だが、実際に口に出しているわけではなく、現象を心に思い浮かべているだけだ。
その心に思い浮かべた現象を実現する魔術を外部に放つ。
想像力の塊が聖女ルイーズの魔術だった。
聖女ルイーズは子供に食べ物を与えては消化吸収の魔術を放ち続けた。
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