第2話:影の存在
倒れるエルネス王太子を、聖女ルイーズは汚物を見るような目でチラリとだけ見て、その後は何の感情も浮かべずにスタスタと歩き出した。
聖女ルイーズは用のなくなった王城から出て行こうとしていた。
そのまま出て行かせればよかったのに、馬鹿なジョン宰相は見栄と欲から邪魔してしまった。
民からは絶大な人気がある聖女ルイーズの権威を徹底的に貶める事で、ルイーズの跡を継いで聖女になる娘のクララの権威を高めようとしたのだ。
「まて、何を勝手に出て行こうとしている、まだ裁きが終わっていないぞ。
近衛騎士、この不埒者を捕らえよ、捕えて厳しく取り調べるのだ」
エルネス王太子が倒れてしまった事で、聖女ルイーズには直接の暴行は控えると決めていたジョン宰相自身が、捕えると言った直接行動に出てしまった。
だが、それでも小狡い計算はしていた。
自分自身は聖女ルイーズから離れて、反撃を受けないようにしたのだ。
どのような方法でエルネス王太子を攻撃したのかは分からないが、近づかなければ大丈夫と安心していた。
攻撃されるとしても、それは近衛騎士だと思っていた。
(おのれゴミムシ、お前が元凶か!)
エルネス王太子を攻撃しても聖女ルイーズから叱責されなかった影は、今のうちにルイーズの敵を一掃しようと攻撃をした。
影はルイーズから叱られるのを何よりも恐れていた。
いや、そうではなく、ルイーズに哀しい顔をさせるのが嫌だった。
だからもの凄く考えて、気を使った攻撃をしていた。
命令したジョン宰相も、ルイーズを捕らえようとした近衛騎士も、何もせずに見ているだけの貴族や近衛騎士も、全員がその場に崩れ落ちた。
「そのくらいにしておきなさい、やり過ぎはいけませんよ」
聖女ルイーズがやんわりと影に注意する。
注意された影は正直ホッとしていた。
叱責されたわけではないし、哀しませたわけでもなかった。
考えに考えた方法が聖女ルイーズに認められたと思っていた。
そこに更なる注意というか指示が聖女ルイーズからあった。
「罰として奪うのは構いませんが、心から反省して行いを正したら、奪ったモノは全て返してあげなさい、いいですか、分かりましたね」
(はい、聖女ルイーズ様の御心のままに)
やれやれしかたがない返さなければいけないのか、一瞬影はそう思ったが、直ぐに考えを変えた。
この腐った連中が反省して心を入れ替えるはずがないと。
ただ入れ替えたフリをして聖女ルイーズを騙そうとするかもしれない。
そう考えた影は、同じようの聖女ルイーズを慕って集まった者達を使って、愚か者共を見張ることにした。
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