第8話ドラゴンVS女神

 俺が城ヶ崎家の養子として迎えられた年の九月、俺は小学校に入学した。あの頃は学校への期待で胸がいっぱいだった。山の中よりも楽しい所だと思っていた・・・。

「お前、施設の子だって?」

「うわー、気持ちわりぃーーっ!」

「何処かおかしいんじゃないの?」

「算数も分からないばかりだったから、バカなんじゃねえの?」

 それが同級生に言われた初めての言葉だった、その後も言葉は違えど似たような事を言われた。俺は登校するごとに傷ついていき、ある日耐えられなくて永久と桃枝に学校での事を話した。

「そうか、よし!後は任せなさい。」

「あたしと永久で何とかしてあげる。」

 永久と桃枝は完全に俺の味方だった、俺がいじめられている事を学校に訴えてくれた。でも何も変わらなかった・・・。それどころか両親がしつこいという事で、教師からも疎まれてしまった。俺は再び孤独になった、しかも今度は周りから集中的に嫌な事をされる。そんな時、ドラゴンが言った。

「お前にはこの私がいる。嫌な事が嫌なら、自身とこの私の力で振り払えばいい。そして立ち向かうのだ。」

 「そうだ、俺にはこれがあった」という気持ちになった。味方を付けてもダメなら、自分で解決するしかない。そして俺はグレて、問題児になった。






 俺はイジメに力と意地で立ち向かった、いじめっ子と無関心な教師に俺を見せつけた。小学三年生の時に起こしたピアノ破壊事件もその一つだった、そして小学四年生の時に、俺だけのために「特別クラスA」というクラスが作られ、俺は体育と図工と家庭科の授業以外はこの教室に入れられた。いわば俺だけの独房である。当時の生徒達の間では「ドラゴン・プリズン」と言われ、誰も近寄らなかった。そして小学四年の夏休み、俺は桃枝に呼び出された。

「何だよ、母さん?」

「単刀直入にいいます、明日から合宿に行ってもらいます。」

「はあ?何でだよ!?」

「あなたの素行の悪さを正すためです、この合宿でしっかり反省してきなさい。」

 この合宿が因縁の始まりだった。



 俺はデイサービス「ムーンハウス」の二泊三日の合宿に体験組として参加した、ムーンハウスの合宿には四人限定で体験することが出来て、桃枝がそれに応募したというのだ。午前十時に集合場所で待っていると、太い三つ編みの若い女性が「静かに!」と号令をかけた。この女性こそ上原美月だ。

「皆さん、これからサマー合宿に行きます。この合宿の目的は、将来に向けての自立と、協調しみんなで助け合う心を育むのが目的です。二泊三日と短いですが、有意義な合宿にしましょう。」

 俺はこの言葉を無視した、どこにいようが俺は俺なのだ。






 俺が教員・生徒・体験メンバー達と来たのは、愛知県野外教育センターだ。俺は永久の運転する車に乗って来た。着いた所は電車でなければ来られない程、自然豊かなところだ。ここでのスケジュールは問題なかったが、レクリエーションがあるのが嫌だった。人と関わるのがただでさえ嫌なうえに、人と一緒にいなければならない事を遊びでも強要される不快感が、とにかく嫌だった。俺はレクリエーションをサボる事を決めた。一日目のレクリエーションの時間、俺が来ていない事に気付いた職員が俺の部屋に来た。

「城ヶ崎君、レクリエーションの時間だよ。」

「俺は行かない。」

「来なきゃだめだ。」

 職員が言いながら俺の肩に触れた時、俺は回し蹴りをした。独学で学んだ総合格闘技を、初めて大人相手に使った。職員はその場でのびてしまった、俺は部屋を出てぶらぶら歩き出した。その後も何度か職員に見つかったが、合気道・空手・ボクシングの技で全員倒した。しかし美月の時は「親呼ぶよ!」と携帯を持ちながら脅されたので、攻撃できなかった。そして俺は美月に捕まり、とある一室に連れて行かれた。そして美月はつとめて冷静に俺に質問した。

「先生達をあんなふうにしたのはあなたなの?」

 悪びれずに頷くと、美月が言った。

「総合格闘技が趣味だと聞いていたけど、これほどのものとはねえ・・・。そんなに運動神経がいいなら、みんなと一緒にレクリエーションを楽しめるのに。」

「レクリエーションは嫌いだ。」

「嫌いでもやりなさい、今あなたは合宿に参加しているのよ。」

「・・・・大人はそうだ。結局、俺の意見を聞かない。」

「あなたが言っているのは、我がままよ!」

 美月が叫んだ、それがスイッチとなり俺の心に憤怒の炎が燃えた。

「大人はそうして思いのままに俺を動かしているのに、俺が助けを求めている時には俺を無視し、いないも同じ存在にする。だから俺は大人を嫌う、そして立ちはだかる大人は全てねじ伏せる。」

 俺はドラゴンの如くゆっくりと、美月に歩み寄った。美月は信じられないものを見たという顔で、後ずさって行く。

「どうした?かかって来いよ。」

「暴力は反対よ!」

「俺が怖いか?」

「違う、どうしてもレクリエーションには行かないの?」

「もちろん、行かない。」

「わかった、部屋で待機していなさい・・・。」

 言われた通り部屋で待機してから一時間後、永久が呼び出されて俺は怒られた。そして一泊もせずに俺は帰宅したのだった。





 それから三年後、中学一年生になった俺は相変わらずの不良生活を送っていた。六月初めのある日、俺が文殊と愛の家に帰ってくると門の前に見慣れない車が停車していた。永久の車よりも大きく、ワゴン車のような風貌だ。俺がワゴン車を通り過ぎると、一人の男が俺に呼びかけながらマイクを向けてきた。

「あの、君が城ヶ崎竜也くんですか?」

「ん?あんた誰だ?」

「私は神代洋二です、「再会・再出発専門会社」という番組の司会をしています。取材をしてもいいですか?」

 俺は訳が分らなかった、何でバラエティー番組が児童養護施設に来ているんだ?

「何しに来たんだ?」

 俺は司会を睨んだ、司会はビビッて後ずさりしたが直ぐに態勢を立て直した。

「実は上原美月が君を再教育したいという事で、君に会いに来たんだ。」

 俺はその名を聞いて怒りがこみ上げた。今更、再教育だ?ふざけた事を言っているんじゃねえよ!!

「断る、あんな奴の顔を見るのはごめんだ。」

「そこをなんとかお願いします、上原さんは本気なんです!!」

 司会も引き下がらなかった、そこへ桃枝がやってきた。

「竜也、はっきり否定しなくてもいいじゃない。話し合いましょう。」

「お袋・・・、なんであいつの肩を持つんだよ・・・。」

 俺は溢れる不満を口からこぼしながら、桃枝に美月の所まで促された。美月は裏庭にいて、あの時とあまり変わってなかった。それから俺と美月は二人きりで話しあった。

「久しぶりね、竜也君。」

「何で今更俺に目を付けるんだよ、テレビまで呼びやがって・・・。」

「あなたには可能性があるからよ。」

「は?周りから蔑まれている俺にか?」

「もちろんよ、体力も知力も他より優れている。それなのにあなたは暴力でそれを周りの目から見えなくさせている、宝の持ち腐れよ。大丈夫、私はあなたを蔑まないし信じてあげるわ。」

 結局美月もそうだ。調子の良い事を言って、後々見捨てるんだろ?しかし美月に何を言っても効かない、それなら力づくで行くしかない。俺はドラゴンに言った。

「力を貸してくれ。」

『いいのか、あの女はお前に機会を与えようとしているというのに?』

「そんなのどうでもいい。」

 全身にドラゴンの力が満ちた、そして俺は右手を差し出した。美月が「よろしくの握手だ」と思い、おれに歩み寄り左手を差し出した瞬間・・・。

「うりゃああああ!!」

「きゃあああああ!!」

 俺は美月を一本背負いして、地面に叩きつけた。美月の腰から鈍い音がした。

「俺は手を差し伸べる人間が嫌いだ!自分の限界も知らずに、女神様のような面しやがって!!どうせ自分しか信じれない世の中だ、他人に関わってんじゃねえぞ!!」

 俺が烈火の如く怒鳴ると、美月は泣き笑いながら言った。

「やはり規格外ね・・・私にここまで反発するなんて。もう二度と会わないから・・最後に・・・、お願いを聞いて。」

「・・・約束するなら聞いてやる、何だ?」

「救急車を呼んでください、動けなくなったみたい。」

 ここで騒ぎを聞いた桃枝とテレビ局の人々が駆けつけてきた。美月は病院に搬送され、俺は桃枝に怒られた。そしてこの一部始終は、「再会・再出発専門会社」ではなく全チャンネルのニュースで放送された。




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