第2話親無し者の聖域
警察から解放された俺とセレナは、俺の住むアパートへと歩き出した。仇の相手と並んで歩きたくないセレナは、俺の二歩後ろを歩いていたが、ファミリーマートが見えたところで「グ――」という音が俺の耳に聞こえた。そういえば夕食を食べていなかった、時刻をスマホで確認すると午後九時を過ぎていた。
「セレナ、夕食はどうする?俺は自分で調理して食べるけど・・・。」
俺を睨んだセレナの顔が赤かった、「グ――」の音の正体が確定した。
「仇の料理なんて食べられる訳ないじゃない・・・。」
「じゃあ、目の前にファミリーマートがあるから寄るか?」
しかしセレナは、ファミリーマートを入りたいげに見つめているだけだ。
「まさか、金が無いのか?今、いくら持っているんだ?」
「・・・三百円ぐらい。」
さすがにそれだけでは、腹いっぱいの夕食は食べられない。俺はカバンから財布を取って、その中の千円札を抜いてセレナに渡した。
「これをやるから自分で買ってこい、仇の作る料理を食うよりマシだろ。」
「うるさいなあ・・・。」
ふてくされながらもセレナは俺から千円札を貰うと、ファミリーマートへと走りながら入店した。
「ほう、お前が他人に金を渡すとはなあ・・。」
俺の中のドラゴンが、物珍しそうに言った。
「まあ俺がセレナの立場なら、同じことを考えるだろうと思っただけだ。」
「言われてみれば、あの頃のお前の面影をセレナから感じる・・・。」
俺も恥ずかしながらドラゴンと同意見だ、セレナのあの鋭い目は自分の決意を何が何でも貫くという気持ちを感じさせる。そしてあの時の俺も、自分自身を貫いて誇示してやるという気持ちに満ちていた・・・。
そして俺とセレナは、俺の安アパートの部屋へと入っていった。俺は早速調理を始めた。セレナはテーブルの上でファミリーマートで買った弁当を、早速開封して食べ始めた。俺が春雨の炒め物とご飯を机に並べた時、セレナはすでに食べ終えており、ベランダの窓の近くで仰向けで寝ていた。
「全く・・・、片づけておけよな・・。」
俺はテーブルの上の弁当の空容器と割り箸をゴミ箱に捨てた、そしてセレナに気づかれないように毛布を掛けた。
「毛布まで掛けるとは・・・。」
「他人に風邪をひかせたくないだけだ。」
俺はドラゴンにそう答えて夕食を食べようとした時、電話が鳴った。受話器を取ると、俺の育ての父・城ケ
「こんな時間にすまないが、話しは全て百瀬から聞いた。」
「ああ・・・、セレナの事か。」
「明日、ジムはあるか?」
「午後二時からの予定。」
「じゃあ、明日の午前中にセレナをこっちに連れて来なさい。」
「分かった。」
俺は通話を切って、ようやく夕食にありつけた。
翌日の五時三十分に起床し、日課のトレーニングを始めた。元々体を激しく動かすことは、個人的に苦では無かった。トレーニングを終え着替え終えたところで、セレナが起床した。
「ふわー・・・、おはよう。」
「起きたか、早速だが七時に俺と一緒に出かけてもらうことになった。」
「は?どこに行くの?」
セレナが髪をかき乱しながら尋ねた。
「文殊と愛の家、俺が子供の頃に住んだ児童保護施設だ。」
俺とセレナは午前七時に部屋を出た、朝食は
「ねえ、どうしてあたしをそこに連れて行くの。」
「俺の里親に言われたからだ。」
「里親・・・・。あんたも、実の両親に捨てられたの?」
セレナは信じられないという顔をした。
「ああ、昨日親父の永久からセレナを連れて来いと言われた。」
「永久さんはどうして私の事を知っているの?」
「昨日、百瀬という刑事に会っただろ。その百瀬が親父と知り合いでな、おそらくあの時に親父に電話で教えただろう。」
そして俺とセレナは栄駅で降りて、久屋大通公園を突き進んでいった。そして久屋大通公園を抜けて飯田町に入って、路地を進んでいくと赤茶色の壁の大きな屋敷が見えた。あれが文殊と愛の家である。その庭では三歳から十二歳までの少年少女達が、それぞれのグループでそれぞれの遊びをしていた。
「あ!竜也だ。」
「竜也が帰ってきた!!」
俺とセレナが庭に入ると、庭にいた少年少女達が集まってきた。俺は有名なOBとして人気があるらしい。
「竜也さん、かっこいいです!!」
「あのパンチ、すげえかっこよかった!!」
「ねえねえ、この女の子誰?」
「どこから来たの?」
少年少女達に寄られて、セレナは戸惑っている。すると「みんな、そこから離れなさい!!」と、聞き覚えのある大声がした。俺の育ての母・
「あなたがセレナね・・・、まあ美しい。美月さんによく似ているわ。」
「お袋、ご飯は出来ているか?」
「もう出来ているわ、二人とも来なさい。」
桃枝につられて俺とセレナは、文殊と愛の家の食堂に入った。そこで用意された朝ご飯を食べた、メニューはご飯と一汁三菜の基本メニュー。そして食べ終えると、永久が入ってきて桃枝と一緒に、俺とセレナと向かい合う席に座った。
「さて話をしよう、昨日竜也を殺そうとしたそうだね。」
永久が真顔でセレナに言った、セレナは少し驚きながらも頷いた。
「動機については私も察している、ただ君がどうして復讐を決意したのか教えてくれ。」
セレナは悲しくも低い声で語った。
「私の母さんは鬱になりました、あの時竜也に拒絶されたのが相当ショックだったようです。その後私の父は母さんの両親と話し合って、母さんと離婚することになりました。その頃、私は父や母さんの両親から『重荷』と扱われました。そこで母さんが鬱なのをいいことに、当時四歳だった私を「桜道」という施設に置き去りにした。」
永久と桃枝は絶句した、勿論俺も。
「竜也の事を知ったのは、入院室のテレビでした。私が苦しんでいるのに、有名になっている竜也が許せない気持ちが高まっていくのが、私の心の中で起こりました。」
「お前、入院していたのか?」
「うん、白血病で。」
サラッと言うセレナに、俺と永久と桃枝はまた絶句した。桃枝が「大丈夫なの?」と、かろうじて言葉を発した。
「うん、運よく骨髄移植手術もできて無事退院できました。」
「そう・・・本当に心苦しく生きてきたんだね・・・、改めて、家の竜也がとんでもないことをして、ごめんなさい。」
「私からも、すまなかった。」
永久と桃枝は深く頭を下げた。
「ほら、竜也も頭を下げるんだ。」
永久が俺に言うと、セレナは「竜也はいいです!!」と叫んだ。
「だって、竜也は親の仇・・・謝られても何にもありませんから・・・。」
永久と桃枝は静かに顔を上げた、そして永久がセレナに尋ねた。
「ところで、これからの生活はどうするんだ?」
「私は竜也から離れないつもりです。」
「一緒に暮らすつもり?それはダメよ、竜也の収入ではあなたを支えられないわ。」
「でも・・・施設にはもう帰れないし・・・。」
「どういう事だい?」
ここで空気状態の俺が口を開く。
「セレナは俺の所に行くために、施設から金を盗んだんだ。そして一人で東京からここへ来た。」
永久と桃枝は驚いた。
「行動力があるなあ。」
「感心してる場合じゃないわよあなた!こうなったら竜也、しばらくセレナと一緒にここで暮らしなさい。」
「はあ?俺がか!?」
「元はあなたの行動が原因よ、贖罪のつもりでやりなさい。」
桃枝に強く言われた、孤高の俺でも育ての親には敵わない・・・。頷く俺の横でセレナは、勝ち誇った笑みを浮かべた・・・。
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