「いつもの夜のあの出来事」
……………‼
時刻はおよそ、数時間前に戻る。
時計を見れば夜11時。先述の通り俺に夜更かし癖なんてある訳もなく、ぐっすりと眠ろうとしていた時だった。とある外に出なければいけない事情が出来てしまったので、素早く着替えると、自分の部屋を出、階段を下る。
だがその時。ふと、俺の背後で扉が開く音がした。
俺の部屋の、一つ手前の扉だった。
「う…」
「…ん? どこ行くの?」
「ちょっと、…あー、散歩だよ」
ここで、『レギュレーター』と、それを持つ者の悲惨な運命についてお話しよう。
先ほどにも述べたよう、レギュレーターの意味は、「調整するもの」の意。俺たちの感情を調整、あるいは規制する道具であり、その規制や調整の中感情を吸い上げると、己の超能力として発揮してくれる…そんな、人知を超えた道具だ。
ただ俺の所持する、俺の頭の中にいるキャンノは特別で、そんなレギュレーターの意志が、使用者の意識の中に介在している特徴がある。だがこれが、レギュレーターが、概念的な道具だ、という事では無く…
その実体、物理に従った姿は、日本刀である。…あるいはドスだ。
これを持った者は、数々の悲運を辿ることになる。
つまり、呪いの刀なのである。
…例えば、両親の離婚。
…例えば、人間関係の不和。
……例えば、化け物に命を狙われる。
ただこの呪いの理不尽なところ…俺が文句を言いたい所は、レギュレーターなんて持っていなくても、化け物に襲われる可能性があるということだ。
朝の(翌朝の)おまわりさんが「不可思議事象」を知ってしまったように(知らせてしまったように)…レギュレーターや、その仕組み、闘争心や感情を知ってしまった時点で、その人物は危険に晒されることになるのである。
そして今日も、そんな理不尽に振り回され、命を落とそうとしている人がこの街のどこかにいる。…そんな予感を、キャンノは教えてくれるのである。
「こんな時間にー? なんか色々大丈夫なの?」
「いや…た、ただの散歩だからさ」
「た、ただのって、口どもったらそれはもう嘘でしょ」
「くっ…的確な所を…」
家族に知られてしまったら、同じ危険に晒すことになる。
«オイ…間に合わねぇぞ»
「! …いいから! すぐ帰る!!」
「あ! ちょっとー!」
ガチャム。
「…まったく、勘のいい妹は嫌いだよ」
«やかましいわ»
ツッコミまでこなしてくれる便利アイテムだぜ。
***
「———…ここか?」
«ああ»
俺は駆け、ひとつの古びた民家に辿り着いた。夜は更けている。六月初旬の夜風はまだ冷たく、上を見上げれば暗い空に、より一層暗い雲が浮かんでいる。
「民家の中なんて、珍しいな。今まであったか? こんなこと」
«ああ、おそらく「陸酉華眉の件」の———……ん? いや、ちょっと待て»
「どうした?」
«これは…不可思議のオーラじゃねェ。もっと別の…レギュレーター? いや…»
「…人がいるのか? レギュレーターを持った・・・」
«いや違ェ…レギュレーターではあるが、それを持ったヒトでもねェ。なんなんだ…この気配は…?»
「おいおい…、どういうことだ? 誰が居るんだよ、この家に」
«おそらく、交戦中ってわけではねェ。だが…なんだ? とにかくこの先人が死ぬのだけは…それだけは、予感できる。危険だ»
「……」
«リスクの大きさがわからねェ…»
「……とにかく行くっきゃねぇ!!」
オッシャア!!
…がらら。
と扉を開ける。やってることは不審者なので出来るだけ静かに…。
«虚勢が過ぎるだろ»
知らない家とはいえ人が住んでいるはずなので、靴を脱ぐ。
腰を落として気付かれないように…明かるみを目指す…
「さっき…お前が感じた雰囲気について、詳しく教えて貰ってもいいか」
«オウ、いいぜ、だから・・・レギュレーターがあるのは確かなんだ。だが、それのユーザーにあたるヒトの気配がない。おそらく単独でいるわけじゃない。だからおそらくこのユーザーは、ヒトじゃねェ»
「なんだって…?」
«いちおう、戦う心構えは整えておけ»
「あいがった」
ギシ——と、ここで物音が耳に入った。
続いてドタ、ドタ——足音が。
壁のすぐ向こう側。人の気配を感じて肩が浮く。
さあ…どうしようか。バレないようにすべきか。それとも一気に突っ込むべきか。どのみち不法侵入であることに変わりはないのだが、それが不問になるか有罪に帰結するかはこの先の行動次第だ。
…閉ざされたふすまの隙間から光が漏れている。
…この先に、人がいる。
「……」
心を決めた。———…今だ!
サアッ…
……………
«チッ…なんだよ。なんで誰もいねェ部屋に電気がついてんだ…»
「はぁ、はぁ…ダメだ、メンタルがもたねぇ…」
«オイオイ…そんなんでよくこれまで…………あっ»
「———っ!」
思えば当たり前である。部屋に灯りを付けたまま出るのなら、常識的に考えて何らかの理由での離席であり、すぐに戻ってくるのもまた然りなのだ。
だが気づいた時にはもう遅い。背後に、人の気配があった。
「……誰だ君はあっ!?」
お、終わった———有罪!
「い、いや…あの…ここに、来なきゃいけなくって…ええっと…」
「何のことだ!? …これは不法侵入だぞ!?」
«バカお前、説明下手過ぎんだろうが»
「うるせっ…」
「うるさいだと!?」
「あ、いやちが・・・」
「とにかくそこをどきなさい! 通報しても別に文句はないよね?」
「うわっ!…」
俺が答える暇もなくおじいさんは無理矢理に通過しようとする。
「そこでちょっと待ってなさい! 逃げるなよっ!!」
「あのっ…!」
あまりにも綺麗なピシャリという音。
その直後、ふすまのむこう側ではダイヤル音が三回、鳴り響いていた。
「……」
«オイ、どうすんだよ。カンペキにお縄ルートじゃねェかよォ»
「い…いや、おまわりさんならなんとか事情を説明すれば分かってくれるはずだ…」
«それにしたってオマエがテンパってたら元も子もねェんじゃねェか»
「………」
«黙っちゃった»
黙りもするわ。
「あぁ、おまわりさん? あぁ。緊急だよ、俺ん家に知らん若造が押しかけてきて…」
………………………
「…………ん? あれ?」
«…声がしなくなったな・・・»
…まさか、ふすまにそこまでの防音性能があるとも思えない。
電話の途中で機嫌を損ねたのか? いやまさか。それならそうと喋るだろう。
「……まさか」
俺はふすまを勢いよく開けた。
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