「日々への帰還」
……………‼
本当に正直なことを言えば、師匠のもとへ行かず、学校にすらいかず、家でゆっくり休みたいところなのだが、…本当にそうしたい所なのだが、そうしたらいけない理由なんて、指摘されるまでもなくわかっている。だから俺だってそうはしない。
「…本当に、自分を洗脳することでしか無理出来ないなんて…格好悪いよなぁ」
見上げながら呟く。いやいや。こんなことをしている暇はない。
他ならぬ俺自身のヘマのせいで、時間がないのだ。
「お、鋏ー。無事だったか? まさか普通に帰って来るとは思わなかったよ。
…ひょっとして暴力? おまえが言葉巧みに警察を騙せるとは思えないからね、暴力で抜け出してきたのか? それじゃあ、こんな所に居て欲しくないなぁ」
「いや、勝手に解釈を拡大しないでくださいよ。確かに巧みな言葉なんて持ち合わせても居ないですけど、暴力で解決するような奴でもないでしょうが」
「それもそうだよね。おまえに暴力で解決する程の覚悟も、行動力も無いか」
出た、師匠のお得意の、冗談に見せかけた皮肉。
これに耐えられるのはおそらく彼の身内だけだろう。
「ええ、————まったくもってその通りですよね」
***
「ふうん、
「ですよね…リシーダー…。「後退者」ですか」
「全く、あの人が持つにふさわしい名前だぜ」
「え? それって…」
侮辱なの? 誉め言葉なの?
「引き時を弁えてるってことだよ。彼が巡査だった時、好き放題やる割には出世が早くてね。踏み込みたい事件に踏み込みたいだけ踏み荒らして、自分に危害が及ぶタイミングを見計らって身を引くんだ。だからスネに傷がついたことなんて一度もない。もちろん、殉職だってしていないしね」
「はは、ホントの意味でもスネに傷がないってことですね」
「兎にも角にも、早く彼がそれを動かしているところを見たいね。おっさんは年甲斐もなく高揚しちまってるぜ」
「でも師匠、そんな年取ってないですよね…」
というか、出所不明のレギュレーターの使用に関しては是としているどころか鼻息を荒くして見たがるほどなんだな。
「うむ……じゃ、報告ご苦労。だが時計を見な。おじさんの少年時代を見て言えたことじゃ無いが、鋏。今すぐ学校に行った方がいいぜ」
「え? まあ、それはそうですけど、何か指示とか…」
「おまえは今それどころじゃないだろ。その『リシーダー』は、おっさんが聞いておくよ。彼は「関係者」なんだ、別に取り上げようってわけじゃないしね。だからおまえは、「陸酉華眉の件」、それから…何だったかな? 「塑斗河眞嶋の件」。探りなんて入れなくても向こうから襲ってくるだろうけど、それに対応したまえ」
「……ええ。はい。わかりました。…じゃあ」
「うん。気を付けて」
下がり足に靴を履いた。
***
どさりと後ろの席に両腕を置くと、むんずと顎をうずめる。
肩から背中にかけての疲労はありつつも、ある程度の安心感のある日々で、昨晩から今朝にかけて起こったことの全てを、俺と同じく師匠に教えを乞うている同級生、
「・・・つーことがあったんだよ。粮香のいつもので、何か分かんないか?」
「…とりあえず、その疑問に対する私の答えとしては、「
俺を見下げる彼女の長い髪が、鼻をくすぐる。
「まあ…そうなんだけどよ。でも、あの脇坂さんが急に不穏な動きを見せるから、なんつうか…ちょっと、不安なんだよな。あの人も塑斗河みたいに…ってさ」
「そんなことはない、って言ってあげればいいのかしら」
「…どういう含み?」
粮香はこめかみに人差し指を指して、続けた。
「私には理解る。…鋏は脇坂警視に対して、信頼を置きすぎている。だけどそれが崩れ去る、原因が現れつつある。塑斗河君のようになるとは限らなくても、君の過度な信頼が少なからず崩れるのは、もはや確実ね。…レギュレーターの出どころなんて、限られているもの。「そのへんで拾った」なんて、言えないでしょ」
「ああ…。そうなのかもな」
そんなこと、師匠は匂わせはしなかったが、「そういうこと」なのだろうか。
「…眠そうだね」
「まあな。……っ別に夜更かししてたってわけじゃないんだぞ!?!?」
「わかってるわよ、今聞いた」
「…そうだよな、うん、そうだよな…。まあ、かくして俺は眠いんで、放課はほっといてくれると嬉しい…。ふあ……」
「はいはい」
そうして俺は、長い長い眠りにつく………
「……」
「…………私の机で寝るな!!」
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