第三話「敢行・懐疑編【イグニッション】」

「窓は明るい」

……………‼


 時系列で言えば、寄垣琴梨ちゃんへ接触をした日の前日・・・いや、それから夜が明けた、早朝の時間だった。つまりだ。既に朝日が昇り、窓は明るい。


 机に肘を押し付けていた時間はあまりにも長く、同じ位置に座り続けていたことから全身が疲れている。——だが俺は、未だ、黙り続けている。


「いいかい。もう一度聞くよ? 君は夜遅く町の無人宅で一体何をしていたんだい?」


「……」


「しかも、その家屋からは…君も見ただろ? 死体が見つかっている。それも死後間もない、新鮮なものだった。…いいかい。別に僕も君を疑ってる訳じゃないんだけど、君にもそういった風に話をしてもらわないと、話の筋が通らない。わかるだろ?だからせめて、何か言ってくれないかな?…怪和崎けわさきくん」


「……」


「ねえ? ちょっと、聞こえてるかなあ!? 事件のことについて、言う事は何もないの? …君がそういう態度を続けるとさ、こっちも疑わざるを得なくなっちゃうんだよ。…いいかい! もう一度聞くけどさ、田畠たばた慎蔵しんぞうさんを殺したのは、君じゃないんだよね?」


「……俺はやってません」


「ここ数時間、それだけじゃないかっ!! もう明るくなっちまったよ!? 

君も学校があるんじゃないの?…高校生?草薙高校だろ?」


「……」


 俺は今、神岡警察署の取調室にいる。理由はいたって単純。——殺人の現行犯として逮捕されてしまったからだ。…おそらく立ち回りによってはこんな疑いを掛けられこともなかったのだろうが、何を言ってももう遅い。いわゆる、「続きは署で聞くから」というやつである。


「ちょっと…、聞いてるの?」


「……」


「君がこれ以上「俺はやってません」以上の話をしないのなら、君の学校や、君の家族に連絡をしなきゃいけなくなる。…結局、やったのか、やってないのか。その事実に嘘はつけないんだよ? やったならやった。やってないならやってない。そしてその具体的な理由を教えてくれればそれでいいんだよ? それが出来ないって言うのなら、何か後ろめたいことがあるんじゃないのかい? …いいかい。もう一度聞くよ」


「……」


「君は夜遅く…町の無人宅で、一体何をしていたんだい!?」


「もう結構だ、巡査」


「っ…脇坂わきさか警視?」


 ガチャリ、と扉を開ける大柄の人影があった。

 肩には黄色の三つ星が光っている。


「脇坂さん…」


「そちらの怪和崎はさみ君は、私が捜査協力を頼んでいる重要人物だ。…だから事件現場に居合わせていたとして、何も不思議なことは無いのです」


 脇坂慱晃だんて警視。180cmを超える長身と、その背中まで伸びるロングヘアを三つ編みに結んだ男性。警官である彼との関係は、言うまでもない。


「…こ、高校生を事件調査に巻き込んでいるんですか!?」


「それは彼が斥納君のお弟子さんだからです。世間的に不法侵入と呼ばれることならばするかもしれないが、間違っても殺しを働くような子じゃない」


「それじゃあ…誰が田畠さんを殺したのか、わかるんですか」


「それは……」


 さっきまでの俺もそうだが、何故、答えられないのか。…知らせてしまうことは、巻き込むことになるからだ。

 不可思議事象を知ることは、彼らの怨点となってしまうきっかけになるからだ。


「…知らないわけではありません。ですが、おまわりさんに真相は伝えられません」


「そんな事が…信じられると思ってるのか!?」


「今俺が包み隠さず教えてしまうことは、おまわりさんを巻き込むことになるんです。…脇坂さんでもないのに、あなたに教える事は出来ないです」


「僕だって一警官だ。事件解決のために、高校生よりも役に立たないことがあっては面子が立たない。…今更頭を下げるのもなんだが、たしかに怪和崎くんの疑いは晴らすよ。現場に居合わせただけなんだね。だけど…本当のことを教えてくれないか」


「……」


「…どうします?」


「いや、私に聞かれても…」

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