「わたしの覚悟」

……………@


 嘘だ。…嘘がある。

彼女には。わたしに対してか、誰に対してか。


その無感情は、嘘。


 ———…鋏先輩が立ちはだかる。


「陸酉…落ち着いてくれ…。話をしよう」


なだめるように両手を大きく広げる。


「……。」


ナミちゃんは灰色の目を、炯々と見開くままだ。


「対話だ…対話が必要なんだ…! 話を聞いてくれ! お前の友達の琴梨ちゃんだって、こんなことは望んでいない…‼」


「先輩…」


 …体が動かない。何も言えない。

わたしに出来る事をするまでの…行動力が出ない。


「いい加減にしろ、怪和崎。相手は不可思議だぞ」


奇しくも先ほどの先輩とは逆だ。


「…対立者は、対立しなくてはならない」


「…!」


初めて口を開き、そう言った。


「甘ったれるな、私はリアライザーだぞ。…戦え‼」


「はははは‼ 今に至っては随分乗り気じゃないですか!」


 …呼応するように笑い飛ばすと次の瞬間飛び掛かる。


「ちょっ…待て…」


「酷々恒河沙刀!!」


ざん! ざんざん


真っ黒な死神の鎌デスサイズで斬りつけるも、躱される。


「塩焦万刀…」


 既に一触即発の状態は終わってしまったようだった。

死神によって戦いの幕が切られたのだ。

ついに藤岡くんまでもが駆けていく。


「…待て齋兜‼」


「いい加減にしろ、もうお前には構っていられない」


 しかし、戦力の違いというのは一目見ればわかるようだった。

ナミちゃんは、どういう身体能力をしているのか、二対一で斬りかかられているというのに武器一つ使わずに躱し続ける。目にもとまらぬ速さで、左へ。右へ。下へ。身体を捩り右へ。掠りもしない。それこそ不可思議で不可解に…。


「——ああ、くそ!! 琴梨ちゃん、すまん! 無力化だけでもさせてもらう!」


「無力化だと、傲慢なやつだな、自分が上だと思っているの?…

数の違いを教えてやる、祈納きのう不可思議ふかしぎ刀…!!」


不可思議刀。と。そう言い、手を伸ばす。


藤岡くんは何かに勘づいたようだった。

上段に構え…


それから先は、わたしには見る事すらも叶わないような光景だった。

これが不可思議事象なのか、と言わんばかりに。


 まず、先程わたしが吹き飛ばされたのと同じような、わけの分からない突風に全員が吹き飛ばされる。

立っていられない状態になった所で橋のアスファルトを突き破り、川の下から這いずり出てくるのは、「肉の塊」としか形容できない何かだった。どうやら繋ちゃんはこれに見覚えがあるらしい。

そして、空は真っ赤に染まりまたもや「何か」が降り注ぎ、爆発のような衝撃が与えられる。人為的な空爆みたいなものではない。熱線のような何か。


ただ、戦地の真っただ中に放り出されたような衝撃に身動きが取れない。


「…『リアライザーの守護者』の名は伊達じゃないな」


と言う藤岡くん。


「それどころか、もはや分身と言ってもいい…ひょっとすると、三人がかりでも殺りきれないかもしれませんね」


と言う繋ちゃん。


「だそうだぞ、怪和崎。能ある鷹は爪を隠すと言うが、いい加減、隠す相手を見るべきじゃないか」


「ぐ……」


それでも、戦いたくはない…戦いたくはない。


「な…ナミちゃん! やめて、お願いだからやめて。わたしには戦うことなんてできない! ナミちゃんを失いたくもない。 お願いだから…ナミちゃんが元に戻れば、何もかもが終わるんだよ…もう戦わなくていいんだよ…!」


「まだ、なのか…まだわかってくれないのか…」


———そっちこそ…、自分は全てわかっているというような物言いにカチンと来た!


「何が!?!? 何がなの!? 口も利かずにわかれってのは、無理がある!!」


説明もせずに理解しろとは、どういう了見だ。


「……。」


「なんで黙っちゃうのよ!?」


 …わからない。失われるべき命など無いのに、戦わなくてはいけないとは。

…華眉ちゃんは、何がしたいのか!?


「…もう一度だ。塩焦万刀」


「…群遊肆刀」


「酷々恒河沙刀!」


 片膝を立てて立ち上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る