「彼女の嘘」

……………@


「琴梨ちゃん…大丈夫か?」


「何がですか?」


「いや、ぼうっとしてたから…」


「あ…ぜんぜん、大丈夫です」


「そうか…」


先輩はわたしの返事に大して安心した様子もなく、続ける。


「……俺は、君の気持ちを汲み取るつもりでいる。

彼女は君のかけがえのない友達だ。

だがもしも、争うことを止められないのなら…、」


「…わたしにはまだ、分かりません…。ナミちゃんが、不可思議事象が、どれだけ危険な存在なのか…なぜ戦わなければいけないのか…。答えになっていないかもしれませんが、わたしも同じです。戦いたくはないです」


「…そうか」


 繋ちゃんとの戦い、そして鋏先輩の「殺さない」宣言のあと、大きく見積もって二時間は過ぎた。揉めながら、話しながら、どこに腰を落ち着けるでもなく歩き続け、球場のある公園、坂巻公園の表の歩道を五人組でぶらぶらと…どこへ向かうでもなかった。


 きっと彼女もそれをわかっているはずである。


「…本気なんですか、あなた」


「ああ、そのつもりだ。師匠もきっとそれを望んでいる」


「……。」


 繋ちゃん達は未だに疑問を抱いているようだ。


「…もう時間がない。怪和崎。撤回は今にしろ。迷ったまま戦おうとするな」


「……。」


先輩が歯を食いしばったのがわかった。

しかし、言い返すことも受け入れることも何も言わなかった。

先輩も迷っているのだろう。


―――――――――――――—―――――――――――――—



「……やあ、先輩方。死神さんもご一緒かい」


「……。」


「あ、昨日の」


 見覚えのある茶髪。倪祠仲きしなかくん、だったか。


「こんにちは、寄垣先輩。昨日ぶりですね。

…今は丁度いい時間ですね。僕が先導しましょうか」


「ああ、頼む」


 先導? そういえば昨日も彼と話しているタイミングで不可思議となったナミちゃんを見かけたが、…何者なんだ? この男の子は。


「まあ、特殊な…技術みたいなものですよ、僕の家系のね。

見通す力と言いますか。わかる、と言いますか。あちらさんをこちら側へ、呼び寄せてやることが出来るものです。さあ、ご案内しましょう」


「………。」


一行は、彼の言葉に疑問を持つこともなくすたすたとついて行く。

怪しさしかないが、それでもきっと、結果があるのだから、鋏先輩や藤岡くんからこうして信頼されているのだろう。


 ついていく、といっても、本当について行くだけだった。

…何が「だけ」なのか。今まで歩いていた道を今まで通り歩くだけだなのだ。

どこも曲がらない。…だが、それでもなぜだろうか、時間が経つにつれて空気が変わっていくような感覚は、わたしにすらわかった。


…日が、暮れ始めた。


「そろそろ時間ね」


御咲ちゃんがあたりを見回して言った。


「時間?」


「ああ…逢魔が時だよ。夜の始まりは、魑魅魍魎の本領発揮の始まりだ。そんな始まりの時間こそ、俺達は奴らに出逢いやすいものさ。当然、不可思議も例外ではない」


なるほどその「時間」とやらはほんとうにすぐそこまで迫っていたらしく、

おそらく倪祠仲くんによって導かれる場所へとたどり着いたようだ。


 どこから、というには難しいものだった。

ただ具体的に示すならば釣瓶つるべ橋という橋の中腹。

気が付けばいる、というよりも、どこからかやってくる、というよりも、

そこを歩いている通行人が、気が付けば、



陸酉華眉ちゃんだった。



「————っ!!」


 御咲ちゃんは存在に気付いた瞬間から既に、刀の姿に変わる。


 その顔面が同時に注目されると、また同時に、鋭い灰色の眼光が光った。

まさに。—————この覇気。天気も一転して暗雲立ち込めるような禍々しさは、目の前の女子高生が紛れもなく本体、紛れもなく本物であることがわかるようだった。


はたしてそれは攻撃なのか。その何かに、わたしは耐えきれずに吹き飛ばされる。


「琴梨ちゃん、大丈夫か。……。」


「……。」


ナミちゃんの瞳には輝きがなかった。

しかし、その無機質さは藤岡くんや御咲ちゃんのようなものとはまた違っていた。

直感だった。ただの違和感だった。


彼女のその雰囲気。生き方には、

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