「最初の話」

……………@


 わたしが華眉ちゃんとの別れを見るか、再会を決行するか。その覚悟を決めるには、今を見つめ、過去を見つめ、そして未来のことを考える必要がある。


 わたしの今は何か? なんのために未来へ進むのか?

 わたしの過去は何か? なにがために今があるのか?

 わたしの未来は何か?  最後に辿り着くのは何色か。


 わたしは寄垣琴梨。父の名前は寄垣蒼真そうま。母の名前は寄垣類加るいか。わたしはもともと神岡とは違う街で産まれ育った。だが、草薙高校へ入学することになったわたしはこの街へやってきた。そのまま一年が経ったのが今だ。将来はともかく、わたしは高校を無事に終えられれば本望だ。そのような心構えだった。


 …どうも、自分の「強さ」を過大評価していたと思う。

父が居なくても、母が居なくても、周りに頼れる大人がいなくとも、

自分は生きていけるのだと。自分の意志をつき通せるのだと。


 わたしの過剰だった自信を指摘し、しかも必要な存在の代わりとなってくれたのは、華眉ちゃんだった。こういった関係に至るまでに何度か、彼女の気難しい性格とぶつかることもあった。

わたしは彼女を惜し気もなく信用している。これは根拠がどうといった事では無く、一年という時間が積み上げた容易には崩れがたい信頼で、あのような噂ひとつで変わるにはあまりにも大きすぎる。


 …ただ、今となっては違う。彼女から別れを告げられた時、わたしは既にわかっていた。ただ受け入れるのに時間がかかっただけだ。きっとそうなのだ。


彼女が何者なのか。


彼女にとってわたしは何なのか。


そしてわたしは、彼女のために、何が出来るのか。

彼女がわたしに望むことは何か。



 …これは。ここまでは、「最初の話」だ。

随分長ったらしかったと思う。わたしがここまで辿り着くまでに、かなりの時間がかかってしまったことを、わたしは自覚している。


 やっと、寄垣琴梨は自分の物語を始めることが出来る。


「もしもし、お父さん」


わたしは携帯電話に向かって話しかける。


『ああ、もしもし。…なんだい、琴梨』


「…わたしはどうすればいいかな? どんな風に生きていけばいいかな?

どんな自分を演じるべきかな? お父さんはわたしにどうなってほしい?』


『……。』


答えは帰らない。


「わたしは…何を思って生きていけばいいの?」


…それは、お前わたしが決める事だ。




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