「無謀なエゴイズム」
……………‼
「…聞いちゃいけないかもなんですけど、
さっきの着信、誰からの電話だったんですか?」
「別に、聞いちゃいけないことなんて無いぞ? りょ…裟神からだ」
「りょ?」
「…なんか、よく先輩と電話してるんですね。昨日も、私の前だと二回…」
「いやいや、誤解を招く言い方はやめてくれ。裟神だけじゃない。齋兜や
「ふ~~ん」
俺達ののんびりした歩調に速度を合わせながらも、柵を飛び越したり壁を昇ったり、パルクールのようなことをしながら水を差してくる死神中学生。
「…なんだよ」
「ま、いいですけどね。私には関係ないことですし」
「……そんなことより、もうひとつ聞きたい事があったことを思い出したぜ、死神」
「ええ、なんでしょう」
異常なバランス感覚(もはや宙に浮いているのでは?)で歩いていた数ミリという幅の柵の上から飛び降りた。
一悶着あったが、あの後、とりあえずといって屋上からは降り、さてこれからどこへ向かおうかというとき、死神中学生は師匠に会いたくない、というので、俺がいつもそこを歩くと塑斗河眞嶋が接触してくることから「眞嶋坂」と呼んでいる長い坂、…の近くあたりを、とりあえずといって歩いていた。
「…『酷々恒河沙刀』、だったか?」
「それについては、今は教えられません」
「なんでだよ」
「なんでもですよ。教えてあげられるべきではないことです」
「…そういうもんか」
なるほど、あくまでも一時の共闘、手元を明かすつもりは無いか。
…只者では、ましてや人間ではないのは確かだが、
それにしてもまさかレギュレーターを使用するのが人だけではないとはな。
……まあそんなことはどうでもいいのだ。
今の問題は、どうやってカタをつけるか、だ。ついに陸酉の内情を知ったところで、今から俺達に起こせる行動はなんだろうかということである。
…”奴”を落ち着けるための、今からの俺達の作戦は…、
「重要なのは、対話だ」
「…なんです急に?」
「和解ならまだしも、交渉次第では方法を変えさせられないかと思ってな…
市民に延命が施されなくなれば、死神としては目的達成じゃあないか?」
「はあ…」
「……。」
賛成してくれているとは言えない空気だなあ。
「なんだかつくづく分かってませんねぇ…。
ラッキーだとは思わないんですか? 死神である私があなた達のような人間風情への協力を許していることを。
「そりゃあそうだけどさ…分かってないなんてことはないよ。だって、お互いあくまでも目的の達成を優先するべきじゃないか? それなら、君からすると安全で迅速で平和的な達成が一番かと思って」
「…そうすると、こちらへのメリットが半減するな。
こいつからは情報を引き出しただけになる。
俺達の目的は陸酉華眉の消滅だ。それが効率的に進もうとしているのに、お前は細かい動きだけをして戦力を手放そうとしているんだぞ。本当に分かっているのか」
齋兜からまでもそう言われてしまう。…だが。
「…ああ。死神さんは既に大切な事を教えてくれた。
それだけで充分だ。戦力なんて、足りているだろう。
俺は…、陸酉華眉を殺すつもりはないんだから」
「鋏先輩…」
「正気?相手は不可思議事象よ。女の子だからって躊躇っちゃってるのかなあ」
御咲ちゃんまでもが反論を述べる。
「そうじゃない。ただ、……安易に奪ってしまっていい命だとは思えないんだ」
自分がどれだけおかしなことを言っているかは分かっている。
それでも、彼女は、陸酉は、嘘偽りなく、琴梨ちゃんの友達だった。
今がどうであれ…寄垣琴梨という人間と、和解していたのだ。
誰が何と言おうと、ふたりの何気ない日常を、…俺は取り戻してやりたい。
下心だとか義務感だとかでもなんでもなく…ただのエゴなんだ。
ただ……、俺は迷っているだけなんだ。
※本作品にはモデルとなった実際の人物や地名が存在しますが、
この作品はフィクションであり、実際の人物、団体、事件等には一切の関係もございません。
【第九話 おわり 第二章三話へつづく】
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