「死神は語る」

……………‼


ピロロロロロロロロロロロロロロロロロロ————————————————。


真っ昼間だというのに、突然の着信だった。


「っ……もしもし?」


『…もしもし、私』


聞こえてくるのは、声量を抑えた粮香りょうかの声だった。


「…どうした? どこかに隠れてるのか?」


つられて俺も声を抑える。


『今、校舎の中で電話してんの』


ぎょっとする。


「…ははん、お前のような優等生様とは思えん暴挙だなあ」


『誰のせいだと思ってんの。「ST」って先生から私に聞かれたの』


「—————あ」


げげげのげ! やっちまった!

せめてSTに出てさえいなければ無断欠席で済んだものを。

無断下校(?)は一番都合が悪い。月曜になんて言い訳すればいいだろうか。


『…まあ、「調退」ってことにしといたから、大丈夫だとは思うけど』


「マジ神粮香様!?!?」


『うるさい、電話口で叫ぶな。……それで、琴梨ちゃん達と陸酉華眉の件を追ってるのね?』


「ああ、勘が良いな」


『ええ、大体分かってるわ』


見えはしないが、おそらく粮香は今、自分のこめかみを指さしたのだろう。


「じゃあ、話は早いな。…助けは必要ない。欠課も今日の分で十分だ。

…今日中にケリをつける」


『わかった、頑張って。…おかげで皆勤賞を逃さずに済みそうだわ』


「俺に皆勤賞の話するのやめてくれないか。ただでさえ休みが多いんだぞ」


『サボってなきゃあこんなのおおかた取れるのよ』


くっそ~~、好き勝手言いやがって。戦力外のくせに!


「んじゃ、切るぞ。そっちも俺の分まで学業にいそしんでくれ」


『はいはい』


ツー、ツー、ツー……、と。


――――――――――—――――――――――――――――—


 死神が語った、この街で起こっている『デスバランス』の崩壊。それはすなわち、案外入り組んだ話ではなく、まさにヤツの生業どストライク。…こんな概要だった。


 ギリシア神話の名医、アスクレピオスが多くの死人を蘇生したことでハデスもしくはゼウスの怒りを買い、雷に打たれて死んだように、今この街では、陸酉華眉という不可思議事象によって、不正な寿命の延命が行われているらしい。そしてその雷に当たるのが、…死神か、それとも俺達の誰かか、一体誰になるのか。


「…いやいや。ちょっと待て。不可思議事象は街の人間達を殺して回る存在なんだぞ?その代表格である陸酉が人間の延命なんかして、何のメリットがあるって言うんだ?」


誰もが思いつくはずの疑問である。


「…私もこういった不正には弱くてですね。…天命を破って存命している命があったと知っちゃ、飛んで駆けつけては片っ端からばったばったと切り刻んでいましたが、…それが目的だったようです」


「ん? ちょっと待ってくれ。ばったばったと切り刻んだって…じゃあ、」


「ええ、なんだかえらく話題になっているようですね。

…だから私は人を殺していたんですよ、連続でね」


埃や砂だらけの床にあぐらをかいたまま、なんの悪びれることも無くそう言った。

 殺人なんて物騒なこと。結局、「それが彼女の面目躍如である」と、

真相はそのようだった。


「ただですね、さっきも言った通り陸酉の目的はそれだったんです。

随分いいように利用してくれたものですね…」


「…どういうことだ?」


「だから、彼女は私に『違反者たち』を殺害させることこそが狙いだったんです。

あなた達なら知っているのではありませんか、彼女が『本当のお友達』を増やす方法を」


 …『本当のお友達』という言い方は、琴梨ちゃんが『本当ではないお友達』だとして突き放すようであり、それによって琴梨ちゃんとは裏腹に彼女の行っている『友達捜し』の内容を、一言で説明できてしまうようでもあった。


「ええ。寿命を延ばされた人間は、多くの場合生に対して執着を持つようになる。

それも持つならば強く。そうなってしまった所を私に葬らせて、真っ赤な未練を作り上げたわけですね」


 分かっていたようなことであっても、疑いたくもなることであっても、それが全てだった。それが事実だった。陸酉を本気でたいせつに思っていた寄垣琴梨ちゃんにとってはあまりにも残酷であっても、取り繕いようのない事実だった。



『不可思議事象の目的はただ一つ、不可思議事象を増やす事である』

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