「リラスト・エクスキューション!」

……………‼


「琴梨ちゃん、君は隠れててくれ」


「あ、はい! …って隠れる物なくないですか…!?」


「…とにかくだ! お前も琴梨ちゃんに危害が及ぶことはデメリットになるんじゃないか? あんまり無差別的な攻撃はしないでくれよ」


「いいですよ」


 その承諾は、同時に戦いの幕開けを暗に示すものでもあった。


 齋兜にある程度モチベーションがある今、先手はこいつに預けた方がいい…。

俺は隙を見てフォローすることで初めて協力が成立するのではないか。

と考えている間に…死神は駆けだしていた。


ガキン!!


死神が鋭利な鎌で斬りつけるのを、鋭い音を立てて齋兜は受ける。

俺はそれとほぼ同時に齋兜の右側に逸れ、回転を掛けて斬りかかる。


 …しかし、この時俺と齋兜はこいつの実力を侮っていたようだった。


「——————っ!!」


リディキュラシーを縦に振り下ろすのが早かっただろうか。

いわば鍔迫り合いのような状況にもかかわらず、

死神は異常な怪力で二人ごと吹き飛ばしたのである!


受け身を取るも、予想外な出来事に唖然とし、次の攻撃が出ない。

そうか、こいつはあまりにも…人間では無い。

不可思議事象とも訳が違う!


「…どうかしましたか? お腹痛くなっちゃいました?

体調不良は自己管理の問題です。まだまだ手加減はしませんよー」


挑発に乗ったのか、齋兜は不意打ちのように刺突攻撃を仕掛ける。


「——…甘っちょろいッ!」


「……!」


齋兜は地面に叩きつけられた。

出しゃばりすぎだぞコノヤロー。


「なあ、お前なら協力が必要なことはわかるだろ? 頼む。俺はサポートをする」


「………。」


「こういうセリフってかっこ悪いからあんまり言いたくないんですけどー、

なんて言うのかな? 小癪。ボソボソ話し合っちゃってさ」


「ぐっ…」


なんてことを言ってくれるんだ。ますます一人で戦いたがるぞこいつ。


「もっと正々堂々かかってくればいいものを。 というかあなた達ほんとに仲間ですか? こんなに連携が取れてないなんて」


痛い所を突いてくるなあ、琴梨ちゃんも見ているというのに。

格好付けて戦隊とは名乗ったもののほとんどが一人での戦闘だからな。


 ともかく、こんな所でこんなやつに手間取っている暇は無い。

なるほどさすがは死神を名乗るだけのことはある、その不吉な雰囲気にもましてこの怪力と来れば、俺はうんと唸らざるを得ない。しかしだ。


「なるほど、…よーくわかったぜ、死神中学生。実力は口だけじゃないらしい。そのカワイイ格好に油断してたみたいだ、こっからは本気で行かせてもらうぞ!!」


「えへへ…やっとですか!!」


鋭い目つきでこちらを睨む。しかしその表情は笑みだった。

次に死神が握っていたのはその名を冠するような鎌ではない。

西洋の両刃剣。真っ黒なエストック。


「おあぁっ!」


横薙ぎとか、縦斬りとか、そんなことはどうでもよくなるほどに振り回す。

塑斗河のやつとはまた一味違うチャンバラだ。ただし、危うさは奴以上で、

いつどんな手を打ってくるかわからない恐ろしさと、それ故か、底知れぬ余裕があった。あいつとはまるで違う。…


「なあお前、下手したら剣道部の主将とかよりも剣の使い方が上手いんじゃないか?

部活は何入ってんだよ」


「はあ? そういうこと今聞きます? 場がしらけるじゃないですか」


「おっとそうか、そりゃ失礼。…齋兜、スイッチだ!」


ゲーム機じゃなくて、入れ替われってことだぜ。

……まあ分かるか。


「……。」


「群遊肆刀!」


入れ替わって前に出た齋兜を、画鋲を生成してはやつに飛ばす、の弾幕を張って援護する。


ヒュンヒュンヒュンヒュン!


「……はあっ!?うわうっぜー‼うっぜー‼人の心とかあります!?なんでそんなこと出来るんだイジメっ子かあんたわ!?」


「繋ちゃんがあんなに喋ってるとこはじめて見た…」


琴梨ちゃんも思わずそう呟く。随分口が達者だなぁ。さっきまでの余裕はどこへやら。…しかしそれでも的確に、例の黒い何かを作り出して画鋲を防いでいるのだからやりおるな。弾幕をあえて受ける、なんてのは単細胞しかやらんことだな。うむ。


「……。」


それにしても齋兜は思ったより刀の斬り合いが上手い。

こうした機会がないと実戦では見られないものだ。


「あーもーー‼‼」


…そんな愉快な怒鳴り声に、なんだか綻びかけたその時だった。

…斬り合いが、上手すぎたのかもしれない。それとも俺のせいだったのか。

ガチン、ガチン、ガチン、と繰り返すなかの一つ。


死神が、一瞬の隙を見せたのである。


「……おい」


「……っ!!!」


ずぶり、と、初めて鈍い音がした。


赤い刃はさらに赤く染まった。


急所以外の何でもない。死神の横腹の肝臓当たりに、

リラスターの刃がざっくりと突き刺さったのだ。

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