第九話「敢行・紛糾編【メザメタコロニ】

「目覚めた頃に」

……………@



「……………。」




 沈黙、空白、微睡み…、体に力が入らない。瞼の裏に浮かぶのは、父の背中。

ふと目に入るのは、安心感を覚える、制服の後ろ姿。

…日差しが眩しい。心なしか肌寒く、頭が痛い。…


例の道場で、わたしは目覚めた様だった。


「………藤岡君?」


「驚いたな、…生きているとはおもわなかった」


「だから言ったじゃないか、ちょっと眠りについていただけさ。

——やあ、おはよう寄垣さん。不可思議の世界はどうだった? 

お目当ての人物には会えたかい?」


「——!……結果を言えば、失敗でした」


どうやらわたしは、意識を失うという形で、あちら側に言っていたらしい。

————物理的な移動というわけではなく。

 …それよりも、わたしは今までどのような状態だったのか?


「…うむ、ざっくり言って仮死状態。呼吸はゼロ、脈拍は極めて微弱。

誰がどう見ても死んでいるようにしか見えない状態だった」


「えっ…」


「だから、当然死体として扱われて、今日の内にでも速報としてニュースに出演できたかもしれないんだけど、運よく齋兜達が見つけてくれたおかげでここに運ばれてきたわけだが…出たかったかい? テレビ」


「いや…。」


「まあきみは未だ、「何が何だかわからない」と、質問したいことだらけだろうが、…きみ一人に構っていられる時間も、存外ないんだよね。…だからこっちから一つ聞かせてもらうと、…『死神』ときみはどういう関係なのかな?」


 突然疑われたような気分になり、焦る。


「あ、えっと…違うんです、…その、たまたま知り合いだっただけで…」


「うん?」


「彼女が『死神』だったとは、知らなかったんです‼」


「ああ、うん。ははは。弁解するような言い方だが、なにも疑ってる訳じゃないぜ。

まあ、いい機会だったとおっさんは思っている。不可思議を知っているということは、それだけでも死と隣り合わせになっているということを自覚できたのならね。

…せっかくだから、彼女についておれが知っていることを教えてあげよう」


「……はい」


 正直、繋ちゃんについては自分が一番知っていると思っていた。

…否。自分しか知らないものだと思っていた。


ナミちゃんといい…わたしは普段の人間関係を見つめ直した方がいいかもしれない。

 が、しかし。繋ちゃんの真実について、ゆっくり窺っていたかったところだが、

 がらがらという玄関の音に、全員の視線が向けられる。


「やあ、鋏」


「あ…琴梨ちゃん。起きてたのか」


「あ、はい」


「ああ、一時はどうなる事かとおもったぜ、まったく。

…うん、いい頃合いだ、五人でお昼でも食べに行こうじゃないか」


 時計を見れば、既に13時を回っていた。


――――――――――――――――――――――――――—


……………‼


「ふうん、まーたあいつに喧嘩を売られたか。また腕を上げていたかな?」


「いえ…まあ、正直、互角の戦いでしたよ。途中で諦めてくれなかったら、負けていたかもしれません」


「ふーん、そりゃそりゃ」


 一度は街のラーメン屋に行こうともなったのだが、呑気に外食なんかしている暇はあるのか、遊んでるんじゃないんだぞという琴梨ちゃんからの手厳しい指摘を頂いたので、いわゆる中食なかしょく。簡単に食べられる食事を、俺と師匠で買い出しにという話に纏まった。


 …ようするに、師匠は俺一人に対して、伝えるべきことがあるのだろう。


「あいつ…塑斗河には…、何か目的があるんでしょうか」


「おまえ、分かってて聞いてるだろ?」


「……。」


「あいつはあいつでおれ達と違う方法で、不可思議事象を収束させようとしてるのさ。…きっと、内側に潜り込んでいるつもりなんだろう。もっとも、成功したとして自分の命は助からないと分かっているにも関わらず、ね」


「あいつを…」


「あいつを助ける方法は? なんて聞かないでおくれよ。塑斗河眞嶋は既に自らの命を断っている。全てが終わったとして、彼が救われる事はない」


「………そうですか」


 塑斗河…敵として対立するには、勿体なさすぎる。

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