「セブン・デス」
……………ℵ
死神にのみ許される移層を使ってやってきたこの層にも、
ただの死霊以外は陸酉と私だけが残っていた。…しかし、彼女を論理だけで丸め込むのは、初対面の私には不可能であることを悟っていた。
俊敏に距離を取り、武器を構える。
「酷々恒河沙刀…」
「……私はあなたと闘う必要性を感じない」
「どうせ、何を言っても応じる気はないんでしょう。それなら相手になってもらいましょう、…陸酉華眉。さもなければここで私が終わりにしてもいい」
「」
「我々の目的は、あなたの消滅によっても充分達成されたと言える」
さもなくば、尻尾を巻いて逃げるか?
「くそ、調子に乗るなよ死神気取り…。本気で自分が優位だと思っているの」
「お~」
先攻は私。間合いを詰め、左から右へ横薙ぎに斬りつける。
「……。」
私が考察するに、これが彼女の人格だった。これといった掴みどころがなく、
何を楽しみとしているのか分からない…口数も少ない。それでも、斬撃は適格に躱してみせるのだ。
「…私、あなたがわからないんですよね! 人間ではないならまだしも、リアライザーの守護者だからといって…何故人を殺さないのか⁉」
「……必要がない」
ならば、何が必要なのか。
それは、リアライザーにとって必要な事。
その守護者である彼女に意志など無い。
「いや~、わからないなぁ…」
「もういいか。無駄な事はわかったろう」
「いえいえ! もっとお話ししましょうよ」
「は……」
呆れられてしまった。
「話すことが無いのなら、切っ先でお話をしましょう。…剣を持て‼」
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2010年6月18日
【神岡町の陸酉華眉に関する業務報告⓵】
6年前、裟神熾刃人の『願い』により不可思議事象が発生する街となったG県神岡町には、現在その根本であるリアライザーの生み出した自らの守護者、陸酉華眉の暴挙によりデスバランスが崩壊しつつある。
《内容》 陸酉による市民の寿命延長。それによる目的は不明。
《対応⓵》 寿命を延長された市民の粛清。
《対応②》 阻止のため、神岡に在住していた私が情報収集、及び接触を図るため、仲介役として彼女の友人にあたる
《結果》 失敗
《所見》 陸酉が心を開いていたはずの寄垣にすら対話をする意欲はなく、陸酉との一対一の対話を試みたが、やはり応じる様子は見られず、交戦。
本部からの助力は不要。
平和的な解決が不可能な場合陸酉を葬ることで事態を収めることも
彼女は予想以上の戦闘能力を持っていた。おそらく、不可思議としての能力だけではなく、リアライザーにより力を与えられているのではと考えられる——。
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みち…みち…みちみちみち……。
度を越した痛みは、もはや痛みではなくなる。
耐えることはない。痛みによって迎えられる死に対して、備える必要はない。
背中から突き刺さる『血肉』は、肩甲骨を曲げ、脊椎を折り、胸骨を割り、
私の胸元を貫通する。
「……は………ぐ…」
両の肺が握りつぶされ、声は出ない。
「……あんたに私はわからない。…教えてあげるつもりもない。…必要がない」
彼女を理解できるのは、寄垣琴梨だけなのか。
否、それにしても……やはり、彼女を消すしかないのかもしれない。
遠のいていく意識の中で、私は怒りを感じることなどなかった。
※本作品にはモデルとなった実際の人物や地名が存在しますが、
この作品はフィクションであり、実際の人物、団体、事件等には一切の関係もございません。
【第八話 おわり 第九話へつづく】
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