「ハンティング・キッド」
……………@
「…繋ちゃん…。」
「はい」
意識が覚醒したわたしは、察していた。
起き上がった、そこ。その女の子の背中から、現状は把握できた。
「繋ちゃんだったんだ」
「はいそうです。」
質問に対し返ってくる返事は、これ程とまでに素っ気なかった。それはもはや、顔見知りだとは思えないほどに。
…知らない人のように。悪気など、欠片もないがごとく。
昨今、この街に恐怖を与えている連続殺人犯。その正体は、わたしの親友陸酉華眉ではなかった。しかし、真相がこんなものならば、どれだけあれがナミちゃんならば良かっただろうか、とすら思う。
…されど、いずれにしても、顔見知り。体格通りの、中学生。
お隣さんの娘さん。
ただ、裏切られた、という絶望のようなものを、わたしは感じていた。
事務的に、仕事の様に、本意ではないかのように、しかし彼女は微笑んで、こちらを見つめる。
「いちおう、理由とかは教えてもらえるのかな」
「当然おしえてあげられませんね」
対話に応える気はないようで、いたずら的に言った。それほどまでに、悪気はなく。
「…わたしを殺せばよかったのに」
「…え~?」
…とぼける様子ではなく、本気で意味が分からないようだ。
「わたしは目撃者だよ? その場で殺せば、口封じにもなったでしょう。それとも、今ここで、場所を変えてから、やられちゃうのかな」
おおきく首をかしげて、そのまま頭で孤を描き、反対側に着いたところで、
「どうやら勘違いしてらっしゃるみたいですけど、あたしはあなたの命を奪うつもりはないです。現時点ではね」
傾いたままそう言った。
「……そうなの」
じゃあなんでって聞くと、教えてくれないのだろうか。
「…う~む、あたしはあなたの話を聞くつもりは無いですけど、あなたにはあたしの話を聞いてもらいます。言いたい事は山ほどあるでしょうが、ちょっと黙っていてください」
…強情でいては埒が明かない。安全の為にも従うしかないか。
「いいよ。 ……なにかな。話って」
「まあ、ようするに、あなたにしか知らないはずのことがあるんです」
「頼み? …なんだろう」
「それはそうと、あなた最近不可思議事象について嗅ぎまわっていますよね」
おおう、急に話題を変えてくるなぁ。
「そういうことになるのかも…」
「…これは、公正な取引です。ウィンウィンってやつです。寄垣さんのしたいことにあたしが力を貸すことで、あたしの仕事も済ませようってことです」
「…つまり?」
「あたしは陸酉華眉の居所を、特定できるんです!」
「まぁじですか!?」
まぁじですか。
しかし、この時の繋ちゃんの言うことは、あまりに支離滅裂すぎて、わたしが話を理解するのに10分近くかかったので大幅カット。要するにこういうことが言いたかったようだ。
『あたしは死神であり、「
とのこと。
はい、理解できない。というか無理。それだけはわかる。
「…無理? あなたに拒否権あるとおもってます?」
「ひょっとして脅されてますかわたし」
「ウィンウィンって言ってるじゃないですか、陸酉との対話があなたの目的じゃないんですか?」
「そうだけど…さすがに成仏しろとまでは…」
言えないかも。…そう、その通りだった。わたしは、ナミちゃんが…不可思議だとは、思ってもみなかったのだ。わたしの目的は、ナミちゃんを連れ戻すことだった。
朝、学校に行くと、誰よりも早くナミちゃんがいて、いろんな部分を注意されながらもいろんな話をしてくれて、気が付けば一日がおわり、誰よりも早く帰っていく。そんな毎日。
そんな毎日を取り戻すために、そのために今、ナミちゃんとの対話が必要だと思っていたのだ。化け物だとかどうかとか、そんなことはどうでもいい。
わたしは取り戻したいんだ。友達を。
「その友達が、もし正気を失っていたとしたらどうします?」
「正気を取り戻すまで説得を続ける」
「死にますよ」
「死んだって構わないよ。…それこそ、毎日が取り戻せないなら…」
そう…死んだって。
「……はぁ。人生の先輩にこんなこと言うのもなんですけど、つっまんない生き方してますねー」
「別にいいじゃない。
繋ちゃんにとってはつまんなくたって、わたしにとっては満足」
「そおこまで人に影響されて生活してる人なんてそういます??」
「別に…いいじゃない」
「いや、別にじゃなくって。よくないですよ、全然。あなたしか損しませんよ? それでいいと思うのは勝手ですけどね、正しさを重んじるあたくしとしては、それは正しくない。それはわかります。あなたは間違いをおかして、それを受け入れずに死による救済を信じている。…それは、嘘だ」
「嘘」
「死が救済だなんてのは、とんだ嘘っぱちですよ。
ただ、死によって免れるという行為はただの逃避であり、それに伴った合理化に過ぎない。そして生きているうちは死後の世界なんてなにがあっても観測し得ない。
怖いですね~。説得力や本当の正しさなんて、知っているのは、死んだ人か、それこそ死神にだって知ったようなことは言えません。ただ強いて言うなら、今から死ぬかもしれないあなた自身が決める事なんです」
死神さんのお言葉は、重かった。
死ぬか死なないか…目的を果たせるか果たせないか。わたしが決める事なのか。
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