第八話「コンポジション・オブ・カノン」
「ファースト・ザ・サイト」
……………。
この朝を終えて。高校を休んでまでして、不可思議退治に乗り出した今日という日の朝から昼にかけてを終えてみて、まず師匠に報告せねばならない事があった。
寄垣琴梨は死亡した。
全国ニュースに取り上げられるほどのご活躍で、街を暗躍する連続殺人犯である何者か。その正体を突き止められたのはいいものの、陸酉華眉によって生み出された不可思議事象、あるいは陸酉華眉そのものによる犯行だという予想はまんまと外れた。
原因は、事象では無かったのである。
俺が目視した範囲で言って、それは、どこからどう見ても、ただの、
どこにでもいるような人間。
ひとりの、真っ黒で華奢な少女であった。
で、あるにもかかわらず、不可思議にみられるような独特な嫌悪感を催す雰囲気というのはないのにもかかわらず、たしかにやつは異常な挙動をとり、寄垣を流れる様にさらっていった。俺が手を出せることは、おおよそ何もなかったのだった。
———かと言って、何もできなかったからといって、何もしなかったわけではない。そのとき俺の身の回りには、徒花御咲や怪和崎鋏など、こうした事象を放っておかない奴等がいたのだから。出来るだけのことはやり尽くした。
――――――――――――――――――――—
時間は、寄垣を最後にこの目で見た、ショートタイム前の草薙高校に戻る。そうでなくてはならない。
「なんだって…! 琴梨ちゃんが⁉」
本日藤岡齋兜は欠席であるにもかかわらずなぜ校舎内のうろついているのか、という疑問を、できるだけ最小限にとどめようと迅速に、俺は、怪和崎の在籍する教室を訪れた。当然、この際御咲は昇降口前にて待機させている。
「…さほどの心配はいらない。今日中に見付けられるほどには安全性があるはずだ」
今思えば楽観的にもほどがあるのだが、しかし、殺人鬼であるのにもかかわらず目撃者をその場で殺さず、どうして攫っていくのだろうか。人質か。拷問か。いや、そんなはずはない。何らかの事情があっての行動なのではないかという考えだった。どうせ寄垣のことである。顔が広すぎるあまり、見合わせてみれば殺人鬼ともお友達だったのではないだろうか。
「それなら、今日中に見付けなくちゃあいけねぇよなぁ…! そうと決まれば得も言われねぇ、行くぞ!」
思ったらすぐ行動する。やたらと暑苦しい怪和崎が、真面目に授業を受けてから、だなんて判断を下すはずがなかった。
靴元を履き替える。
「……えっと…、誰? この子」
「徒花御咲だ」
「徒花御咲」
…初対面だったのか、怪和崎は俺を訝しむ。こいつは徒花御咲である。
「…あ、わかった、完全に把握したぜ。浮世離れした和服姿の女の子…リラスターだな! 齋兜、お前マジで見つけてたのか」
ご明察。
「私をその名で呼ぶな」
「なんだとお!?」
口調が安定しないな、こいつは。
「…行くぞ」
迅速かつ急速に、街の中心、西里通りの周辺地域へと俺達は脚を進めた。
「こうしてやみくもに走っているだけで、見つかるものなのかしら」
後を付けてくる御咲がふと指摘するように言う。…それに対して怪和崎は返す。
「なにも、ただ無計画に走ってる訳じゃあないぜ。御咲ちゃん。実を言うとな、俺は齋兜のように、君のような存在、つまり、不可思議の為の特殊なソレを持っているのさ。…ソレを使うつもりだ」
怪和崎のそれと御咲が同種であることは初耳である。ならば、三十五振り存在するうちの一つ、ということなのだろうか。………。
「丁度、このあたりでいいかもな」
怪和崎が続ける。俺達は、草薙高校を下り、街で二番目の神社、阿僧祇八幡宮と呼ばれるこじんまりとした神社の、そのふもとの公園に通りかかっていた。
たいして何もない公園である。つまり、モスト・ベストな地形。
しかして当の御咲はというと、同族と断言される存在の発動に対し、これといった興味は抱いていないようだった。
そして、怪和崎はその銘を唱える。
「…群遊肆刀」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます