「唸る」

……………。


 ひとまずの目的地は、草薙高校だった。依然変わりなく後を付けてくる御咲と供に、柵を越えて踏み入ると、早足で校舎周りを確認して回った。その中、やっと耳に入るほどの声量の、中年男性かと思われる叫び声が聞こえた。…寄垣ではない。しかし、おそらく何事か起こっているのであろうということはおおよそ察しがつくようだった。さらに脚を早くする。


「遅かったか」


「…藤岡くん⁉ なんでここに…」


校舎裏の倉庫かと思われる小さな建物の入り口で、寄垣琴梨が立ち尽くしていた。


「質疑応答は後だ。今のはなんの悲鳴だ?」


「それが…そこに……」


口吃くちどもる寄垣が凝視する方に目をやると、それだけでわかるようだった。

 単純な話である。悲鳴の主の男が倒れていた、という。…しかし、それだけではなかった。黒を基調としたファッション。ワイシャツに黒のボレロ、そしてやはり黒を基調とした格子模様のスカートに、夏だというのに厚手のタイツ。おそらく寄垣は考えも無しにすぐさま扉を開けたのだろう、すぐさま犯行現場に駆けつければ、犯人が逃走する暇もない。早くも連続殺人事件の首謀者を見つけてしまったらしい。


「つ…」


……ウウウゥン‼


さて暴力に訴えるべきかと御咲を呼ぼうとするや否や、唸る様な音を立て、殺人鬼はグロテスクに染まった大きな武器を振り向けてきた。先手を取られたことに後悔しつつも咄嗟にかわすと、そいつは勢いに任せて寄垣の元へ。


「!……。」


衝動的に振り向けば、そこには徒花御咲しか残されていなかった。


「……連れていかれてしまったようね」


目的を果たしそこなった。…さて、これからどうしたものだろうか。




本作品にはモデルとなった実際の人物や地名が存在しますが、

この作品はフィクションであり、実際の人物、団体、事件等には一切の関係もございません。


【第六話 おわり 第八話へつづく】

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