「魔刀」
……………。
「——————ぬぅん‼」
どういう訳かその刹那、刀身の錆びが引いてゆき、あっという間に、美しいとも形容できる、透き通るような刃となっていた。そして、
「塩焦万刀ォ‼」
そう唱え、…否、叫びながら左上段の構えに移行すると、刀身が赤く、禍々しい閃光を放った。そしてそのまま、師匠は巻藁に向かってリラスターを振るった。
すぱあんと、なんの抵抗もなく二つに分けられた片割れはぼとりと落ちる。原理は分からんが、今のように唱えればリラスターはその本来の能力を発揮するらしい。
元より刀が人の姿を取ったりするのだ、レギュレーターに関することで、もはや疑問は持たない。…しかしなるほど、驚異的な兵器である。
師匠が肩を落ち着けると、リラスターも次第に勢いを失ってゆき、最終的には再び錆びに刀身を包む。ぼこぼこの刃を鞘に納める。
「……と言った感じだ。出来そうかい?」
言いながらリラスターを放ると、床板と激突するより前に同じく花びらが舞い、
舞い散ったところでそこには御咲がいた。
「…誰もやるとは言ってねえ」
「ほお、いいのかい? やらなかったらこの子は離れてくれないと思うぜ」
「………。」
…大方のアテが付いていなかった訳ではない。…『陸酉華眉の件で、要警戒と判断されているから』俺から離れないのなら、陸酉華眉を消せばいい。そうすればこいつは俺から離れると。そう言いたいのだろう。それが、最も手っ取り早い方法だと、言いたいのだろう。…
「嫌なこったな。相手は上級も上級の不可思議事象だ。時間がかかりすぎる。他にやらせてくれ」
「うーん、おっさんは陸酉華眉をやれだとか一言も言ってないんだけどね…、齋兜、おまえはそんなに戦いを嫌う男の子だっけ?」
「…。」
「ははん、分かった。怖いんだな。壊れてしまうのが。無感情という底辺にとどまって、何も考えないことで守られていた、自分の空間が壊れるのが。おっさんには分かるぜ。…レギュレーターは、ある時は感情を受け取り、ある時は戦いに必要な感情をユーザーに与える。おまえの中に、ストレス的な闘志が流れ込み、それに振り回されそうになったのが、それが怖かったんだろう? …ああ、可哀想な齋兜だねえ、
極めて滑稽で見ていて泣いちまいそうだよ」
分かっている。弄ばれているのだ。俺には、こうして煽るのが丁度良いとでも思っているのだろう。…相変わらず。相も変わらず。むかつく野郎だ。こいつさえいなければと、どれだけ思ってきた事だろうか。
「…黙れ」
「はは、ごめんかったねぇ、おっさんに悪気は無かったんだが」
白々しい事を抜かす。いい加減俺は行くぞ。
「あ、そうだ」
この流れで、これまたわざとらしく言い出した。
「昨日、おまえがここを紹介した、寄垣琴梨ちゃんって子、…いたろう? あの子さ、ぶっちゃけ才能自体はあるけど、好奇心が強すぎてね。気になることがあったら、首を突っ込んじまう性格のようだ。…だからさ齋兜。あの子、多分すぐに死ぬよ」
「……。」
だからなんだ。馬鹿は死ぬとき死ねばいいだろう。そこに俺が介入するような、面倒なことはしたくない。
「そこで師匠として、そして師範としての命令だ。今の時点であの子の様子を見に行ってみなさい。真面目な子だろうから、休まず学校には行っていることだろう。もちろん鋏がいるから大丈夫とも言い切れないからさ。…さあ。行け」
「…はー…。」
「…。」
常温の床を歩く。しばらくだんまりの御咲は後を付いてくる。靴を履き直すと、
振り返りながら中指を立てた。
「…っはっはっは」
大層ゴキゲンな様子だ。
「行ってきまーす」
「…お前は黙っていろ」
※本作品にはモデルとなった実際の人物や地名が存在しますが、
この作品はフィクションであり、実際の人物、団体、事件等には一切の関係もございません。
【第五話 おわり 第八話へつづく】
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