「影響」
……………。
向かうべきは、道場だ。俺が今日は高校に行っていないということ、
それから、徒花御咲、リラスターについて、伝えるべきことがある。
…昨日、「先に神社に向かえ」という指示は聞けたのに、どうして今日「別行動をとれ」という命令が聞けないのか。俺は考えた。どうやら陸酉華眉の暴挙を学習してしまったからだというのがあるようだ。「ここにいろ」という指示に対し、「『しかし』、今は陸酉華眉の影響がある。自分を置いて外出するのは、かなりのリスクが伴うだろう」という反論が成り立ってしまう。もっとも、陸酉がいなかろうとついて来るはあったようだが。
しかし、昨日はその件を知らなかったので文句もなしに単独行動を受け入れた。
…くそ、ニュースなんてもの見せなければよかったものを。つい孤織と事件について言葉を交わしてしまったのも失念だったな。
――――――――――――――――――――――—
道場の戸を開けると、師匠は窓際で煙草を吸っていた。
「おや? 齋兜じゃないか。うぇーい。どうしたんだいこんな時間に。
あ、ひょっとして学校休んだのか? オイオイよくないなぁ。こういうのは」
「誰のせいだと思ってんだ」
「…んー、 心あたりが無いな。いかんねぇ。
齋兜が学校を休んでしまうようなこと、おっさんはしたっけな?」
言いながら、灰皿に擦り付けて煙草の火を消す。道場で喫煙とは、師範のくせにマナーがなっていないな。…否、それどころではない。
「…とぼけんじゃねぇ。間接的な問題だ。こいつに付きまとわれていちゃあ、高校なんて行っていられない」
後ろの御咲を突き出した。
「……齋兜のとこはどうだい?」
「…は」
「別に、何とも言えないわ。よく分からなから。でも、神社の中に仕舞い込まれているよりは、よっぽどマシじゃないかしら」
…蚊帳の外ってわけか。丁度いい。
「お前のとこにこいつを預けて済むのなら、俺はもう帰って高校に行くぞ」
「あーあー。ごめんかったね。齋兜。そういうわけには行かないよ」
「その言葉はもう疑いを認めてるんじゃないのか」
師匠は背を向けて、巻藁の置かれた場所まで歩いて行く。
御咲も後を付いて行く。……こうなってしまってはどうにもならん。
話だけ、聞いて行くことにした。
「この
「……
「別におっさんだって得したりしないよ。この子はね、…いや、『レギュレーター』ってのはね。いわゆるオカルト愛好家、中には海外の人間だって、喉から手が出るほど欲しがるような代物なんだぜ。譲ってやるってことをむしろ喜んでくれ」
「だから、そうされたところで損しかしねえんだよ。どうしたらこいつが俺から離れるか教えろ。それだけだ」
そう言うと、師匠は座り込んだ。…そして、口を開く。
「…リラスター。その語訳は、『再び錆びる者』って意味だ。動詞の『rust』が『錆びる』の意味だからね。」
「私をリラスターだなんて呼ぶなって言わなかったっけ?」
御咲が高圧的に首を傾げて言う。無表情だが。
……いや、よくこんなに綺麗にしかと出来るな。何を言い出すんだいきなり。
「…まあ、こういった、レギュレーターの英名ってのは、他の物にも付けられていてね。…総じて、その能力を元に付けられているそうだ。そしてリラスター。こいつは——」
「むー」
割り込むように御咲が音を発する。師匠は気にも止めず続ける。
「こいつは、再び錆びるのが能力だ。どういう意味だとなるかもしれないが、…これに関連するのがその能力だ。塩焦万刀『赤鰯』。本当の効果を発する時、斬れないものはこの世にない。しかしその発動後にも、必ず赤鰯———つまり、錆びて使い物にならない刀に逆戻りしちまう。そんな一連の流れに皮肉を込めて、歴代の使用者がつけたのがこの名前だよ。…今から使い方を教えてあげよう。御咲さん、頼む」
「承知」
昨日のように花びらが舞ったように感じると、気が付けば、師匠が刀となったリラスターを持っていた。
そして、驚くほどスムーズに鞘から抜くと、中段の構えを取って巻藁へ向いた。
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