「拡散」

……………。


 事情がどうあっても、学生は平日には学生服を着るべきだ。

 袖を通すと、既に孤織が起きているであろうリビングへと向かった。


「おはよう。…お、御咲ちゃんも一緒か」


…付いてきているのか。意外でもないが。


「おはよう」


 ソファでコーヒーを飲む孤織の後ろにある食卓の、朝食が並べられている椅子に腰を掛けた。今日は和食。明日はおそらく洋食なのだろう。


『では、次のニュースです。』


 テレビの中で、話題の一段が抜き出される。


 画面に目を向ける。


『きょう未明、G県H市、神岡町の道端で、心肺停止状態の60代とみられる男性の遺体が発見されました。市内の病院に搬送されましたが死亡が確認されており、要因は胸を強く刺されたような傷があり、他殺とされています。警察は男性の身元の特定と、容疑者の詮索を行っています。またおとついには、本日発見された男性と酷似した外傷のある、それぞれ成人男性の遺体が見つかっており、犯人は、特定の条件の男性を連続で殺害しているという見解がなされており——————』


「はああ、やってくれたな・・・」


かろうじて聞こえるほどの声でそう呟いたのが聞こえた。


「…齋兜君」


真剣な目、「仕事の口調」で孤織は言う。


「ああ。…」


「……。」


 御咲は無表情のまま、「きっ」と画面を睨んでいた。


 おそらく犯人は不可思議事象。


 連続殺人事件とも称されるこの一件。不可思議が絡む事件で報道が入るのは、意外にも今までなかった。…つまり、事態はそれほどに深刻だとも言える。

 幸い、と言ってはなんだが、武器である御咲に付きまとわれている今だ。

今日を費やして、御咲と、何らか手掛かりを追えればいい。…今日はそうしよう。そうして、御咲を俺から引きはがす方法が分かれば本望だ。…箸を置く。


「孤織…、今日は高校に行かずにこの事件を追おうと思う。

学校に連絡を入れてくれないか」


「おっけー、 御咲ちゃんがついて来るんじゃあしかたないものね。その代わり、死者も出ているような事件だという事を忘れず、警戒を怠らない事。御咲ちゃんが危ないようなことにならないようにする事。気を付けて取り組みなさい」


「ああ」


「ヨシ! 学校には、急な習い事の用事が出来たので休みますとでも伝えておくわ」


 俺はリビングを出ると、部屋に戻らずローファーに足を通し、そのまま手ぶらで外へ出た。若干だが涼し気な風が顔を煽る。登校するにしては、少し早すぎる時間だ。


「行きましょうか」


「…指図するな」


 まだ夏だとは言えないか、そんな時期だな。

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