「人間のようなそれ」
……………。
「——はあ……。」
瞼を開けると、改めて、頭が重くなる。
「おはよう」
「どうしてここにいる?」
正直予想は付いていた。ここにいろと言っても家までついて来るようなやつなのだから枕元に立たれてもおかしくない。しかし全くその通りの事をとは…逆に、思いもよらなかったな。
俺は、そこにいる異色の少女を除き、毎日と同じように一日を終えた。夕食を済ませ、風呂に入り、高校の課題などをして、いつも通り床に着いた。しかし、とうの御咲は、孤織からの人間扱いとは裏腹に、とうとう食事を口に入れることは無かった。
「私がしなければならない事のために私はあなたと一緒にいるべきです。 だからあなたは永遠にそしてどこでも同じ場所にとどまるべきです。 でなければなりません」
おそらく言いたいことがねじ曲がっているのだが…おそらく、こいつの道具としての性質上、使い手として一度信頼してしまった俺に、常に同じ場所に居るべきだと言っているのだろう。間違っても俺が拘束される訳じゃない。
…ただ正しくない。ここはひとつ、一喝してやるべきか。
「お前その口調、いい加減どうにかならないのか」
「トーン? 何かおかしいのかな」
「文法の組み立てがおかしい。まるで再翻訳でもしたようだ」
「マジですか。日本の言葉はウルトラ難しいぜ」
たとえ再翻訳だとしてもその発言はおかしい。
「いや、何か、お前自身で変える事はできないのか? そんな話し方じゃあ、人間の中に溶け込むとしてもあまりにも都合が悪いだろ」
そもそも衣装の時点で随分浮世離れしているが、
口調までおかしかったらいよいよ不審者である。
「私は自分で話します。 ユーザーであるあなただけがもっと知っています」
…いざとなれば俺頼みのつもりなのか。
一度使った程度で『ユーザー』などと馴れ馴れしく呼びおって。
「…俺にはおそらく正しい事を教えてやるなんてことはできないが、
…そうだな。とりあえず孤織の喋り方でも真似ておけ。そのほうがお前に合っているだろう。命令だ。孤織の真似でもしておけ。それだけだ」
「できないことは何もありませんが、それは障害です」
「…可能ならば試してみてほしいのだが」
「障害です」
「……ユーザーとしての命令だ」
「………は、何その言い方。私、人に命令されるの嫌いなの」
何を言い出すんだ? …と思ったが、
「ひょっとしてそれ、孤織の真似のつもりか」
「うん!」
昨日の今日でこいつ、どうして孤織が「おジャ魔女どれみ」を好んで視聴していたことと、その台詞を知っているんだ…。 しかも結構マニアックな。
「まあ、いい。いくらか気色が悪くない」
俺が言うのもなんではあるが、人間の格好をしているやつは、可能な限り人間らしく感情豊かにしていた方が心を不快にさせないと思う。存外、俺のような人間でも、『人間とは、人間の様であるべきである』という心情もなくはない。
御咲は人間ではないが、これでいいのではないだろうか。
…しかし、人の事を考えるよりも、自分にとってつらい環境に移行しているということに気が付いてしまった。
「なあ、お前…。俺が学校に行くと言ったらついて来たりしないだろうな」
「ダメなの? もちろんそのつもりだけど」
…単純明快なものだった。もちろん連れていける訳がない。
その程度の常識は、俺にだってある。…さて、どうしたものか。
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