「赤い彼岸花」
……………。
心残りはあるものの、自分のすべきことを放置してまでではない。
水光神社の拝殿へと上った。
「……。」
人の形に化けていようと、所詮は道具ということなのか。
自分の意志をもってどこかへ行ったのではないかという心配もいざしらず、
植物のような佇まいで突っ立って、…そう、待っていた。
例えるならばその様子は、夕日によく似合う、赤い彼岸花。……否、赤くはあっても、彼女の場合、髪に咲くのは百合の花だが。
「リラス………いや、御咲」
こいつは人間の名前で呼ばれたいんだったか。長い間待たせていたのだ、少しでも機嫌が良くなればいいのだが。
「あなたはついにここにいます。どれくらい待ちますか?」
…どうやらお怒りのようである。
「…俺は、この下の、師匠…斥納のいる道場に来るように、言ったつもりだった」
「道場…。それはなんですか?」
…こいつ、知らないのか? ともすれば、こいつは今まで一体何を。
「お前、今までどこで何をしていたんだ?」
「私は、ここであなたを待っていました」
「そうじゃない。お前は、今日たまたま俺に見つけられるまで、どこにいたんだって、聞いているんだ」
「だから、私がここを訪れてから、この神社であなたを待っていました。永遠に」
「永遠に?」
師匠はたしか、こいつの存在を知っていたはずだ。そう、怪和崎の伝聞で聞いたのだから。……『リラスターには気を付けるように』…だったか。
そうなると、その警告も虚しくこいつを握ってしまった訳だが、…おそらく師匠は、こいつを、リラスターを、俺を弟子として迎える以前から所持していて、それでいてリラスターは、この神社の本殿のどこかで放置されていたのか。あくまでも推測ではあるが、こいつの意味不明な言い分から、そんな風に解釈が出来る。
「しかし、喚起されて私は動き出しました。適合するユーザーを捜し始めたのです」
「…いや、それ以前に、…お前は斥納に連れられてここへやって来た。そうか?」
「ええ」
「お前に似たようなものは、存在するのか」
「有る。三十五スイング、存在」
三十五。三十五振りか。……危険だな。……。
「お前はどういった存在なんだ」
「
「何で出来ている? 仕組みを教えろ」
「わかりません。知りません」
「…………そうか…質問はそれだけだ。今から道場に…
…いや、俺は帰る。そのまま、…もといた本殿の中にでも戻るといい」
特に理由などないが、リラスターに対する興味と供に、寄垣への違和感も、不思議と失せた。これも、あれに対する何か。疑問が解消された所で、どうというわけではないだろう。
「どうして? 連れていくべきです」
「…………はあ」
勝手な奴め。孤織がなんと言うだろうか。
――――――――――—――———————————————————
「うーん……ペットとかならまだセーフなんだけど、女の子はちょっと…。」
日が落ちた頃、徒花御咲を連れて口釜邸に帰宅した。どうやら孤織は、俺が買いだしから帰り、再び外出した直後ほどに帰宅していたようで、既に家にいた。
「……こいつ、神社の本殿で寝泊まりをしていて、行く当てが無いんだそうだ。連れてってくれと頼むもんだから、断ってもどうせ付いて来るんだろうし、連れてきた。あとは孤織がなんとかしてくれ」
「うーん……そっか。ねえわたし? あなた浴衣を着ているのね。もう初夏の時期よ? 暑くないの?」
「浴衣は私達のユニフォームです。暑くありません」
何言ってんだこいつ……。
「えっと、海外からやって来た
「多分違うんじゃないか。日本語はヘタだが」
「むー……」
言語能力を馬鹿にすると、ふてくされてしまう。まあ、浴衣というのは読んで字の如く本来薄着なものだし、暑いと思っている孤織の方がおかしいのかもしれない。
「うーん。まあ、齋兜君に似たような
ちょっとの間なら、ここで面倒見ようかしらね」
うむ、連れてきてしまった俺が言うのもなんだが、少々面倒なことになってしまった、ということに気付いた。心底後悔するばかりである。
「でも、開いてる部屋がないわね。とりあえず今日は私がソファで寝れば済むとして、ずっとそれじゃあ私が困っちゃうわよね。あとごはんも」
「私は必要ありません」
「そういう訳にもいかないっつーの! 人間、食べもん食べなきゃ死んじゃうのよ」
「孤織、こいつは……」
人間じゃあないのだが。
「いーいから! もうお夕飯時よ。準備手伝って!」
ああ、……面倒だなあ。
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