「勝手に危険な初仕事」

……………@


 色々あったりしたが、結局登校時に遭遇することはなく、校門をくぐった。


「じゃあ、俺の教室こっちだから」


「あ、はい」


「何か異常があったら、いつでも言ってくれ。」


「……ありがとうございます!」


どうも、頼もしい限りです。


 ………となる、三分前。まさにわたしは、その不可思議事象と存在を発見したにも関わらず、あまりにも絶妙なタイミングに、口を開けずにいた。不可思議をその目に刮目していながら、逃がしてしまったのだ。

……というのも、正直に言って、「あれは本当に不可思議事象だったのだろうか」という疑念が、最後まで捨てきれずにいたからだ。未だ、本当にあれが不可思議だったのか、それともただの人か、わからない。なぜなら、先日わたしが目撃したナミちゃんの、一目で不可思議だと分かる、その、オーラ…いや、禍々しさと言った方が正確だろうか、その悪鬼たる風格をみせる雰囲気を、先日ほどは感じなかったからだ。


 目に入ったのは、ナミちゃんではなかった。真っ黒い、女の子。高級感のある服装で、黒いボレロに白いブラウス、さらに格子模様の黒いプリーツスカート、さらに真っ黒な、この夏、暑くないのかといった感じのタイツを履いた、しかし肌色はというと健康な、中学生ぐらいの小さな女の子だった。校舎裏へ走り去ってゆく。


「それじゃ、また放課後、来れたら昨日の道場まで来てくれ。そこで落ち合おう」


「はい」


 と言って、物分かりの良い子の振りをしながら教室には行かず、靴に履き替えて校舎裏へと回った。…この時は、ただの杞憂のつもりだったのだ。

ただちょっと確認だけして、なんでもなかったことに肩をしょんぼりさせながら帰り、朝のショートタイムに間に合うつもりだったのだ。

 しかし、…結果的に言って、ショートタイムに収まらず、午前中の授業を、説明できない理由で欠課してしまうことになる。



 女の子の走り去った後を追い、校舎の角からのぞき込むと、暗い影の中、外見からして学校の倉庫かと思われるものがあった。そして、明らかにそこから、バタバタ、ドタドタ、と、物音がする。心なしか怯えるような呻き声も聞こえる気がする。


「…………?」


人がいる。


 ど…どしようか。鋏先輩を呼びに行って、戻ってきたらもう事態は収まっているかもしれない。かと言って、バイオレンスな物音に、戦闘能力の著しく低いわたしがここに突入していって、無事に生還できるとも思えない。……どうする…どうする…


「ゥウ…ゥアァァァ!!」


 まずい。突っ立っていたら、争いに決着がついてしまいそうだ。……ん?…耳を澄ますと、何を言っているかはわからないが女の子の声が聞こえる。男性の苦しそうな呻き声と、冷静な女の子の声。……いや、なんだか、もの凄く帰りたくなってきたぞ。…関わってはいけなかったかもしれない。何とは言えないが、これ以上踏み込んだら後悔するような気がする。

 音をたてないように踵を返そうとする。…と、


 突然、小さな窓が、バシャリと割れて何かが付き出した。真っ黒な、何か。長い、槍のような武器が窓を破って顔を出す。と同時に、わたしは確信する。女の子、…先ほどの全身黒い服を着た女の子は、おそらくこの学校の先生だろうか、中年の男性を、殺害しようとしているに違いないと。


 そう判断したのが早いか遅いか、わたしは瞬時に駆け出して、ドアノブに回転をかけてすばやく開けた。


「…大丈夫ですか!?」




※本作品にはモデルとなった実際の人物や地名が存在しますが、

この作品はフィクションであり、実際の人物、団体、事件等には一切の関係もございません。


【第四話 おわり 第八話へつづく】

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