「フライデー・エンカウント」

……………@


 話に区切りがついた。

 そしてこれより先は、また明日の話となる。


なにしろ話をしていただけで、すっかりどっぷり、日は落ち込んでしまっていた。なにしろわたし達は、放課後、そのままナミちゃんの詮索を始めたのだから、まだ制服姿だ。いくら田舎町といえど、これは、駄目だろう。…しかし、今は六月、夏至のある月、一年のうちでもっとも日が長い月のはずなのに、よっぽど長話をしていたみたいだ。もちろん、それ以前の東奔西走で時間がつぶれたことも大きかっただろうが、今となっては意味のある散策だった…はずだ。…しかしわたし、よく死ななかったなぁ。一日三体のペースで化け物が出現するこの街で、二時間近く歩き回って出くわさないとは。ひょっとして、エンカウントもできなければ、不可思議退治なんて向いてないんじゃないのかな?


…今更だけど。


 ともかく、わたしが一人暮らしをしているアパートへと帰り、学生として最低限自宅ですべきこと、具体的には課題だとか、時間割を合わせたりだとかして、夕飯に関しては適当に冷蔵庫の中のもので済ませて、

早々に、明日のわたしへとバトンを渡した。


 そして受け渡されし本日は、金曜日。不可思議事象のことを考えると、明日は休日なんだとか言って、うきうき気分で登校できるわけにもいかなかった。


 わたしの住まうアパートの近所には、市立神岡中学校、街で唯一の中学校がある。当然、ここはわたしの母校ではないが、学校が近くにあるということもあって、仲のいいご近所さんで、中学生のお子さんのいる人もいるのでその印象は深い。ひょっとしたら悩みも多いであろう彼女らの相談に乗ることも、そのうちあるかもしれない。


 余談はさておき、わたしはアパートの階段を下りて、草薙高校へと出発した。


「お、来たな、琴梨ちゃん」


 若干印象が付いた車道沿いに通りかかったとき、その印象がいらっしゃった。


「…鋏先輩?」


おそらく定着して良いのだろうという呼び名。


「ああ。…君、結構登校早いんだな。その可能性もあると思ってして早く来てみたが、それでも今来たとこだ」


「…はい、まあ、そうですね。…金曜日ですし?」


「そうか、そうだったな、もう金曜日だ」


 言っておくと、我が草薙高校は、金曜日が特別日課だとか、週一で朝会があるとか、ましてや本日わたしが日直だとかいったことは、断じてない。自分で言ってみてもよくわからない理由だが、ハートで会話すれば、これでも伝わるハズだぜ‼

……なんとなく一緒に歩きはじめたが、ハッとして問いかける。


「……えっと、たしか登校をご一緒する予定はなかったはずですけど、何か用事でもあるんですか?」


「ああ! …外ほっつき歩いてて陸酉とバッタリしても、俺がいなきゃあ危険なだけだしな。…あと、君はもう『メンバー』の新しいメンバーなんだ、ちょっとはご親睦を深めた方がいいかと思ってな。嫌だったか?」


「いいえ! とんでもないですよ、歓迎してもらえて嬉しいです!」


「そりゃたすかる」


「いえいえ。……ところでさっき、「『メンバー』の新しいメンバー」って言いませんでした?」


「言ったな」


「……違和感、ありません?」


「ああ……。」


触れてはいけないことだったのかな。ダウナーに答える。


「それ、俺も思ったわ」


「あはは…、そうでしたか…あの、」


「言わんとすることは分かる…。いい加減、メンバーを『メンバー』と、安直に呼ぶは、やめよう。…ただ、その代わりに」


「? …なんでしょうか」


「いや、なんのことはない。…ただ、組織名、君が考えといてくんない?」


「…わたしが⁉⁉」


「こういうの考えれそうな人、今の『メンバー』では君ぐらいしかいなんだ……」


「えぇ⁉ もっと向いてる人っているんじゃないんですか⁉ お師匠さんとか、それこそ、先輩が考えたっていいのでは…」


「俺はともかく、師匠が提案した名前、…聞きたいか?」


「いや……、いえ、聞くだけ聞いてみる事にします、言ってください」


「『』」


「ジュニアサッカーのチーム名かっ‼」


それっぽい。あってもおかしくない。もしくは、「オリュンポスズ」なんて言うと、若干のプロチームっぽさもあるだろうか。


「な? そうなんだよ…もちろん俺も命名センスなんてないから、そうなるとどこにも名付け親は居ないもんで、もう一人、三年の裟神ってやつの提案で(仮)という事にして『メンバー』って呼び合うことになった…んでこうなってるわけだが、どうだ、考えてくれるかな?」


「…か、考えておきますね」


「まじで⁉ いやー、助かる! 思いついたら教えてくれよな」


 注釈すると、考えておきますね、はほとんどの場合綺麗さっぱり忘れるやつの台詞である。


「そういえばさ、琴梨ちゃん」


「ん、はい、なんでしょう」


「昨日、組織に入る云々みたいな時にゲームみたいだって言ってたよな、たしか」


「え、ああー、そうですね、言いましたね、たしか」


 内心ぎくり。心にもないことを言った時の台詞を後になって食いつかれるとは。事実、わたしは『ゲームボーイアドバンス』で『なかよしペットシリーズ』の『かわいい子猫』をやったことが一番印象に残っているほどのゲームやらない人間だ。


 それにしたって今ではもう出来ない。現在はこんな生活を送っている身だ、ゲームがあればやりたい放題なのだが、あいにく叔母さんからは生活資金を想定した量しか提供されていない。それだけでもありがたい限りではあるが、テレビゲームとか、携帯ゲームとか、買うお金はない。ただ、一切興味がない訳でもない。

 据え置き型のゲームはなくてもテレビはあるのだ、これに限っては頻繁に、バラエティ番組だとか、深夜アニメだとか、うんたらロードショーとか、サブカルチャーには触れあっている。なので、その派生で一般的なゲームの知識がないわけでもない。


…しかし、鋏先輩がゲームで食いつくとはなぁ。


「俺もさ、ゲームとか結構やるんだよ、…主にテレビゲームとかなんだが、まさか琴梨ちゃんみたいな子もやるんだとは思わなかったよ、いやー、意外な共通点ってやつだ……。」


「ハハ…そうですね、意外でしたかぁ~?」


いや、なんか、どうしよう。頭が真っ白だ。


「おお、もう、意外も意外、偏見だけどさ、琴梨ちゃん、親御さんとか厳しそうじゃん?すると、ゲームとかはあんまやんないかなーってさ」


「そ、そうですか…?そんなことないけどなー…」


両親はいないんですよ。


「うん、そんな感じだ。偏見ってのは案外的外れなもんだな。いや、…ごめんな」


「いえー、気にしないでください、あはは」


「ああ、…ところでさあ、琴梨ちゃんはどういうゲームやったりするんだ?」


 来てしまったか…。ここは、適当に人気ゲームの名前でも…いや、やったこともないゲームを提示すると、無いとは思うが先輩とゲームをするような機会があるかもしれない時、嘘がばれてしまう。そう、嘘つきは弱いのだ。となると、正直にやったことのあるゲームを言うしか…。


「……………えーっ…と…?」


…一体、『かわいい子猫』が好きな女子高生は、どうして不可思議退治にゲーム性を見出したのだろうか。それを知る者は、誰もいない。


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