第五話「嫌悪感と刀の朝」

「水光神社に内包される道場生の皆々」



……………。


 徒花あだばな御咲みさき

表情筋の死滅した、色の薄い髪に真っ赤な百合の飾りをした和服の少女の名前だ。

 

 彼女こそ、もっともフォーカスを当てられるべき存在である。


 何故か。それは、彼女の本質にある。

 自分を「レギュレーター」と名乗る…刀。もしくは太刀、鎧通し、

 一振りの武具が、どういうわけか人間の姿を模っているからだ。


 これによってこの街に現れる化け物、「不可思議事象」はあまりにも自然に、その実体を滅ぼす。言うなれば、「物騒な除霊道具」…とも言える。

 不本意ながら俺は、「リラスター」。これの使用者となった。

 憶測だがこれは俺の師匠、斥納罹刻せきのうりときが元々所持していたものであり、それが「徒花御咲」となって逃げだし、町を闊歩していた所に偶然行き会ったようだ。何故ここにきて突然逃げ出すような事をしたのかという事はあるが、何はともあれ「不可思議」を手早く処理できる戦力が手に入ったことは素直に大きい。


 時を同じくして意識に入れるべき人物として、近頃言葉を交わしたクラスメート、

寄垣よりがき琴梨ことりという女子がいる。

 彼女は現在街で異常発生する不可思議の大元とみられる上位の不可思議、「陸酉りくとり華眉はなみ」、奴と交友関係を持っていたことがあり、したがって今後不可思議事象という存在を知ってしまう可能性が高い。


 それだから、俺はは彼女に師匠の場所を明かした。


 なにも、「わかっていて」ああ言った訳では無い。

 俺は師匠のことを「わかっている」つもりだ。

 師匠は、基本的に簡単には弟子をとらない。ましてや師範に対する師範代など、補佐的な人物もいない(孤織はあくまでも協力者であり教え人ではない)。

 そして、ときたま迎え入れられる弟子について。これはそう頻繁にしているものじゃない。だから、世間一般的な、習い事のような道場とはまた違い、たった四人の少数精鋭制度とでも言うのか、俺達意外に弟子は居ない。


 だから、師匠の寄垣琴梨への勧誘は、初の一般人の参加に繋がることになる。別に記念すべきことでもないが、とても珍しいことだ。それこそ師匠の考えに、さらなる裏があるのではないか、と疑ってしまう程には。


 やつがなぜ寄垣琴梨を認めたのかは、わからない。どうして彼女のような運動神経の無さそうな人間を選んだのか。だけれども、…そんなことはどうでもいい。


 誰であれ、勝手にしてくれと思う。

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