「父との会話」
……………@
喫茶店を出ると、わたしの住むマンションとは逆方向に足を向けた。
ポケットから携帯電話を取り出し、数回ボタンを押す。
「…もしもし、お父さん?」
『琴梨、久しぶりだね。声を聞きたかったよ』
「いや、そんなに久しぶりじゃないでしょう? 一日ぶりぐらいですよ」
『僕にとっては退屈なのさ。だから今、声をかけてくれてすごく嬉しい』
「ははは」
『最近はどうかな? 琴梨。勉強はちゃんとやってるかい?』
「それは、昨日も聞かれた気がするんだけど…」
『ありゃ。そうだったかなぁ。そういえばそうだったような気もするな。全然やってなかったんだよね?』
「必要最低限の事はやってるよ!?」
『そうかぁ、それは偉いねぇ、親として誇らしいなぁ』
「ほんとにそう思ってる?」
『思ってる思ってる。何てったって、私のかわいい娘だからね』
「納得いかないです…」
『納得してくれよ。誇らしいと思っているのは本当さ』
「じゃあどっかからかは嘘なの!?」
『嘘なんて人聞きの悪い。じゃあそうだね、父親としての名誉挽回を図りたい。なにか相談したいことはあるかな?』
「そんな事急に言われても…。…あ、それなら、聞いてくれる?」
『心あたりがあるのか。悩みがあるのは悲しいことだけれど、怪人が現れないとヒーローが退屈なように、悩みが無いと話も聞けないからね。いいよ。悩みね。なんでも話してくれたまえ』
「じゃあ…。ナミちゃんなんだけど、今、どこに居るか分かりますか?」
『…陸酉華眉、いよいよ動き出したのか。…でも、琴梨には教えたくないなあ』
「聞いてくれるって言ったのはお父さんじゃん…。お願い、お父さんなら見つけて貰えるかと思ったんですけど」
『ははは、おいおい、買い被らないでくれよ。僕は神様じゃないんだよ?』
「だよね、そう思った。じゃあ話し方を変えて、質問なんですけど、どのあたりに居るかもとかありませんか? お父さんの意見と予想を聞きたいな。絶対に見つけてあげたいから」
『そうだね、あげたいのかぁ。……琴梨と同い年の女の子となると、考え方は似ているかもしれない。相手の立場になってみな。君が何らかの理由で行方を暗ましてしまうなら、どこへ行くと思う?』
「いやいや、行方を暗ますって言っても、どんな理由かなんか、分かんないんですよ? 誘拐かも、単なる家出かも、わかんない」
『僕の意見を言わせてもらえばね、その子は被害者という立場ではないと思うな』
「どうしてですか? なんの確証も、結局なんの情報も得られなかったのに」
『そりゃあ、まあ直感さ。他のなにものでもない。だけど信用していい』
「お父さん、なんかその言い方だと怪しいよ?」
『あっはっは、そうだねぇ。でも大丈夫。今まで僕の話を聞いてきて、大丈夫だったろう? なら信用してくれ。安心してくれよ』
「はいはい。ごめんごめん、信じまーす。それで?どこに居ると思うの?わたし、急いでるんだけど」
『うむ、…ほんとは自分で考えてほしかったんだけどね。実の娘の願いだ、快く受け答えてあげようか』
「それで? どこ?」
『その子はきっと、…琴梨。お前に、かなり依存している。だから、お前が歩いてる今だって、ずっと後をつけているかもしれないね』
後ろを振り返って、お前が歩いてきたところを見直してみなさい、
と、お父さんは言った。
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