「いらいらしてくる」
……………@
「…同情するよ」
「え?」
重苦しく、一層姿勢を低くして、それは辛そうに、先輩は言った。
「君は、あくまでも彼女とは同級生の関係だ。一日の半分を彼女と過ごそうと、どれだけ親しかろうと、毎日食う飯も違えば、帰る屋根も別だ。…他人なんだよ」
「…それがどうかしましたか」
「俺自身では無いが…同級生が学校に来ない時の不安は、わかるよ。」
「………。」
「でもな。残念なことに君と彼女は何度会話を交わそうと他人にすぎない。彼女が本当に心を開こうとしなかったのならなおさらだ。だからさ、陸酉さんの事は、俺に任せてくれ。俺が、見つけ出してみせるよ。だから…」
…違う。
「質問に答えてください」
「…。」
「わたしはナミちゃんについて先輩が知っていることを聞いたつもりです。その質問に、答えてもらえませんか? …何故先輩もナミちゃんを探しているのか、そもそもナミちゃんは何者なのか…を」
「…いや…。陸酉華眉は…その…俺に任せてくれ」
「真面目に答えてもらっていいですか!」
ええい、もどかしい。自分からは散々質問しておいて、わたしから質問した時には都合よく答えないつもりなのか?
「どうしても教えてほしいんです!」
「……どうしても知りたいのか? 陸酉さんの現在について…。今」
「ええ。今。だから、教えてくださいと言っているでしょう?」
「…本当に?」
…いらいらしてくる…。なぜそこで曇らせる? 陸酉華眉は何者なのか、そこで答えなければ、わたしの不安は膨らむばかりだ。まるでナミちゃんが、そこで答えることを躊躇わざるを得ないような存在みたいじゃないか? この人はどこまで知っている? 何を知っている? そんなに教えることをためらう様な情報を、この人は持っているのだろうか?
「もう一度言いますよ!現在行方不明のわたしの友達について、先輩の知っていることを教えてくださ…」
ピロロロロロロロロロロロロロロロロロロ————————————————。
ここぞという所で、どこからか着信音が鳴った。鋏先輩のものである。
「すまん……。」
立ち上がる。……いや。電話なら仕方ないもんね。どうぞ出てください。
「もしもし?…ああ。今ちょっと立て込んでるんだが…、後に…」
………。いや、聞き耳を立てるのはやめよう。早めに終わりそうな会話だけれど、電話の向こう側から聞こえてくるのは女性の声だ、触れない方が先輩のためかもね。
「……そうか。…それは急用だな」
…あれ、急用って言った? これ、エスケープされちゃう感じ?
「わかった。すぐに行く。連絡助かった。お前はお前の方の対処、頼んだぞ」
「あ、ひょっとして…」
「すまん。ちょっと急用が出来ちまった。機会があったらまた話を聞きたいからさ、それだけちょっと考えといてくれないか」
両手を自身の眼前で合わせる。この先輩、最初からわたしの質問に答えるつもりなんて無かったんじゃないだろうか…。おそらく緊急事態であることはわかっていてもそのように疑ってしまう…。ここで回答を放棄されて、わたしはどうなってしまう? …不安で仕方ない。これからどうすればいいのだろう。
「え、ええ」
「…会計はしておくから」
言って、急いで走って行ってしまった。
「あ…ありがとうございます…。」
しばらくして、わたしもカフェを出た。ごちそうさま、美味しいコーヒーだった。
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