「先輩との回顧」
……………@
秋姫ちゃんとは、家のある方角が微妙に違う。そのため、ある路地まで来ると、そこで別れることになったいる。これからは一人。本格的な捜査が始まる。
…などと気負っていると、
「なあ、そこの君。たしか陸酉華眉さんと仲が良くなかったか?」
「え?」
おかしいな、と思った。多くの生徒の通学路となる道路にて、下校中と考えられる方向とは全く逆に歩いている生徒がいた。その違和感は次第に大きくなっていき、やがて通りすぎようと言う時、わたしよりも背の高い、三年生の先輩だろうかと思われるその人は、ついにわたしに声を掛けたのだった。
「俺は三年の
「……え、ええ、はい、華眉ちゃんとは、よく話してました」
「やっぱりそうだよな。俺は、訳あって陸酉さんを捜しているんだが、…軽く質問したいんだけど、ちょっと、時間あるかな? そんなに取らせない」
言って、親指を横に立てる。…これと言って断る理由もなかった。
「ご協力感謝。そこらへんで腰を落ち着けて話そう」
そうして連れられて来て数分後、わたしは小さなカフェでくつろいでいた。
「ふあ……」
「……」
入るなり、大きな欠伸をする先輩。
「~すまん。ちょっと寝不足でさ」
「そうですか……ひょっとして、陸酉さんを捜して夜遅くまで?」
「当たらずとも遠からずだな。同じようなことだよ」
「そうなんですか…」
「それじゃあ、本題に入っても良いかな」
「ああ、はい」
「俺が聞きたいことは、全部でみっつある。みっつ、君の知っていること、その全てを教えてくれ。もちろん教えたくないことが有るなら教えなくてもいいが、ゆっくり答えてくれ。俺は正確な情報が欲しい」
正確な情報か…、緊張するなあ。
「よし、じゃあまず、ひとつめだ。君と陸酉華眉さんとは、いつから友達だった?」
…『だった』と。ナミちゃんが現在行方不明なのは承知済みのようだ。
「…高校に入った時です。あの子、周りより少し浮いてたんですけど、わたしから話しかけて行ったら心を開いてくれて。それからは二年連続で同じクラスなのでそのまま仲良しのままでしたね」
一年前の春の事だった。
「…そうか」
……正直、相手は先輩で、しかも男性なので、正直怖い気持ちがしない訳でもない。なんというか、テンパっちゃうな…。
この先輩、何故かすっごい渋い顔してるし。思案顔、とも言うのだろうか。
「えっと………何か問題が?」
「ああいや、なんでもない。じゃあ、ふたつめの質問だ、聞いてくれ」
「はい」
「君は…「陸酉さん自身」について、どこまで知っている?」
「……えっと」
なんて答えればいいんだろう。
「プライバシーについては考慮してくれて構わない。最低限の家族構成、住所……君が教えてもいいと思えるものを俺に教えてくれ」
…わたしが教えてもいい華眉ちゃんのこと………。
「…えっと、すいません。正直言ってあんまり大したことは知らなくて…」
「何でもいいんだ。知っている事を何か…」
「うーん…」
「何でもいいんだ!」
「…スリーサイズならなんとか」
「それは教えてくれなくていい!」
「そうですか…」
「プライバシーを考慮してくれ!?」
「別に教えるとも言ってないですけどね」
……………。
…実際の所、スリーサイズすら知らない。知っているのはその性格、見た目、情緒…。一緒に過ごして分かる事、その程度だ。もはや、何も知らないと言って過言ではないと思った。わたしにとってはそうだ。そうなってしまう。
「しかし…。そうか、それ以外何も知らない、か」
言って、姿勢を戻す先輩。
「まあ、そうだろうな」
「どういう意味ですか?」
「ナミちゃんさんはよ、ひょっとして、君に対して住所だったり家族だったり、そういう私的な情報は何も教えなかったんじゃないか?」
「…言われてみれば」
言われてみればその通りで、初対面の会話における謎地雷のひとつ、「どのへんに住んでるの?」を聞いてしまった事があったが、話題を変えられたのを覚えている。その時は『聞かれたくないんだろうな』と思っていた。
しかし今となっては状況が状況、立派な推理素材となってしまい、自然とあの時のあしらいが何やら意味を帯びていた様に見えるのが嫌だ。
あの時、ナミちゃんはどんな気持ちでいたのだろうか。
どのような事情で自分についてを隠さなくてはならなかったのだろうか。
わからない。わかるのが怖い。友達が…なにか、隠しているとしたら。
…それが何なのか。怖くてたまらない。
「まあ、君は気にしなくてもいい。今はそんなに考えなくていいんだ。
それよりも、今はみっつめの質問に答えてくれないか」
「……。」
「…君は、今現在で陸酉さんの事を、どう思っている?」
まさにという、そんな時だった。
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