「通りすがりの正体不明」
……………。
ひとつ。…たったひとつだけ、過去の話をしよう。
俺が近辺のスーパーへ向かう道中。”その生徒”と仲の良い女子が前から歩いてきた。あいつは誰だったかと思い出そうとした時、そう、連想的に思い出したのである。たしか、寄垣。…そう、
いつも、”彼女”とつるんでいたはずだ。
二年二組の
「あ、藤岡君、奇遇だね。あのさ、ちょっと聞きたい事があるんだけど…」
…彼女の質問を放棄しても、かえって不安感を煽るかもしれない。
「お前、たしか陸酉華眉と仲がよかったよな」
「あ、うん?…うん」
「…悪い事は言わない。諦めたほうがいい」
「…え?」
「陸酉は、家庭の事情かもしくは…別のなにかで他の町に行った可能性が高い。お前のような親しい人間への挨拶のひとつも許さないほどに、厳しい両親なのだろう。もう一度お前が会える可能性は低い」
『こちら側』に巻き込まないためだった。この件に関しては、一般人が触れられる了見ではない。こいつがあの化け物とどれだけ親しい仲にあろうと、適当な嘘を刷り込む。それが最も正しい選択のはずだ。
「藤岡君、もしかしてナミちゃんのこと何か知ってるの?それなら、どうにかして私をあの子に会わせられないかな?お願い」
「もう一度言うぞ。あいつは家庭の事情で他の町へ行ったんだ。気の毒だが、もう会えない」
「じゃあ、…」
…寄垣は、俺から目をそらし、しかし俺にむけた、確たる意志を持った瞳で、もういちど唇を開いた。まるで、喧嘩の際の言い訳のように、ではあれはなんだったのかと、不満げな表情で。
「…私がさっき見たナミちゃんはなんだったの?おとついいなくなったのに、どうしてさっき会ったの?」
そう言った。会ってはならない人物を、見てしまったと。
——どうやら手遅れらしい。こいつは既に、入り込んでしまっている…。
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