「功利的で合理的なあいつ」
……………。
地に足が着かない。ここにいる実感がわかない。
そう感じながら、俺はこの街で生きている。
『
山に囲まれているためとても狭く、川が流れ、歴史や近代科学が交錯する街。
一見何もないように見えるこの地域には、夜が来て、そして朝が訪れる。
…だが俺は、こんな俺は、”戦う”ことを余儀なくされている。
この街には、この街にだけ出現する、特別な化け物がいる。
死を受け入れず、諦めない存在。恨みでもって人を殺さんとする怪物。
しかしその心の内を決して語ることはない、正体不明の現象。不可思議な現象。
…人呼んで、『
俺をこの街に連れて来た孤織は、ある男を介してあれらと戦うことを強制した。
戦える。まだ戦える。斃せと言われた相手を斃す、それだけでいい。
誰にも認められなくていい。誰に褒められても気にしない。
それだけでいい。…
***
「……」
道端でバッタが死んでいる。
流れていく川面には、ちらりと魚の背びれが見える。
坂を下っていく。
放課後、高校からの帰り。日が傾き掛けていた。
淡々と歩き、梅雨にも入らないために曇る事もない
歪みかかった青空を頭上に仰ぎながら、街の隅にある、小さな家に辿り着く。
からからと、古めかしい横開きの扉を開ける。…
「おーう齋兜君。おっかえりー」
どうやらどこかに出かけるらしい、ある程度身なりを整えた孤織がいた。
「ああ。・・・なんだ?」
「『なんだ』って?」
「その格好、出かけるんじゃないのか」
「あぁ、まあね。ちょっと。
まったく、こんな時間に野暮なもんだあね」
夕方のアニメでも見るつもりだったのだろうか。
「俺は行くべきか?」
「んー。できれば来てもらいたいんだけどね、面倒くさくってお夕飯の買い出しがまだなのよ。 あそこ、財布と買うものリスト置いといたから、ちょっち、行ってきてもらえないかしら?」
孤織は玄関扉に手を引っ掛けながら指を指して、片目を瞑った。…
「わかった」
「うん!助かるわ!やっぱりこういう時に齋兜くんは役に立つのよね!」
『こういう時』以外は役に立たないみたいな言い方するんだな。
…そうつっこむ間もなく、孤織は出て行く。追って通学鞄を置いて俺も外へ出た。
「……」
「…あいかわらず、その仏頂面は変わらないのね」
既に路地まで出ようとした孤織は、振り返りながら言った。
「俺は…、俺の生きたいように生きている。お前の言うように」
彼女には聞こえない。
「……」
…なんでもない。なんだってない。何を気にすることがあるんだ。
もう一度、俺は学制服のまま外へ出た。…それだけだ。
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