第四話「サディスティック・ディストラクション」

「知る権利」

……………@


「わかりました。…入隊させてください。」


 神岡という小さな町で、随一の大きさを誇る町の神社、水光みずみ神社。ここには、お正月や秋祭りなど、街を出歩く機会の少ないわたしにも何度か訪れる機会がある。


 …紆余曲折あってわたしが辿り着いたのは、斥納せきのう罹刻りときなる人物の居場所だった。水光神社の本殿より少し外れた、小さな道場。はて、道場。なんで道場。まあ、道場というのだから、ひょっとすると何か武道を教えているのかもしれない。…そりゃそうか。


「ウィー、きっぱりしてるね。面白い」


よっぱらいのような口調と供に称賛の声。


「なぁ、いいのかよ、琴梨ちゃん…? 今の、聞いてたか? 冗談じゃないんだぞ。奴らは冗談じゃあないくらい…強いんだぜ。君を巻き込みたくなかったんだが」


 そう言って、鋏先輩は気にかけてくれるが、物怖じすることはない。


「たしかに、お化けは怖いんですけど、それを斃すことに魅力を感じて…。なんていうか、その…、ゲームみたいで…、良くないですか!?」


「……。」


 怖くないわけではないが、正体不明といえど、その正体を知ってしまえば怖くない。教えてもらえるのならば、尚更、怖がることはないのではないか。


「まあ…それならいいんだが」


 この街には、どうしてか「不可思議事象」と呼ばれる、言わば妖怪変化の類が生まれやすくなっている。その原因究明と対処のため、地方からやってきたのがこの人、斥納さん。一人では対処しきれない数と判断した斥納さんは、ここ神岡町の人間を弟子入りさせ、不可思議退治という目的を遂行している。…とのこと。


 そしてついさっき、偶然わたしがナミちゃんに遭遇したことを聞いて藤岡君はこの場所を教えてくれた訳だが、別にアポがあった訳ではないらしく、…訝しまれてしまった。…しかし、わたしがここまで来てしまった以上、カフェで引き延ばした説明は、これ以上引き延ばせないだろう。

ふふふ。


「…おれはこの街に住み始めて五年経つが、君のような人材は始めてだな」


「えへぇ、そこまでですかぁ?」


鋏先輩や、藤岡君よりも才能あるってこと???


「そうは言っても琴梨ちゃん、結構…この仕事は危険なんだぞ? 取り返しのつかない事になる前に、考え直した方がいい!」


「案ずることはないよ。ちゃんと手順は踏ませるさ」


どうやら歓迎はして頂けているようで、話も落ち着いたので、

いよいよここへやってきた本来の目的を、切り出す時だろうか。たじたじと。


「あの、改めて、加入ついでの依頼というか…頼みなんですけど、今、わたしの友達が消息不明で…不安なんです。皆さんで捜索したり…とか、できませんか?」


「ああ、ああ。……陸酉、華眉さんだろ?」


「———…!」


 そうか。鋏先輩がナミちゃんを捜していたのだから、この人も知っていて当然。鋏先輩には理由を聞く事が出来なかったが、このお師匠さんならば、どうしてナミちゃんを捜しているのか、教えてもらえるかもしれない。…理由なんて、そこまでこだわることでもないかもしれないが。


「どうして探りを入れているのか、か。そんな事言われてもなあ、——これは、おっさんたちの生業なりわい。いつもやっている事、やるべき事をやらせてもらっているだけだぜ?」


「え? あなたの仕事は妖怪退治なんじゃ…」


「あ、ちがうちがう。妖怪じゃなくて不可思議事象。おなじようで、まったく違う」


「そ、そうなんですか」


 こまかいなぁ。


「そう。普通の妖怪ならまだいいんだけどさ。この街の不可思議事象は、いわば伝染病だ」


「伝染病?」


伝染。すると…、


「身内の人達…斥納さんや、鋏先輩も、不可思議事象になる可能性ですら、あるって事ですか?」


「いや、そういう意味の感染ではない。ゾンビじゃあないんだから。……いや、あながち間違っちゃいないか。ごめん」


「え?」


「不可思議に人間の共通点はね。「自分の生涯」に対する後悔だ。だから、もし我々があれらに殺された場合、その死因に後悔でも持とうものなら自らが不可思議になっちまう。」


「…そうやって数が増えていくんでしょうか」


「いんや、必ずしも知性を持つ生き物が死ぬことで不可思議が生まれる、という事例ばかりとは限らないぜ。何もない所から、生まれも育ちも不可思議事象として生まれる事もある」


ここでわたしは違和感を感じ取った。


「ちょっとまって下さい。どうしてそんなに、…その、そのこと、不可思議事象について知ってるんですか? いくら陰陽師で、怪奇現象の専門家だからって、そんな、不可思議自身しか知らなそうなことを…知っているんですか?」

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