1-2
競り合っていた二者ではない。会場の後ろで上がった声に客たちは
一人はがっしりとした長身の
もう一人は、こんな場所に似つかわしくない、上品な身なりの若者だった。
髭男がジュラルミンケースを開けると、帯付きの札束が整然と
舞台上も客席もしんと静まり返る。
「二千万ある。数えてくれていいぞ?」
「にっ !? ……こ、これ以上の金額はいらっしゃいませんね?」
予想外の額に、司会役が上ずった声で落札を宣言した。客席からのどよめきとブーイングの声は同じくらい。……これで、リタは彼らに買われた、ということになるらしい。
ハンチング帽の青年が
目が合うと、彼はにっこりと笑った。
(……
明るく
その耳元に、青年がスッと顔を近づけた。
「……きみ、走れる?」
どういう意味だろう……?
不思議に思いつつリタは
青年は微笑んだ。
「いい子だ。――ちゃんとついておいで!」
(え?)
ぐいっと手を
青年に引きずられるような形で舞台の階段を
「待て! そいつ、アルバート・ロレンツィだ!」
アルバート・ロレンツィ?
聞こえてきた名前を
フロアを
こもっていた煙草の
「急げ!」
二人から
訳もわからず地上へ出る。雑然とした、
「追え! 逃がすな!」
背後から聞こえる怒声と足音。
(ど、どこに行くの? なんで追いかけられるの?)
混乱するリタの身体を、振り返ったアルバートが力いっぱい引き寄せた。
「っ!」
パン、という
アルバートの
(血、が)
ベストごと肩の部分が
(今の、
ぐちゃぐちゃに混乱した思考をかき消すように、再び銃声が響いてリタは身をすくませた。道を
追っ手に当たったのか、ぎゃあっと
「
髭男がアルバートの肩を
「
「ん。先に行ってろ」
短いやり取りだけで、アルバートはリタを連れて
聞こえてくる
――
今さらながら
舞台の上では他人事のようにしか感じられなかったのに、今、リタの身に降りかかっている危険はすべて現実だ。
何もかもあきらめていた。
捕まって、売られて、もうどうでもいいやとさえ思っていたのに、今さら――今さら、 死ぬのは怖いと思った。
「
行き止まりにしか見えない場所で、アルバートはフェンスに手をかけた。ここを
「登れる?」
アルバートの背よりも高いくらいだが、登れなくはない。
頷きかけてリタは思いとどまった。
(でも、この人についていって
さっき会ったばかりの
そんな迷いを見抜いたアルバートが、ダークグリーンの瞳をリタに向けた。
「……僕はきみを助けにきたんだ。信じて」
視線をずらすと、リタを
(この人を信じていいの?)
迷ったけれど、……信じたい、と
上部を
「飛んで。大丈夫、ちゃんと支えるから」
伸ばされた手を取る。リタはフェンスを蹴った。
南から
――わたしはここを出ていく。勇気を出して飛んだ身体は、思いのほか軽かった。
その身体を、アルバートが地上で支えてくれる。
「港まですぐだ。行こう」
再び駆け出したアルバートは、もうリタの手を引かなかった。引かなくても、リタが自分の足でついてくると確信したのだろう。
どうしてアルバートについていくのか、リタ自身もよくわからない。
買われたから?
助けてくれたから?
……それだけでは言い切れない。
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